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531/567

管轄外地域 3

 福竹アナウンサーと警官のミシェルさんは、銀行強盗が発生している現場へとたどり着いた。

 ミシェルさんは、銃弾が防げそうなゴツいヘルメットをかぶり、銃を構えて銀行の中へと入っていく。福竹アナウンサーは、恐る恐るその後を追いかける。


「警察だ、犯人に告ぐ、今すぐ抵抗を止めろ!」


 ミシェルさんが銃口を犯人に向けると、犯人はのんびりと、こう答えた。


「まだ何も盗んでいねぇよ。ほら、早く現金をよこしな。金額は900ドルだ!」


 受付の人に言うと、受付員もまた、のんきに答える。


「ですから、銀行のマニュアルで、窓口には500ドルしか置けないんですよ。金庫を開けて、持ってくれば話は別ですが…… どうです? ここは大胆に10万ドルくらい盗みますか?」


「……そんなに盗んだら警官に捕まっちまうだろ。ああ、もうしょうがねぇ、500ドルをよこしな」


「はい。では500ドルです」


 犯人はなんと500ドルしか盗まなかった。日本円の価値に直すと、およそ5~6万円だろうか。そんなはした金で良いのだろうか?



 この疑問は福竹アナウンサーも抱いたらしく、なんと、犯人に直接マイクを向ける。


「少しよろしいでしょうか? 銀行強盗で500ドルは少なすぎませんか? 銀行員さんの言った通り、ここは10万ドルくらい盗んでみては?」


「お前、何を言ってるんだ。そんなに盗んだら犯罪者になっちまうだろう」


「??? いえ、500ドルだけでも、盗んだら犯罪は犯罪でしょう?」



 犯人は、あきれながら言う。


「……さてはお前、この街のルールを知らないな。今から俺がそこの警官につかまるか見てみな」


 犯人の開き直った様子をみて、警官のミシェルさんがため息をつきながら言う。


「その様子だと、罰金を支払うんだな」


「ああ、もちろん、犯罪者扱いは嫌だからな」


「……500ドルの窃盗は、罰金180ドルだな。ほら、この書類にサインをしろ」


 犯人はサラサラとサインをする。


「あいよ。これが罰金の180ドルだ。じゃあ、あばよ」


 犯人はお金を払うと、堂々(どうどう)と玄関から出て行った。警官は捕まえないのだろうか?



 福竹アナウンサーがミシェルさんを急かす。


「何やってるんですか、犯人を捕まえないと!」


 あわてる福竹アナウンサーを落ち着かせるように、ミシェルさんは言う。


「罰金を払ったから追いかける必要は無い。この街では、950ドル以下の小額の窃盗では、罰金を払えば罪に問われないんだ」


「えっ? 犯罪は犯罪じゃないんですか?」



 いまいち理解の出来ない福竹アナウンサーに、銀行員さんが説明をする。


「宇宙人の監視が外れたときに、この街では爆発的に犯罪が増えました。本格的な銀行強盗とか、殺人や傷害事件とか重犯罪がね。警察の手が足りなくなり、住民投票で被害額が900ドル以下の犯罪は、罰金を払えば免除される仕組みを導入したんです」


 福竹アナウンサーが、あっけに取られながら質問をする。


「そんな仕組みを導入したら、犯罪が増えますよね」


「ええ、さらに手に負えないくらいに増えましたよ。普通の街だと、こんな仕組みは直ぐに廃止されるのですが、この街の住人の大半は犯罪者になってしまったので、もう廃止されないでしょうね……」


 ミシェルさんが、ふたたびため息まじりに言う。


「まあ、そういう事だ。もう少し街のパトロールをしてみようか」


 福竹アナウンサーとミシェルさんはパトカーに乗ると、街の中を走り始めた。



 車を走らせながら、ミシェルさんが街の説明をする。


「あのドラックストアは、万引きが多すぎて潰れた。あそこのスーパーは、だいぶ頑張っていたが、やはり潰れてしまったよ。店は次から次に潰れていっている、まあ、無理もないけどな」


「銀行とか、よく潰れないですね」


 福竹アナウンサーが聞くと、ミシェルさんはこう答えた。


「銀行は、銀行強盗に関する保険に入っているから、盗まれても保証で補われるらしい。ただ、その保証も、今月いっぱいで打ち切られるそうだ。そうなると撤退だな」


「この街はどうなってしまうんでしょうか?」


「まともなヤツは、もう街から出て行っちまったし、終りだろう」


 ミシェルさんが寂しそうに言う。その後、福竹アナウンサーも黙ってしまった。かける言葉が見当たらないのだろう。



 ここで密着取材のVTRが終り、ふたたび中継に戻ると、福竹アナウンサーが喋り始める。


「この町は犯罪者に乗っ取られたと言って良いでしょう。軽犯罪はもはや数え切れないほど増加して、重犯罪や火災も頻繁に発生しています。私は、すぐに宇宙人の監視下に戻した方が良いと思うのですが、そうなると、もう犯罪は行えません。住民のほとんどが犯罪者のこの街に、その住民投票が通るとは思えません。絶望的に見える状況ですが、この街に新たなビジネスが生まれようとしています、一端、CMをどうぞ」


 番組の前半が終り、CMに入った。こんな街で本当に、新たな産業が生まれるというのだろうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう考察スキ あとどんな仕事かな❔ [気になる点] 利益が出る仕事か… パト思いつかない―
[良い点] ベーシックインカムあるし治安も宇宙人のおかげで最高なのにこの街に集まるのはなんでだろうねぇ [一言] この世界でも指折りのクズ共が集まって隔離されてるって考えたら必要な街なのかな?
[一言] 自分なら絶対に住まないけど、何があるのかな?
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