表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

546/567

決闘シュミレーター 2

 山奥の廃墟のような体育館で、姉ちゃんが僕らに言い放つ。


「これからあなたたちは、殴り合いのケンカをしてもらいます。生き残れば、賞金が出るので、頑張って生き延びて下さい」


「な、なんだって。俺たちは殺し合いをさせられるのか……」


 下巣(げす)高校の白木(しろき)が、真面目な顔で、ツバをごくり飲んだ。姉ちゃんと付き合いの長い僕らは、これが冗談だと分かっている。



「姉ちゃん、冗談はそれくらいにして、本当は何をやらせたいの?」


 僕が聞くと、姉ちゃんはこう答えた。


「本当に殴り合いをしてもらうわよ。ただし、安全面に配慮して、これを着てもらってね」


 ロボットが、機動戦士ガソダンに出てくるような、スリムな宇宙服のような物を持ってきた。



「姉ちゃん、これって何?」


 僕が聞くと説明をしてくれる。


「これは、耐衝撃機能の備わった服よ。格闘をしやすいように動きやすくしてみたの。とりあえず、弟ちゃん着てみてよ」


 ロボットに手伝ってもらって、分厚いウェットスーツのような服を着て、ヘルメットをかぶる。服はかなりゆとりがあり、楽に着る事ができた。



 僕が服を着終わると、姉ちゃんが指をさしながら説明をする。


「腕の部分にスイッチがあるでしょ。今は『off』になってると思うけど」


「うん、『off』になってるね。他に、『初級モード』と『上級モード』ってあるけど、これは何?」


「とりあえず『初級モード』にしてみて、『上級モード』はまた後で説明するわ」



「じゃあ『初級モード』にしてみるよ」


 スイッチを動かすと、服がキュッと引き締まり、体にぴったりとくっついた。姉ちゃんが僕に聞いてくる。


「どう? 動きづらくない?」


 試しに少し動いてみる。服は体にへばりつくくらいに密着しているが、伸び縮みする素材のようで、問題無く動けた。


「うん、大丈夫だね」


「そう。じゃあ、これで殴ってみるわね」



 姉ちゃんはどこからか角材を取り出して、バットを持つように握っている。


「えっ? ちょ、ちょっと……」


 驚いて動けないでいると、姉ちゃんの角材がブゥンと音を立て、僕の腕を打ち抜いた。

 バチンと大きな音がするが、衝撃は少し押されたくらいの感覚で、ほとんど伝わってこない。


「痛った……くはないね。大丈夫だよ」


「そうでしょう。ちょっと続けて殴るわよ」


 そう言って姉ちゃんは腕を殴り続ける。



 10回くらい殴っただろうか、姉ちゃんの息が切れてきた。


「はぁはぁ、まあ、このくらいで良いでしょう。弟ちゃん、殴った方の腕を動かしてみて」


「うん。あれ? 関節が硬くて、腕が曲げられない。まともに動かせないよ」


「ダメージが蓄積してくると動かせなくなるわ。つまり、殴り合って、そのうち動けなくなった方の負けという訳よ。これは模擬格闘用(もぎかくとうよう)のスーツだからね」


「「「おおー」」」


 姉ちゃんが自慢気(じまんげ)に言うと、周りからどよめきが起こった。姉ちゃんはますます得意気になる。



 全員が服を着ると、いよいよ格闘が始まる。とりあえず、下巣高校と僕らの高校から、1人ずつ出て戦う方式となった。

 姉ちゃんがクジを引き、名前が呼ばれる。


「ええと、大島(おおしま)くんと、ジミ子ちゃん、前に出てちょうだい」


 下巣高校の大島くんという人は、かなりデカくてパワーがありそうな感じだ。一方、ジミ子は小さくて非力。どう見ても勝ち目は無い。



 大島くんは、前に進み出ると、ジミ子を挑発する。


「こんな小さなヤツじゃ相手にならないな」


「なによ。やってみないと分からないでしょ」


「いいや、分かるぜ。どうせ戦うんだったら、キングさんや、さっきの胸の大きい子がよかったな。こんなに小さいと……」


 そう言って、ジミ子の胸を見つめる。


「な、何ですって! 何が小さいですって! キイィィ!」


 試合開始の合図を待たずに、ジミ子は飛びかかった。そして顔面に一撃を加える。



「うぉ、前がみえねぇ」


 そういって大島くんがよろけてコケた。姉ちゃんが遅れて説明をする。


「そうそう。目の辺りに攻撃がヒットすると、ヘルメットが白く(くも)って見えにくくなるから、注意してね」


「ふおぉぉぉ、誰が小さいですってぇ!」


 倒れた大島くんにジミ子が馬乗りになり、何度も何度も顔面を殴りつける。


「うぉ、まってくれ、参った、参ったから」


 大島くんは降参するのだが、ジミ子は聞く耳を持たず、殴り続けた。



 白木くんが、ヤン太にボソッと言う。


「おっかねぇな、あの子」


「ああ、お前も発言には気をつけろよ」


 大島くんのヘルメットが真っ白に曇り、中が全く見えなくなると、ようやくジミ子が止まった。

 ここで試合終了となる。



 試合が終わると、下巣高のメンバーから、こんな会話が聞えてきた。


「やべぇぞ、狂戦士(バーサーカー)がいるぞ」


「一番、弱そうな見た目だったのに、他にどんな猛者(もさ)が居るんだ」


「俺たち、生きて帰れるかな……」


 下巣高の人たちは、何か僕らを勘違いしているようだった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 喧嘩なれしてる人達は加減を知っているけど、ジミ子は切れて殴り続けた感じですかね。 まじこえー
[良い点] これ後日談が面白いやつだ でもこれ総合格闘技とかの判定で便利そうね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ