管轄外地域 4
コマーシャルが終わると、再び福竹アナウンサーが出てきて、番組の後半が始まる。
「もはや犯罪都市といっても過言ではありませんが、この都市でも新たなビジネスが生まれようとしています。では、番組の後半をどうぞ」
VTRが流れると、そこはパトカーの中だった。警察官のミシェルさんが福竹アナウンサーに話し始めた。
「まあ、犯罪者だらけの街になっちまったんだが、それでも、ほんの少しだけ望みはある。これからある施設へ向おうと思うんだが、見てみるか?」
「はい、ぜひとも取材させて下さい」
パトカーがたどり向った場所は、アメリカンフットボールの球場のようだ。車を降りて、入り口のゲートにたどり着く。ちなみに、入り口には防弾チョッキを着た、重武装のデカい人が、何人も警備についていた。
ミシェルさんが、警備の人に話しかける。
「コイツら日本のテレビ局で、このスタジアムを取材したいそうだ。大丈夫か?」
「……少々、お待ちを。ボスに聞いてみます」
警備のリーダーらしき人が、どこかに電話をかける。しばらくやり取りをして、OKが出たみたいだ。
「撮影しても良いですが、ほかのお客さんには、顔が分らないようにモザイクをかけて下さい」
それを聞いて、福竹アナウンサーが返事をする。
「分りました。ありがとうございます。放送する時には、完璧にモザイクをかけさせてもらいます」
「あと、ボスの所にも立ち寄って下さい。紹介したい商品があるそうです」
これには警官のミシェルさんがうなずく。
「わかった。後で寄らせて貰うよ」
こうして、ものものしい警備を抜けて、福竹アナウンサー達はスタジアムの中に入って行く。
スタジアムの中は、ごちゃごちゃしていた。大小さまざまなテントが張られていて、それぞれのテントの前にはガラクタが並べてある。
ミシェルさんは、福竹アナウンサーに説明をする。
「ここはフリーマーケットのゾーンだな。一般の参加者が、色々な物を売っているバザーみたいなもんだ。警備があるから、街の中のように『盗み』はおこらない」
福竹アナウンサーが、まわりを見て事情を把握した。
「……ここでは盗まれないかもしれませんが、これらの商品って、そもそも盗品ですよね?」
ミシェルさんが、渋い顔で答える。
「うーん。まあ、そうかもしれんが、警察は手を出せないんだ。盗品であっても証拠が無い。たとえ証拠があっても、罰金さえ払えば罪にはならない訳だから、取り締まっても、ほとんど意味は無い」
「手に負えない、悪循環ですね」
「まあ、そうなんだが、少し店を見たらどうだ? 中には価値のある『お宝』もあるかもしれないぞ」
ミシェルさんに焚きつけられて、福竹アナウンサーが変なやる気をだしてしまった。
「まあ、私。こうみえても、見る目には自信があるんですよ。『お宝』を、ゲットしちゃいましょうかね」
福竹アナウンサーは店を見て回る。腕時計、食器、服や鞄。その様子は普通のバザーと変らないように見えるが、おそらくほぼ盗品だ。まともな出所の物を探すとなると、お宝を引き当てるより難しいだろう。
歩き回っていると、福竹アナウンサーは一軒の店の前で止まった。
「おおっ、50インチのテレビが150ドルで売っています。これはお買い得ですね、これを下さい」
福竹アナウンサーが目をつけたテレビは、新品の段ボールで完璧に梱包されていて、工場か店から盗んできたばかりの商品のようだった。
店主が威勢の良い声で答える。
「お客さん、お目が高いね。それは3ヶ月ほど前に売り出した、最新モデルだよ」
ちなみに、店主の顔にもしっかりとモザイクがかけてあった。まあ、盗んできたのだからモザイクをかけて当然だろう。
「このテレビ、市場流通価格は、およそ14万円です。150ドルだと日本円に直して、2万円以下ですね。大もうけですよ」
そう言いながら、お金を払おうとした福竹アナウンサーを、警官のミシェルさんが止める。
「ちょっと待て、それじゃまだ高いだろ? 15ドルくらいが相場じゃないか?」
本物の警官に言われて、店主は怯えながら答える。
「いくら旦那でも、そこまでは値引きできませんぜ。……そうですね30ドルで手を打ちましょう」
あまりの値引きに福竹アナウンサーが歓喜の声を上げた。
「安い! 買いましょう!」
こうして、福竹アナウンサーは、たった30ドルで50インチのテレビを手に入れた。
「いやあ、ゴッサルシティーって良い街じゃないですか。得しちゃいましたよ」
ほくほく顔の福竹アナウンサーに、ミシェルさんがあきれながら言う。
「まあ、中身のテレビが入っていれば、確かに得だろうな」
「えっ? まさか!」
福竹アナウンサーが、あわてて段ボールを開けると、中には重さを誤魔化すための石が詰まっているだけだった。
「……や、やられた」
ガックリと肩を落とした福竹アナウンサーに、ミシェルさんが言う。
「まあ、ここでの商売のやり方が少し分かっただろう。中身の無い箱を平気で売りつけたり、中身があっても、故障しているガラクタを動くと偽って売りつけたりする。ここで儲けようと思ったら、それを見抜けないとやっていけないぞ」
「……ちなみに、これを返品する事って出来ますかね?」
「無理だ。レシートも何もないバザーだからな。おそらく『うちの店の商品では無い』って、とぼけられて終りだな」
「……はい、勉強になりました」
お金を失って、本気で落ち込んでいる福竹アナウンサーに、ミシェルさんはこう言った。
「まあ、見せたい物は他にあるんだ。こっちについて来てくれ」
取材スタッフ一行は、バザーのエリアを抜けて、奥の場所へと進んで行く。




