人工知能の黎明期 4
みんながスマフォに人工知能のアプリを入れて、それぞれが会話をやりはじめる。
AIは、ほとんど何もしらない状態で、会話をすればするほど学習していって賢くなるようだ。10分ほど会話を続けていると、キングが何かを見つけたらしい。
「おっ、このAIのアプリ、アドオンで、ネンテンドーのゲームコントローラーを追加できるな。試しに入れてみよう」
キングがスマフォをイジり、設定をする。そして『大乱戦スマッシャーブラザーズ』のゲームを起動した。
ミサキがキングに質問をする。
「AIにゲームが出来るの?」
「ああ、対戦とかできるみたいだぜ、やってみるか?」
「ええ、やってみましょう」
ミサキ、ジミ子、ヤン太と、キングのAIの『キングJr』で対戦が始まった。
「先手必勝よ! これでもくらいなさい!」
ミサキがキングJrに攻撃をする。すると、キングJrはガードする事無く、攻撃をまともにくらい、画面外にはじき出されて、死んでしまった。
「あれ? もう死んだ」
攻撃をしたミサキが、ちょっと驚きながら言う。
すぐに死んでしまうと、ゲームとしてつまらない。このゲーム、攻撃をくらっても、抵抗をして画面外にさえはじき出されなければ良い設定になっている。
さまざまな回避方法があって、かなり死ににくく出来ているハズなのだが、AIは特に抵抗する事無く、あっさりと死んでしまった。
ジミ子がボソッと言う。
「あまりにも弱すぎるわね」
ヤン太がフォローをする。
「初めてだから操作方法が分からないんじゃないか? マニュアルも読んでないし」
それを聞いて、キングがAIにこんな指示を出す。
「それもそうだな。基本操作のマニュアルはこのURLのページだ。初めのうちは、攻撃するより、生き残りを優先した行動を」
『了解です』
AIがマニュアルから学習を終えて、2戦目が始まる。
「今度はどうかしら?」
ミサキがそう言いながら、軽く攻撃をする。すると、やはりまともに攻撃をくらうのだが、くらった後にゆっくりと画面の中央に向けて動き出し、画面外へはじき出されないような動きを取る。
「単純な攻撃だと耐えるわね。これならどうかしら?」
ミサキが連続攻撃をしかけると、キングのAIは何発かはガードしたものの、そのうち攻撃に耐えきれずに画面外へと吹っ飛ばされて死んだ。
ジミ子がみんなに言う。
「やっぱり弱いわね」
「こりゃ、ゲームに勝てるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだな」
ヤン太も同じ意見だ。そこで僕はこんな提案をしてみた。
「それなら、みんなのアプリにコントローラーのアドオンを入れて、AI同士で戦わせてみたらどうかな。同じくらいの強さなら良い勝負になるんじゃないかな?」
「おっ、面白そうだな、やってみようぜ」
ヤン太が賛成をして、僕らは準備をやり始めた。
やがて準備が終わると、全員のAIで、生き残りをかけたバトルロイヤルが始まった。
スタートの合図が流れると、キャラクター達が中央に集まり、ポコポコと通常攻撃で、軽く殴り合っている。本来のゲームなら、ド派手な必殺技の応酬になり、殺伐とした展開になるはずだが、この光景は、どこかほほえましい。
「あー、そういえば、5歳の甥っ子に、このゲームをやらせた時は、こんな感じだっわね」
ジミ子が画面を見ながら言う。まあ、確かに、そんな感じだろう。全てのキャラクターが、初めてコントローラーを握ったような、たどたどしい動きをしている。
1分くらい小競り合いが続いていただろうか。やがてミサキのAIにチャンスが訪れる。
「そこ! 下、右下、右で、Aボタン。必殺技を出すのよ!」
思わずミサキが自分のスマフォに叫ぶように言うと、ミサキのAIが少し遅れて必殺技を出した。
「うお、必殺技が出て来たぞ。負けるな、こちらも、右、下、右下とBで必殺技だ!」
ヤン太が、少し難しいコマンドを言う。すると、これも少し遅れて必殺技が出て来た。
「左で溜めて、右と当時にAボタンよ!」
「下、左下、左でBボタン!」
ジミ子と僕もコマンドを教えると、AI達は必殺技をだすようになる。ほのぼのとした戦いは、いつの間にか必殺技が飛び交う、殺伐とした光景になっていた。
必殺技を覚えたAIは、教えてもらった技を連打していく。その中で、キングがAIに指示を出す。
「ミサ子の波働拳は、出し終わった後に0.7秒の硬直があるから、ジャンプで飛び込みながらA、次にB、さらにレバー右を入れながらAと攻撃を繋げて、最後に、下、右下、右とAの必殺技で追撃だ」
的確な指示をAIに与えていく。その一方、ミサキは。
「そこはガッとよけて、ボタン連打で連続攻撃! バキバキってやっちゃって!」
フワッとした指示を次々と出して行く。
こうしてAI同士の戦いをしていくうちに、どんどんキングのAIが強くなり、やがて誰のAIも勝てなくなってしまった。どうやらゲームというジャンルでは、何をやってもキングには敵わないらしい。




