決闘シュミレーター 3
ジミ子の試合が終わり、姉ちゃんがクジを引き、次の組み合わせを決める。
「ええと、弟ちゃんと、杉野くんね。2人は前に出て」
杉野くんと呼ばれた人は、僕より一回り小柄だが、肩幅があり、ガッチリとしていて強そうな感じだ。
試合が始まる前に、杉野くんが、姉ちゃんに確認をする。
「すいません。自分は柔道部なんスけど、このスーツを着ている相手は、ぶん投げても平気ッスか?」
すると姉ちゃんはこう答える。
「大丈夫よ。衝撃吸収の機能があるから、5メートルくらいの高さ落ちても平気なの。あと、間接が変な方向に曲がらないように安全装置もついてるから、関節技とかも思いっきりやっちゃって平気よ」
「ウス、分かったッス」
そう言って、杉野くんは両手を開き、肩くらいの高さに上げて、掴み掛かるような体勢を取る。
とても強そうで、格闘技が素人の僕には勝ち目がなさそうだ。
僕もそれとなく戦う構えを取ると、姉ちゃんがスタートの合図をする。
「それじゃあ、弟ちゃんと杉野くん、ファイト!」
試合開始と共に、杉野くんがススッと間合いを詰めてくる。
宇宙人の防御服は完璧だ。僕のパンチごときで、相手にダメージが届くことはないだろう。思いっきり振りかぶって殴ってみる。
「えいやぁ!」
大きく振りかぶったパンチを、杉野くんは下をくぐり抜けるように避けて、そのまま伸ばした手を捕まれて投げられた。視界がぐるりと回り、気がつけば寝転んで天井を眺めてる。
「大丈夫ッスか?」
杉野くんが僕に声をかけてきた。
「うん、大丈夫。全然、痛くなかったよ」
「では、続きをやるッス」
そう言って、僕を引き起こしてくれた。杉野くんはかなり紳士的なようだ。
立ち上がり、少し距離を置くと、再び姉ちゃんの声が掛かった。
「では、仕切り直しでファイト!」
「パンチは小ぶりいい。数を当てていけ」
ヤン太が僕にアドバイスを飛ばす。これは役に立ちそうだ、小さなパンチを心がけてみよう。
続いてジミ子も声援を送ってきた。
「殺意よ、殺意が足りないわ。殺すつもりで行けば勝てるわ!」
どうやら、胸が小さいと言われた事を、まだ恨んでいるようだ……
僕がペシペシとパンチを繰り出す。力がこもっておらず、まったくダメージを与えていない。しかし、相手にとっては、かなり邪魔そうで、間合いが詰められないようだ。
この猫パンチみたいな攻撃は、やがて破られる。杉野くんがパンチを気にせず突っ込んできた。そして僕を掴み、強引に投げようとする。
「ムニュ」
杉野くんの手元が狂い、僕の胸を鷲づかみにした。
「す、す、す、すいませんッス! けしてわざとでは……」
杉野くんが全力で謝ってくる。明らかに故意でないので、僕はそこまで気にしない。
「うん、分かってるよ。戦いの続きをしよう」
「も、申しわけないッス……」
再び試合を再開するのだが、杉野くんの動きが別人のように硬くぎこちない。そして、一切、攻撃をしてこなくなってしまった。
こうなると、僕が一方的に攻撃をするだけなのだが、僕の低くすぎる攻撃力では攻めきれず、時間切れで引き分けとなる。
「引き分けよ。それぞれの自陣に戻って」
姉ちゃんに言われて、それぞれの仲間の元に帰る。
「パンチに腰が入ってなかったな。今度、パンチのやり方を教えようか?」
ヤン太が僕に言ってきた。
「うん、機会が会ったら頼むよ」
それを聞いていたキングが、話に割り込んでくる。
「俺たちはこの後、すぐに試合になるんだが。簡単で、すぐに効果が現われるようなアドバイスとかあったりする?」
キングに聞かれると、ヤン太がやり方を説明してくれる。
「まあ、そうだな。パンチはこんな感じで、腕の力だけでなく、体重を乗せるような形で……」
僕らがパンチの話題で盛り上がっているなかで、下巣高校のメンバーは他の話題で盛り上がっていた。
「すっげぇ柔らかくて、弾力がものすごかったッス。今でも手に感触が残っているッス」
「いいなぁ、俺もあんな胸のデカい子を相手にしたかったなぁ」
どうやら僕の話で盛り上がっているようだ。幸運な事に、ジミ子はヤン太の講座に夢中で、あちらの話は聞えてなさそうだ。もし聞えていたら、再び修羅場になっていただろう。




