人工知能の黎明期 6
「エヘヘ、いい使い方。思いついちゃった」
ミサキがニヤニヤと笑う。いったい何を思いついたというのだろう?
ミサキは自分の鞄を探し始めて、1枚の紙を取り出した。それは英語の小テストの用紙で、10点満点中、2点と、酷い点数がつけられている。
「相変わらず勉強ができないみたいだけど、英語は特に酷いわね」
ジミ子がボソッと言うと、ミサキが得意気に、こう言った。
「ふっふっふ。英語の成績が悪いのは今日までよ。これからすっごく勉強をするんだから」
「ミサキが勉強だなんて、どんな心境の変化があったの?」
僕が聞くと、ミサキは真顔で答えた。
「いえ、私は勉強しないわ。勉強するのは、私の生み出した人工知能の『ミサ子』よ」
訳の分からない事を言いだしたので、僕が聞き直す。
「『ミサ子』が勉強して、英語を学習しても、ミサキの成績は良くならないよね?」
「ええ、だから『ミサ子』に学習させるのはテスト問題の傾向よ。次のテストに出てくる問題を予想してもらって、私は答えだけを覚えるの」
ヤン太があきれながら言う。
「無理だろ。テストの問題の予測なんて」
すると、キングがスマフォを調べながら言う。
「いや、できるかも。AIに試験問題を予測させる方法は、学習塾が昔からやってるらしい。古いAIでも、問題の的中率が6割くらいらしいから、エイリアンの作ったAIなら、もっと精度が上がるかもな」
6割と言えば、かなり確立が良い。ミサキがやる気を出した。
「よし! 頑張って勉強するわよ『ミサ子』! まずは教科書をカメラで撮りましょう。その後は、今まで出てきた小テストの問題を撮って、過去問題の傾向から、これから出る問題を予測してもらうわ!」
教科書を熱心に撮影するミサキを見て僕は思う。その熱意を自分の勉強にあてればいいのに……
ミサキがテストの予測をさせはじめて、そこそこの日数が過ぎた。10点満点の小テストで、3点、4点と、次第に取れる点数が上がっていき、最近は6点くらいを取れるようになってきた。
「ふふーん、どうよ。私のテストの成績。今回も6点よ」
ミサキが勝ち誇ったように答案用紙を僕らに見せつける。あまり調子に乗られても困るので、僕が強めに言う。
「いや、凄いのはAIの『ミサ子』だからね。ミサキが凄いわけじゃないから」
「いいえ、テストを受けてるのは私なんだから、私が凄いのよ。そうそう、ツカサは何点だったの? 私が勉強を教えてあげようか?」
「僕は8点だったけど」
「……ああ、そうなの。まあ、そのうち『ミサ子』が上回ると思うから、その時には教えてあげるわ」
ヤン太がミサキのテスト用紙を見ながら言う。
「その様子だと、小テストだけじゃなく、中間テストも予想してもらうんだろ?」
「ええ、もちろんよ。この調子で『ミサ子』学習させていくわ」
キングが少し心配そうに聞く。
「でも、中間テストは小テストと違って、範囲がデカいだろ? 大丈夫かな?」
「大丈夫よ、80点くらい取っちゃうかもね」
ミサキが謎の自信を見せた。本当に大丈夫だろうか?
やがてテスト前日となった。
「明日は、開始時刻の30分前には登校しましょう。テストの復習をやっておきたいの」
「いいよ、じゃあ30分前に着くように家を出よう」
ミサキが珍しい事を言い出した。やはり、勉強が点数に繋がると、やる気が出てくるのだろう。
そしてテスト当日となる。
いつもより30分早く、家のチャイムを鳴らすと、ちゃんと出てきた。どうやら、きちんと起きていたらしい。
「さあ、行くわよツカサ。今日はバッチリなんだから」
そう言って、僕の手を引っ張って学校へと歩き始めた。
今のミサキは、努力と自信に満ちている。もしかしたら、今日はテストの点数で負けるかもしれない。
学校に着くと、ミサキはスマフォを取り出しながら言う。
「さあ、これから勉強をするわよ」
「ん? 『これから』って、昨日は勉強をしてないの?」
「ええ、広範囲の勉強なんてしても、一晩じゃ覚えられないもの。AIの『ミサ子』に予想をばっちりさせたからね。さて、問題と答えを確認しようかしら」
一晩で覚えようとしないで、コツコツ覚えていけばいいのに……
「ふがぁ! なにこれ!」
スマフォのアプリを立ち上げて、テストを確認しようとしたミサキが声をあげる。気になった僕は画面を覗き込んでみた。
『スマフォのストレージが一杯になりました。中間テスト問題の予測は中止されました』
スマフォのストレージの量は、そんなに多くはない。中間テストの範囲が広く、『ミサ子』がスマフォの容量を食い潰してしまったようだ。
「容量不足だったみたいだね」
僕が言うと、ミサキはあせった様子でスマフォを操作する。
「お願い! 全問は無理でも、せめて半分…… いえ、3分の1くらいは問題の予想がされているハズよ……」
『エラーが起こったので、計算は中止されました』
スマフォを操作するが、問題の予想は一切されておらず、エラーメッセージしか表示されない。
「ああぁぁぁ…… そうだツカサ! 勉強を教えて!」
「まあ、僕でよければ教えるよ」
この後、僕が勉強を教えて、ミサキは必死で覚える。
問題の予測と違い、全体的に復習をするのだが、30分という時間はあまりにも短く、途中で始業のチャイムが鳴った。
「始まるね。じゃあ、ミサキ、後は頑張って」
「ああぁぁ、うん、やってみる」
後日、このテストの結果が返ってくるのだが、ミサキの点数は赤点すれすれの31点だった。
かなり酷い点数で、これに懲りて、ちゃんと勉強すれば良いのだが、ミサキはこんな事を言い出した。
「よし! お父さんから使っていない古いノートパソコンをもらって、『ミサ子』を移植しましょう。ノートパソコンなら、ストレージの容量が多いから平気なはずよ!」
どうやらミサキはまともに勉強する気はないらしい……




