第38回目の改善政策
昼食の後、教室でテレビをつけて待機していると、お昼の時報が鳴る。
「秋も深まって来ました。第38回目の改善政策の発表です。今週もよろしくお願いします」
「ヨロシクネー」
福竹アナウンサーと宇宙人が挨拶をして、いつもの番組が始まった。
「さて、さっそくですが、今週の改善政策は何でしょうか?」
「今週の改善政策はお休みネ。その変わり告知があるヨ」
「ほう、その告知とは、おそらく何かの新製品の宣伝ですね」
福竹アナウンサーの目が鋭くなる。これは値切りをする時の目つきだ。
「製品の告知だケド。ワレワレが販売するわけではないネ。今回は技術の協力をしただけだヨ」
「それで、その製品とは何です? どのような物でしょう?」
「パソコンやスマフォなどのCPUネ。コンピューターの頭脳と言える大事な部品ダネ」
今まで宇宙人は、地球のハイテク産業にあまり関わってこなかった。もし、宇宙人が直接、コンピューターを発売したら、とんでもない性能の物が出てくるだろう。そうなると、これまでコンピューターを作ってきた会社は、売れなくなって潰れてしまう。
現代社会にコンピューターは欠かせない。これを宇宙人が独占してしまうと、今後の人類は自力で発展できなくなるような気がする。
おそらく、そんな事態ににならなうように、宇宙人は『協力』という形で、間接的に関わったのだろう。
「なにやら凄そうなCPUが発売されそうです。どのくらいのスペックと価格なんでしょうか?」
福竹アナウンサーが聞くと、宇宙人はこう答えた。
「メーカーで違うケド、速度はおよそ3割アップ、消費電力は2割削減。価格は従来より2割ほど安いネ」
「なんと言おうか、普通ですね。スピードが100倍とか、1000倍とかを想像していたんですが……」
福竹アナウンサーの言うとおりだ、このくらいの範囲なら、地球人の技術でも達成可能な数字だろう。福竹アナウンサーもそう思ったらしく、納得がいかない顔をしていると、宇宙人がこんな解説をしてくれた。
「今回、ワレワレが協力したのは、設計方法ネ。これまでは、人の手で設計をして居たのだけれど、今回のCPUは、人工知能に作らせたネ」
「……それは、コンピューターが自ら設計したと考えてよろしいでしょうか?」
「ソウネ。コンピューターが自らを改善して行く方法ダヨ」
「なるほど、従来のコンピューターが、自分より早いコンピューターを生み出し、生み出したコンピューターは、さらに早いコンピューターを生み出す。雪だるま式に早くなっていくのですね」
「ソウネ。どんどん早くなるネ」
「これは自己進化していくコンピューターと言っても良いですね。進化して便利になっていくのは良いですが、やがて人類の知能を追い抜いて、人間より賢くなってしまうかも……」
福竹アナウンサーが、少し心配そうな表情を浮かべる。確かに性能が上がって行けば、そのうち人類は追い抜かれてしまうだろう。
「人類より賢くなると、何か困るのカネ?」
「いえ、そうなってしまうと、人類がコンピューター支配されるような世界が来るんじゃないかと思いましてね」
それを聞いて、宇宙人がちょっとあきれたように言った。
「知能が逆転しても、使い方次第ダヨ。今の段階でも、人類の計算能力はコンピューターに負けているヨネ?」
「ええ、負けていますね。人類の能力で、計算能力でコンピューターに勝つのは無理です」
「記憶という面でも、負けているヨネ?」
「そうですね。文章や写真もコンピューターに保存できますからね。データーの量と質という面では、人類は負けていると言っていいでしょう」
「デハ、現在、人類はコンピューターに支配されているカネ?」
「……まだ支配されていませんね」
「人類が自ら支配されるようなシステムを作り出さない限り、コンピューターに支配される心配はないと思うヨ」
宇宙人の話を聞いて、福竹アナウンサーの表情が、パッと明るくなる。
「それもそうですね。例えば、コンピューターに国会を任せるような状況にならなければ良いんですよね。それなら大丈夫そうです」
「その例ダト、国会議員とコンピューターを比べて、国民が人間の国会議員の方を選ばないとダメだけどネ」
「ああ、そうですね…… 腐敗とか汚職が多い国によっては、下手をするとコンピューターの方が選ばれてしまうかもしれませんね……」
明るい表情をした福竹アナウンサーだったが、今度は苦笑いをする。これから国会議員は、真面目に仕事をしないと、コンピューターに職を奪われてしまう時代が来るかもしれない。
「話がだいぶ、飛躍してしまいました。CPUの発売日はいつぐらいになるのでしょうか?」
「今週末には発売する予定らしいヨ。詳しくはメーカーのWebページを見てネ」
福竹アナウンサーが、チラッと横目で時計を確認した。僕もつられて時間を見てみると、けっこう良い時間が過ぎていた。
「ええと、そろそろお時間が迫ってきました。アンケートのご協力をお願いします」
いつものプレアデス・スクリーンが出てきて、僕たちはアンケートに答える。
CPUが安く早くなるのは良い事だろう。とりあえず、賛成をする。
しばらくすると、集計が出て来た。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 64%
悪かった 36%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 81%
支持できない 19%』
結果を見て、福竹アナウンサーが感想を言う。
「思ったより、賛成派が少ないですね。やはり、コンピューターが発展しすぎると、心配する人たちがいるみたいですね」
「コンピューター以上のスピードで、人類も発展していけば良いのにネ」
「それは難しいと思いますよ。それでは、また来週、お会いしましょう」
「マタネー」
挨拶をして番組が終了した。




