人工知能の黎明期 1
放課後、僕らはキングの家に集まった。
みんなでゲームをやっている横で、キングがパソコンをつかってWebページを見ている。
僕らが何度かゲームをやり終えても、キングはずっとWebページを眺めていた。さすがに気になったので聞いてみる。
「キングはさっきから何を見ているの?」
「ああ、新しいCPUの紹介ページだな。昼間のテレビで宇宙人が宣伝していただろ」
「速度が2~3割アップとか言っていたヤツだよね?」
「そうだ。性能が上がって、価格も抑えているんだぜ。ゲームをやってないなら、テレビに映し出してみるか」
キングはテレビのリモコンを操作して、パソコンの画面を画面に映し出した。そこには新しいCPUの型番と、様々な数字がびっしりと表示されていた。
おそらく数字は大きい方が性能が良いのだろうが、型番のアルファベットと数字の羅列を見せられても、全く頭に入ってこない。
ミサキが画面を指さして、キングに聞く。
「この数字はどうなの? 性能がいいの?」
「ああ、良いぜ。これなんか3Dの画像の描画を表す指標が、49500を超えている」
「……何を言っているのか分からないから、もっと分かりやすく説明して」
僕は、珍しくミサキの意見に同意をする。
キングが考えながら説明してくれる
「えーと、そうだな。車に例えてみるか。この安い5,000円のCPUだと、時速60キロまでしか出ないし、2人までしか乗れない。こっちの15,000円のヤツだと、時速100キロを出せて、6人まで乗れる」
分かりやすい例え方だ。ジミ子が一番高いCPUを指さして聞く。
「じゃあ、この15万円のヤツは、どのくらい凄いの?」
「そうだな。時速160キロ出せて、12人まで乗れるくらいかな」
「値段が10倍だと、速度も10倍ってわけじゃないのね?」
「ああ、ある一定の速度を超えると、極端にコストパフォーマンスが悪くなる。金をたくさん払っても、速度はそんなに上がらない感じだな」
ヤン太が少しあきれながら言う。
「でも、15万円を出して、12人乗りの、時速160キロを出せる車は要らないだろ。そんなに乗れる人数は要らないし、そこまで速度を出す必要も無い」
「確かに俺たちにはスペックオーバーかもしれないが、一部の研究機関とかでは役にたつかもしれないぜ、ほら、これをみてくれよ」
そういってキングはニュースのページを見せてくれる。そこには都京大学の新しい人工知能の研究が載っていた。
ミサキがニュースのページを読み上げる。
「なになに、都京大学が、宇宙人の技術を使って、あらたな試みを開始。どんなに長い文章でも、一瞬で『四行詩』に訳してくれる、人工知能『エライザ』を開発。ええと『四行詩』って何かしら?」
ミサキの質問に、ジミ子が答える。
「『ノストル・ラムスの大予言』とかに出てきたあれよ。たぶん短い文章で説明してくれるんじゃないの?」
「そうか、面白そうね。あっ、ニュースの記事を見ると、ウェブ上でもう出来るみたい。試しにやってみましょう」
ニュースのリンク先から、都京大学の『エライザ』のページに飛んでみる。
『エライザ』のページに飛ぶと、以下のような警告が、大きな文字で載っていた。
『このAIはまだ研究開発中です。間違った内容の文章が出てくるかもしれません』
ヤン太がこれを見ながら言った。
「まあ、試してみようぜ。文章を直接入れるか、要約するサイトのURLを入れれば良いわけか」
ジミ子がこんな提案をする。
「文章を入れるのは面倒くさいから、著作権の切れている晴空文庫の小説のURLのページでも入れてみれば」
「そうだな。どんな小説を入れようか……」
ミサキが思いついた話をあげる。
「それなら、桃から生まれた『桃次郎』のお話なんてどう? みんな話を知っていて、分かりやすいから良いんじゃないかしら?」
「まあ、話が単純すぎる気もするが、やってみるか」
そう言いながらキングが『桃次郎』のURLを探し出して、入力欄にいれて試してみる。
URLを入れて、ボタンを押すと、しばらくして、こんな文字が浮かび上がった。
『ピンクの人間が、水辺より現われる』
『やがてそれは、獣たちを引き連れ』
『暴虐の限りをつくし、亜人から財宝を奪い取るだろう』
『奪い去られた財宝は、二度と持ち主に戻る事は無い』
ミサキが不思議な顔をしながら言った。
「『桃次郎』ってこんな話だったっけ?」
僕が、この四行詩を、なんとか理解しようとする。
「ええと、『ピンクの人間』は、『桃次郎』の事だよね。AIは、桃から人が生まれるのはおかしいから、『桃色』だと思ったのかな?」
ヤン太が悩みながら答える。
「まあ、そうだろうな。桃から人間が生まれるのはおかしいもんな。次の詩の『獣たちを引き連れ』は、きびだんごで家来にする部分だろう。この部分は、間違ってはいないかな」
キングは原文と見比べながら言った。
「うーん。『亜人』は、鬼の事か。『暴虐』の表現は、桃次郎の活躍シーンだけ切り取れば、暴力を振るわれているのは鬼の方にみえるかもしれないな。最後には財宝も奪われるし」
「これだと、略奪者は桃太郎の方にみえるわね。そう言えば、持ち帰った財宝は、いつの間にか桃次郎の物になっていたわね……」
ジミ子が財宝の事を指摘する。そういえば、持ち主に返したとかいう話はなかった。村に持ち帰って『めでたしめでたし』という流れだったので、やっぱり自分の物にしてしまったのだろう。
「これ、まったく違う話じゃない?」
ミサキに聞かれて、僕は、こう答えるしかない。
「そうだね。これだと印象が全く違うね。とりあえず、これだけだと何とも言えないから他の話も試してみようか」
僕らは違う話を試してみる。次はまともな結果が出てくればいいのだが……




