人工知能の黎明期 5
人工知能のアプリを入れて、数日が経った。
僕のAIは成長していない。それは、アプリを立ち上げると、質問攻めにあうからだ。
何も知らないAIは、全ての事を聞いてくる。丁寧に質問に答えていくのは疲れるし、つまらないので、僕はアプリを立ち上げなくなってしまった。
そんなある日の放課後、僕たちはキングの家で遊ぶ事となった。
みんなでゾロゾロとキングの家の中に入ると、部屋の奥から『大乱戦スマッシャーブラザーズ』で遊んでいる音が聞える。
「あれ? 他に誰か来てるの?」
僕がキングに聞くと、こう答える。
「他に誰もいないよ。まあ見てみれば分かるぜ」
そう言って、いつも遊んでいるリビングへと通された。
リビングに行くと『大乱戦スマッシャーブラザーズ』の対戦の真っ最中だった。ただし人はおらず、テレビ画面の前には、スマフォとノートパソコンが置いてあるだけだ。
ジミ子がキングに質問をする。
「これって何なの?」
「前回、AIを作って対戦させたろ。あれを見て思いついたんだ。もう1体、AIを作って、対戦を続けたら、強くなっていくんじゃないかって」
「それで、どうなったの?」
「それなりに強くなってるぜ。対戦してみるかい?」
「そうね、やってみましょう」
キング以外がコントローラーを握る。参加するのは、僕、ミサキ、ヤン太、ジミ子、あとAIの『キングJr』と『キング3世』の6名だ。
「ふふふ、全員、ギッタンギッタンにしてあげるわ」
ミサキがコントローラーを強く握る。かなりやる気を出しているが、ミサキはそこまでゲームは上手くない。
「ラウンド1、ファイト!」
「これでも喰らいなさい」
ゲームが始まると、ミサキは大振りの攻撃を連発する。これは、当れば痛いが、攻撃の間のスキが大きい。
すると『キングJr』が攻撃の合間を縫って、連続攻撃を叩き込み吹っ飛ばす。吹っ飛んだ先に『キング3世』が待ち構えていて、さらに追撃を加えた。
ミサキのキャラは、開始直後に体力の6割を持って行かれる。
この状況を見て、ヤン太がみんなに言う。
「ヤバいぞこのAI。ここは連係を取ろう」
僕が返事をする。
「分ったよ。いつもキングと対戦してるみたいにやれば良いんだよね」
「ああ、人間のチームワークを見せつけてやろうぜ」
人間4人とAI2体の戦闘が始まる。
僕とヤン太が、前後を挟み込むように『キング3世』の操作するキャラを攻撃する。そこにジミ子が上から打ち下ろす攻撃を加えた。3方向から攻撃を喰らい、受け流す事はできずに『キング3世』がフラフラになる。そこへミサキの吹っ飛ばし攻撃がヒットした。
吹っ飛んだ先には、『キングJr』の操作するキャラが居た。『キングJr』は容赦なく『キング3世』に攻撃を加えて、『キング3世』にとどめをさした。
「よし、このまま連係して『キングJr』を倒すぞ」
この後、ヤン太の指示に従い、何とか『キングJr』を倒す。
『キングJr』を倒し終わった後、ジミ子がため息交じりに言う。
「AIが信じられないくらい強くなってるわね。前回の対戦だと、ガードもろくにしなかったのに……」
するとキングがこう言った。
「ああ、俺も3回に1回くらいは負けるようになってきたからな」
「本当に? それだともう1週間もすれば、手に負えなくなるんじゃないの?」
「そうかもしれないな。まあ、試してみるよ」
この後、2回戦、3回戦と、僕たちはAIを退けることに成功をする。
『キングJr』と『キング3世』は敵対関係にあるので、どちらかのAIに向って、キャラを吹き飛ばせば、追撃を加えて、とどめを刺してくれるからだ。
攻略法が見えたので、ミサキが得意になって言う。
「なんだ弱いじゃない。AI同士で潰し合いをさせれば良かったのね」
すると、キングがスマフォを手にして、AIに向ってこう言った。
「他のキャラクターでチームを組んでいるぞ。勝つにはAI同士で組むしかないかもな」
4回戦が始まり、僕らは連係攻撃で『キング3世』を、『キングJr』の前に吹っ飛ばした。
これまでなら、『キングJr』は『キング3世』に対して追撃を行なうのだが、今回は攻撃をしない。それどころか、『キング3世』が回復するのを待ってから、2体が足並みをそろえて向って来た。
「ヤバいぞ、コイツら組んできた。こっちも全力で戦うぞ!」
ヤン太の指揮の下、僕らは全力で戦う。
4回戦目は、相手の連係が出来ていなかったので、どうにか勝てたのだが、5回、6回と、回数を重ねていくうちに、AIの連係がスムーズになっていく。そして9回目辺りを超えると、僕たちに勝ち目は無くなった。
「あー、もう、このゲーム、つまらない」
ミサキがそう言ってコントローラーを置いた。
確かに、1体でも手を焼くAIが2体も居て、それが完璧な連係を取ってくるとなると、もう手に負えない。
ジミ子が感心しながら言う。
「凄い学習能力よね。これを有効に使えたら凄そうだけど、何か良い使い道はないのかしら?」
「うーん、あんまり思いつかないよね」
僕はそう答えたのだが、しばらくして、ミサキがニヤニヤと笑いながら言う。
「エヘヘ、いい使い方。思いついちゃった」
どうやら何か思いついてしまったようだ。




