管轄外地域 9
宇宙人の監視外のテレビ番組を見た、翌日の放課後。僕らはいつものメェクドナルドゥに来ていた。
話題の中心は、もちろん例のテレビ番組だ。ミサキが投球フォームを真似しながら言う。
「170キロの球を投げられるなんて凄いわね。さっきネットを調べたら、250キロを投げられるようにも肉体改造できるみたいなのよ、私も試してみようかな」
それを聞いたキングが、スマフォを見せながら聞く。
「250キロを投げれるようにするには、こんな改造が必要なんだが、それでもやるのか?」
キングのスマフォには、右腕だけ地面近くまでダラリと伸びた、ケプコンのバオイハザードのクリーチャーみたいな完成図が載っていた。どうやら時速250キロを出すには、ここまでバケモノにならないといけないらしい。
「ああ、うん、これはちょっとね…… でも、250キロを投げられるようになるんだったら……」
ミサキは一度は否定したものの、少し名残惜しそうにしていた。
ミサキはボールを投げる為だけに、あんな姿になっても構わないというのだろうか……
ジミ子がクリーチャーみたいな完成図を見ながら、ボソッと言う。
「でも、250キロのボールを投げられるようになれば、野球でボロもうけできるんじゃない? そう考えれば、人間を辞めるのも悪くないわね」
すると、ヤン太がこう言った。
「それが、そう上手く行かないらしいぜ。肉体改造で、限界を簡単に超えられるようになると、スポーツ業界が困るから、規制するっていう流れらしい」
それを聞いて、僕もスマフォで調べてみると、そんな内容のニュースが載っていた。それも野球だけでなく、サッカー、テニス、陸上、水泳、ありとあらゆる種目で規制がされるらしい。
「せっかく改造しても、それを生かせる場所がないんじゃ、意味が無いかもね」
僕が感想を言うと、ミサキも同意する。
「そうね。250キロを投げられるようになっても、試合に出られないとね」
ミサキは公式試合で見たいようだが、ヤン太がこの意見に反論してきた。
「でも、出場できるとなると、それも問題になるだろ? それまで地道に頑張ってきた選手からすると、改造手術であっさり限界を超えられてきたら、たまったもんじゃない。ドーピングと同じで、規制は必要だと思うぜ」
「まあ、そう言われるとその通りだね」
僕はヤン太に同意する、確かに何らかの規制は無いと困る。
「あの博士も儲け損なったわね。試合に出られないんじゃあ、肉体改造をする選手はいないでしょう」
ジミ子がそう言うと、キングがスマフォを調べながら言う。
「改造するヤツは少なくなったと思うが、居なくなるわけじゃなさそうだ。コレを見てくれよ」
そう言ってスマフォを見せてくれる。そこには『スーパーマン・リーグ設立のため、クラウドファンディングの出資を募集!』という文字が書いてあった。
「『スーパーマン・リーグ』って何?」
ミサキが尋ねると、キングが答えてくれる。
「英語で『スーパーマン』と言うと、とあるヒーローと、もう1つ『超人』って意味があるんだ。この場合は後者の意味で、日本語に直すと『超人リーグ』って感じだな。このリーグは、細かい規定が廃止されて、なんでもありのリーグになるらしい」
「何でもありって、例えばどんなモノがOKなの?」
僕が聞くと、こんな例をあげてくれる。
「例えば、日本の野球やメヅャーリーグだと、バットに対して細かい規定がある。長さや太さの限界が決まっているんだが、それが無くなる。極端な例だと、スーパーマン・リーグでは丸太を振ってもOKになるらしい。ドーピングに関しても規定が無く、もちろん肉体改造をした選手も出場可能だ」
ジミ子があきれながら言う。
「本当に何でもありなのね。それで、肝心のお金は集まっているの?」
「そこそこ集まってるな。少なくとも、最低ラインのお金は集まっている。まずは4チームで、年間20試合くらいの開催を目指すみたいだ」
詳しい話を聞いて、ヤン太がちょっとその気になった。
「面白そうだな。クラウドファンディングなら、小額の寄付も受けつけているだろ? 少し寄付しようかな」
実際に寄付をすると聞いて、キングがさらに詳しく調べる。
「おっ、それならこの特典付きの寄付がいいかな。5ドル払うと、専用の動画サイトが一年の間、見放題。『スーパーマン・リーグ』の全ての試合をいつでもチェックできるみたいだぜ」
「5ドルだと、だいたい600円くらいか。そのくらいだったら寄付してみるか」
ヤン太が寄付をすると、他の人もつられる。
「私も見てみたいから寄付をするわ」
「僕もやってみようかな」
「俺も寄付してみるか」
ミサキ、僕、キングが続いて寄付をした。
「私は、30ドルの、グッズ付きのコースを申し込むわ。きっとグッズにプレミア価格がつくわよ!」
ジミ子は別の目的で寄付をした。
数日後にチェックしてみると、クラウドファンディングは、目標額の3倍が集まったようだ。こうして、来年からの『スーパーマン・リーグ』の開催が決まる。どんな試合が見られるのだろう。




