表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

539/567

人工知能の黎明期 1

 放課後、僕らはキングの家に集まった。

 みんなでゲームをやっている横で、キングがパソコンをつかってWebページを見ている。


 僕らが何度かゲームをやり終えても、キングはずっとWebページを眺めていた。さすがに気になったので聞いてみる。


「キングはさっきから何を見ているの?」


「ああ、新しいCPUの紹介ページだな。昼間のテレビで宇宙人が宣伝していただろ」


「速度が2~3割アップとか言っていたヤツだよね?」


「そうだ。性能が上がって、価格も抑えているんだぜ。ゲームをやってないなら、テレビに映し出してみるか」



 キングはテレビのリモコンを操作して、パソコンの画面を画面に映し出した。そこには新しいCPUの型番と、様々な数字がびっしりと表示されていた。

 おそらく数字は大きい方が性能が良いのだろうが、型番のアルファベットと数字の羅列(られつ)を見せられても、全く頭に入ってこない。


 ミサキが画面を指さして、キングに聞く。


「この数字はどうなの? 性能がいいの?」


「ああ、良いぜ。これなんか3Dの画像の描画を表す指標が、49500を超えている」


「……何を言っているのか分からないから、もっと分かりやすく説明して」


 僕は、珍しくミサキの意見に同意をする。



 キングが考えながら説明してくれる


「えーと、そうだな。車に例えてみるか。この安い5,000円のCPUだと、時速60キロまでしか出ないし、2人までしか乗れない。こっちの15,000円のヤツだと、時速100キロを出せて、6人まで乗れる」


 分かりやすい例え方だ。ジミ子が一番高いCPUを指さして聞く。


「じゃあ、この15万円のヤツは、どのくらい凄いの?」


「そうだな。時速160キロ出せて、12人まで乗れるくらいかな」


「値段が10倍だと、速度も10倍ってわけじゃないのね?」


「ああ、ある一定の速度を超えると、極端にコストパフォーマンスが悪くなる。金をたくさん払っても、速度はそんなに上がらない感じだな」



 ヤン太が少しあきれながら言う。


「でも、15万円を出して、12人乗りの、時速160キロを出せる車は要らないだろ。そんなに乗れる人数は要らないし、そこまで速度を出す必要も無い」


「確かに俺たちにはスペックオーバーかもしれないが、一部の研究機関とかでは役にたつかもしれないぜ、ほら、これをみてくれよ」


 そういってキングはニュースのページを見せてくれる。そこには都京(ときょう)大学の新しい人工知能(AI)の研究が載っていた。



 ミサキがニュースのページを読み上げる。


「なになに、都京大学が、宇宙人の技術を使って、あらたな試みを開始。どんなに長い文章でも、一瞬で『四行詩(よんぎょうし)』に訳してくれる、人工知能『エライザ』を開発。ええと『四行詩』って何かしら?」


 ミサキの質問に、ジミ子が答える。


「『ノストル・ラムスの大予言』とかに出てきたあれよ。たぶん短い文章で説明してくれるんじゃないの?」


「そうか、面白そうね。あっ、ニュースの記事を見ると、ウェブ上でもう出来るみたい。試しにやってみましょう」


 ニュースのリンク先から、都京大学の『エライザ』のページに飛んでみる。



『エライザ』のページに飛ぶと、以下のような警告が、大きな文字で載っていた。

『このAIはまだ研究開発中です。間違った内容の文章が出てくるかもしれません』


 ヤン太がこれを見ながら言った。


「まあ、試してみようぜ。文章を直接入れるか、要約するサイトのURLを入れれば良いわけか」


 ジミ子がこんな提案をする。


「文章を入れるのは面倒くさいから、著作権の切れている晴空文庫(せいくうぶんこ)の小説のURLのページでも入れてみれば」


「そうだな。どんな小説を入れようか……」


 ミサキが思いついた話をあげる。


「それなら、桃から生まれた『桃次郎(ももじろう)』のお話なんてどう? みんな話を知っていて、分かりやすいから良いんじゃないかしら?」


「まあ、話が単純すぎる気もするが、やってみるか」


 そう言いながらキングが『桃次郎』のURLを探し出して、入力欄にいれて試してみる。



 URLを入れて、ボタンを押すと、しばらくして、こんな文字が浮かび上がった。


『ピンクの人間が、水辺より現われる』

『やがてそれは、獣たちを引き連れ』

暴虐(ぼうぎゃく)の限りをつくし、亜人(あじん)から財宝を奪い取るだろう』

『奪い去られた財宝は、二度と持ち主に戻る事は無い』


 ミサキが不思議な顔をしながら言った。


「『桃次郎』ってこんな話だったっけ?」



 僕が、この四行詩を、なんとか理解しようとする。


「ええと、『ピンクの人間』は、『桃次郎』の事だよね。AIは、桃から人が生まれるのはおかしいから、『桃色』だと思ったのかな?」


 ヤン太が悩みながら答える。


「まあ、そうだろうな。桃から人間が生まれるのはおかしいもんな。次の詩の『獣たちを引き連れ』は、きびだんごで家来にする部分だろう。この部分は、間違ってはいないかな」



 キングは原文と見比べながら言った。


「うーん。『亜人』は、鬼の事か。『暴虐』の表現は、桃次郎の活躍シーンだけ切り取れば、暴力を振るわれているのは鬼の方にみえるかもしれないな。最後には財宝も奪われるし」


「これだと、略奪者は桃太郎の方にみえるわね。そう言えば、持ち帰った財宝は、いつの間にか桃次郎の物になっていたわね……」


 ジミ子が財宝の事を指摘する。そういえば、持ち主に返したとかいう話はなかった。村に持ち帰って『めでたしめでたし』という流れだったので、やっぱり自分の物にしてしまったのだろう。



「これ、まったく違う話じゃない?」


 ミサキに聞かれて、僕は、こう答えるしかない。


「そうだね。これだと印象が全く違うね。とりあえず、これだけだと何とも言えないから他の話も試してみようか」


 僕らは違う話を試してみる。次はまともな結果が出てくればいいのだが……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 相手が悪党ならなにしてもOk!みたいな考えありますな。
[良い点] 然し文明の発達する途中はおもしろい これ今はまたまただけど 段々と完璧になっていくんだろうな [気になる点] キングさんは分かりやすい説明うまいな こうなりたいわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ