決闘シュミレーター 2
山奥の廃墟のような体育館で、姉ちゃんが僕らに言い放つ。
「これからあなたたちは、殴り合いのケンカをしてもらいます。生き残れば、賞金が出るので、頑張って生き延びて下さい」
「な、なんだって。俺たちは殺し合いをさせられるのか……」
下巣高校の白木が、真面目な顔で、ツバをごくり飲んだ。姉ちゃんと付き合いの長い僕らは、これが冗談だと分かっている。
「姉ちゃん、冗談はそれくらいにして、本当は何をやらせたいの?」
僕が聞くと、姉ちゃんはこう答えた。
「本当に殴り合いをしてもらうわよ。ただし、安全面に配慮して、これを着てもらってね」
ロボットが、機動戦士ガソダンに出てくるような、スリムな宇宙服のような物を持ってきた。
「姉ちゃん、これって何?」
僕が聞くと説明をしてくれる。
「これは、耐衝撃機能の備わった服よ。格闘をしやすいように動きやすくしてみたの。とりあえず、弟ちゃん着てみてよ」
ロボットに手伝ってもらって、分厚いウェットスーツのような服を着て、ヘルメットをかぶる。服はかなりゆとりがあり、楽に着る事ができた。
僕が服を着終わると、姉ちゃんが指をさしながら説明をする。
「腕の部分にスイッチがあるでしょ。今は『off』になってると思うけど」
「うん、『off』になってるね。他に、『初級モード』と『上級モード』ってあるけど、これは何?」
「とりあえず『初級モード』にしてみて、『上級モード』はまた後で説明するわ」
「じゃあ『初級モード』にしてみるよ」
スイッチを動かすと、服がキュッと引き締まり、体にぴったりとくっついた。姉ちゃんが僕に聞いてくる。
「どう? 動きづらくない?」
試しに少し動いてみる。服は体にへばりつくくらいに密着しているが、伸び縮みする素材のようで、問題無く動けた。
「うん、大丈夫だね」
「そう。じゃあ、これで殴ってみるわね」
姉ちゃんはどこからか角材を取り出して、バットを持つように握っている。
「えっ? ちょ、ちょっと……」
驚いて動けないでいると、姉ちゃんの角材がブゥンと音を立て、僕の腕を打ち抜いた。
バチンと大きな音がするが、衝撃は少し押されたくらいの感覚で、ほとんど伝わってこない。
「痛った……くはないね。大丈夫だよ」
「そうでしょう。ちょっと続けて殴るわよ」
そう言って姉ちゃんは腕を殴り続ける。
10回くらい殴っただろうか、姉ちゃんの息が切れてきた。
「はぁはぁ、まあ、このくらいで良いでしょう。弟ちゃん、殴った方の腕を動かしてみて」
「うん。あれ? 関節が硬くて、腕が曲げられない。まともに動かせないよ」
「ダメージが蓄積してくると動かせなくなるわ。つまり、殴り合って、そのうち動けなくなった方の負けという訳よ。これは模擬格闘用のスーツだからね」
「「「おおー」」」
姉ちゃんが自慢気に言うと、周りからどよめきが起こった。姉ちゃんはますます得意気になる。
全員が服を着ると、いよいよ格闘が始まる。とりあえず、下巣高校と僕らの高校から、1人ずつ出て戦う方式となった。
姉ちゃんがクジを引き、名前が呼ばれる。
「ええと、大島くんと、ジミ子ちゃん、前に出てちょうだい」
下巣高校の大島くんという人は、かなりデカくてパワーがありそうな感じだ。一方、ジミ子は小さくて非力。どう見ても勝ち目は無い。
大島くんは、前に進み出ると、ジミ子を挑発する。
「こんな小さなヤツじゃ相手にならないな」
「なによ。やってみないと分からないでしょ」
「いいや、分かるぜ。どうせ戦うんだったら、キングさんや、さっきの胸の大きい子がよかったな。こんなに小さいと……」
そう言って、ジミ子の胸を見つめる。
「な、何ですって! 何が小さいですって! キイィィ!」
試合開始の合図を待たずに、ジミ子は飛びかかった。そして顔面に一撃を加える。
「うぉ、前がみえねぇ」
そういって大島くんがよろけてコケた。姉ちゃんが遅れて説明をする。
「そうそう。目の辺りに攻撃がヒットすると、ヘルメットが白く曇って見えにくくなるから、注意してね」
「ふおぉぉぉ、誰が小さいですってぇ!」
倒れた大島くんにジミ子が馬乗りになり、何度も何度も顔面を殴りつける。
「うぉ、まってくれ、参った、参ったから」
大島くんは降参するのだが、ジミ子は聞く耳を持たず、殴り続けた。
白木くんが、ヤン太にボソッと言う。
「おっかねぇな、あの子」
「ああ、お前も発言には気をつけろよ」
大島くんのヘルメットが真っ白に曇り、中が全く見えなくなると、ようやくジミ子が止まった。
ここで試合終了となる。
試合が終わると、下巣高のメンバーから、こんな会話が聞えてきた。
「やべぇぞ、狂戦士がいるぞ」
「一番、弱そうな見た目だったのに、他にどんな猛者が居るんだ」
「俺たち、生きて帰れるかな……」
下巣高の人たちは、何か僕らを勘違いしているようだった……




