管轄外地域 6
福竹アナウンサーと、警官のミシェルさんは、このスタジアムを仕切っているという、トニー・ジョン博士をたずねる。
トニー・ジョン博士は、スポーツ医学で、かなり有名な医師らしい。なぜ、こんな無法地帯に居るのだろうか?
福竹アナウンサーがミシェルさんに質問する。
「なぜ、著名なお医者さんが、このような場所に居るのでしょうか?」
「ああ、トニー・ジョン博士は、切断された腕の靱帯を繋げ合わせる手術が得意だったんだが、エイリアンの医療の方が優れていてな。エイリアンの技術だと手術も何も無しに、靱帯を完全に元に戻せるそうだ」
「なるほど、宇宙人の技術のせいで失業した訳ですね」
「そうだ。職を失ってドン底まで落ちたんだが、新たな商売で這い上がって、今はこの場所のボスをやっている」
「その商売とは、何です?」
「それはな、おっと、ボスの部屋までついたようだ」
たどり着いた場所は、スタジアムの特別観覧席らしい。豪華な扉があり、その前に銃を構えたゴツい護衛が、何人も待機していた。
ミシェルさんは護衛の人に声をかける。
「ボスから話を聞いてるだろ?」
「ああ、テレビクルーの連中だな。『丁重に扱え』との話だ。中に入れ」
銃をクイッと動かして、中に入るようにうながされた。
「はい、では失礼します」
福竹アナウンサーたちが、おそるおそるその横を通り過ぎる。
部屋の中に入ると、白衣を着た医者らしき人物が出迎えた。
「ようこそ、私がトニー・ジョンです。今日は私のラボにお越し頂き、ありがとうございます。存分に取材していって下さい」
笑顔で挨拶をするが、白衣には血が付いていて、その笑顔はどこか狂気が宿っている。明らかにおかしな人だが、福竹アナウンサーは普通に取材を開始する。
「そうですか。それでは早速、お願いします。このラボではどのような治療を行なっているのでしょうか?」
「私がスポーツ医学の権威なのは知っておりますか?」
「ええ、知っております」
「このラボでも、スポーツ選手の治療を行なっています。サンプル…… いや、患者さんが来ているので、治療の光景をお見せしましょう」
そう言って、さらに奥の部屋に移動をする。
このお医者さん、今、患者さんの事を『サンプル』と言いかけた。本当に大丈夫なのだろうか?
奥の部屋に移動すると、体格の良い患者さんが、椅子に縛られて、目隠しをされていた。頭には電気コードのたくさんついたヘルメットを被っている。
かなり異様な光景だが、トニー・ジョン博士は淡々と説明をする。
「彼は野球選手で『イップス』を患っています。『イップス』はご存じですか?」
福竹アナウンサーが思い出しながら答える。
「たしか、体が思うように動かなくなる病気ですよね。野球選手だと、ボールが投げられなくなったりするとか」
「ええ、その通りですね。この疾病の厄介な所は、治療法が無く、掛かったらほとんど治らない所です。これが原因で、引退していった選手も多いのですよ」
「……もしかして、『イップス』を治療できるのですか?」
身を乗り出して質問をする福竹アナウンサーを、トニー・ジョン博士が得意気になって説明してくれる。
「ええ、『イップス』の症状をエイリアンに話して、治療する装置をお借りして来ました。ちなみにこの施術できるのは、うちのラボだけです。危険性があるらしいのでエイリアンの施設だと施術してくれませんからね、ハハハ」
トニー・ジョン博士が笑いながら言った。
いやいや、危険性が高い治療法を、笑いながら説明しちゃダメだろう……
トニー・ジョン博士は、どこからともなくクイズ番組に出てくる様なスイッチを取り出してきた。
「まあ、百聞は一見にしかず。ポチッとな」
躊躇無くスイッチを押すと、電流が流れたようだ。
「あばばばば」
患者さんが激しく痙攣を起こす。
「まあ、こんなもんかな」
トニー・ジョン博士がスイッチを話すと、電気が止まったようで、患者さんがダラリとなった。本当に大丈夫なんだろうか、この医者は……
博士は、患者さんからコードのついたヘルメットを脱がし、頬をペチペチと叩く。
「ほら、終わりましたよ」
「んぁ? えっ? ここはどこだ?」
「少し混乱しているようですね。ほらボールどグラブです。あなたは野球選手なんでしょう、キャッチボールをしましょう」
「……ああ、まあ、構わないが」
患者さんは立ち上がり、トニー・ジョン博士とキャッチボールを始めた。
2人のキャッチボールを、福竹アナウンサーが解説する。
「『イップス』に掛かると、まともに投げられなくなるようですが、問題なくキャッチボールは続いてますね、どうやら手術は成功したようです」
福竹アナウンサーの解説に、患者さんが首をかしげながら言う。
「イップス? 手術? 何を言っているんだ?」
不思議そうに言う患者さんに、福竹アナウンサーがたずねる。
「あなたは『イップス』を直す手術をしたんですよ。覚えてませんか?」
「いや、手術なんて知らないな…… ん? 俺に女性の胸がある! 股間にアレが無い! これは、どうなっているんだ!」
患者さんが錯乱し始めると、トニー・ジョン博士はスタンガンを取り出し、慣れた手つきで気絶させた。
「ん? 少し記憶を消しすぎたかな…… ええと、まあ、多少の混濁はよくある症状です、しばらくすれば思い出すでしょう。あっ、そうそう、他にもエイリアンから騙し取った装置が…… ええと、借り受けた装置が色々とあるのですよ。イップス以外にも、さまざまな施術があるので、是非、取材していって下さい」
「はい、分かりました。次はどんな治療方法を紹介してくれるのですか?」
突っ込みどころが色々あるが、聞き流すように次の話題に移った。さすが福竹アナウンサー、いつも宇宙人と組んでいるだけあって、この程度では怯まないようだ。




