決闘シュミレーター 1
ハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥで雑談をしていると、ヤン太のスマフォの着信音が鳴る。
ヤン太はスマフォを確認して、ため息をついた。
「下巣高校の白木のヤツから連絡だ。またキングと会わせてくれってさ」
「まあ、週末だったら良いんじゃないか」
キングが軽く返事をする。
「わかったよ、適当に返事をしておく。はぁ、昔はヤツから決闘の連絡しか来なかったんだが、最近はこの手の誘いしか来ないな……」
ヤン太がため息交じりに言った。決闘とは、1対1のタイマンの喧嘩の事だ。ちなみにヤン太は女性になってからは、ほとんど喧嘩をしていない。
ミサキがヤン太に聞く。
「まだケンカとかしたいの?」
「ケンカじゃなくて決闘なんだが…… まあ、決闘はやりたいな。男同士の真剣な闘いはロマンだぜ」
それを聞いて、ジミ子が突っ込みを入れる。
「もう女子だけどね」
「……そこなんだよな。女になってからは、みんなやらなくなっちまった」
ヤン太がちょっと寂しそうに言う。確かにある種のロマンがあるかもしれない。
この後、ヤン太はお気に入りのヤンキー漫画の話を出してきて、そちらに話題が移っていった。
やがて時間が過ぎ、自宅に帰ると、姉ちゃんが発泡酒を飲んでいた。
「弟ちゃん、何か面白い出来事はあった?」
「特に何も無いかな」
「何かあるでしょ、面白い出来事。ほら、思い出して」
姉ちゃんが無茶ぶりをするので、僕は何とかネタを探し出す。
「え~と、そういえば、ヤン太が女子になってから、喧嘩をしていないって愚痴を言っていたけど」
「ふーん、なるほどなるほど、その話、もっと詳しく教えて」
姉ちゃんに言われて、ヤン太が男だった時の話や、白木くんとの決闘の話をする。すると、姉ちゃんがニヤリと笑った。
「今週末、暇だったりする? 新しいアミューズメント施設を思いついたから、白木くんも誘って遊んでみる?」
「うん、わかったよ。声をかけてみるね」
姉ちゃんが何かを思いついたらしい。僕はみんなに連絡をして、週末に未知のアミューズメントで遊ぶ予定となる。
週末になり、姉ちゃんの会社の前に集まった。僕ら5人と白木くんの友達5人。総勢10名の大人数だ。
「キングさん、今日もお美しい。さすがです」
白木くんが、早くもキングを褒めまくる。2人の距離が近くなったので、間にヤン太が割って入る。
「ほら、白木。キングが迷惑そうにしてるだろ」
「そんな事はないですよね。キングさん」
「あっ、うん。所で、今日はどこに行くんだ」
キングがあからさまに話題をそらした。とりあえず僕が答える。
「何か新しいアミューズメント施設を思いついたみたい。どんな施設かは、何も聞いていないけど……」
するとジミ子が大げさに言う。
「お姉さんの考案した施設だから、きっと素晴らしい物に違いないわ」
相変わらず、ジミ子は姉ちゃんの評価が高い。今回は大丈夫だろうか? 酔っ払って僕の話を聞いていたので、かなり不安だ。
ワイワイと騒いでいると、姉ちゃんが会社から出て来た。
「おはよう。今日は集まってくれてありがとうね」
姉ちゃんが姿を現すと、白木くんの友達が騒ぎ出す。
「おい、あの人って笹吹アヤカじゃないか?」「本当だ、テレビとかでよく見る有名人だな」
白木くんと姉ちゃんは面識があるが、白木くんの友人までは面識が無かったはずだ。
この状況で、なぜか白木くんが得意気に話し始める。
「笹吹アヤカさんは、ツカサくんのお姉さんなんだ。セレブたぞ、セレブ」
セレブと言われて、姉ちゃんが否定する。
「私は、そんなにお金は持っていないわよ。とりあえず移動するから、会社の中に入ってちょうだい」
会社の中に入り、いつもの『どこだってドア』で移動をする。
移動先は、山奥にある学校の体育館だった。いくつかの窓ガラスは割れたままになっていて、長年、使っていないみたいだ。
移動が終ると、姉ちゃんは人数を確認する。そして、次の瞬間、なぜかロボットがゾロゾロと出てきた。姉ちゃんは重々しく口を開く。
「これからあなたたちは、殴り合いのケンカをしてもらいます。生き残れば、賞金が出ますので、頑張ってください」
……姉ちゃんがとんでもない事を言い出した。




