管轄外地域 3
福竹アナウンサーと警官のミシェルさんは、銀行強盗が発生している現場へとたどり着いた。
ミシェルさんは、銃弾が防げそうなゴツいヘルメットをかぶり、銃を構えて銀行の中へと入っていく。福竹アナウンサーは、恐る恐るその後を追いかける。
「警察だ、犯人に告ぐ、今すぐ抵抗を止めろ!」
ミシェルさんが銃口を犯人に向けると、犯人はのんびりと、こう答えた。
「まだ何も盗んでいねぇよ。ほら、早く現金をよこしな。金額は900ドルだ!」
受付の人に言うと、受付員もまた、のんきに答える。
「ですから、銀行のマニュアルで、窓口には500ドルしか置けないんですよ。金庫を開けて、持ってくれば話は別ですが…… どうです? ここは大胆に10万ドルくらい盗みますか?」
「……そんなに盗んだら警官に捕まっちまうだろ。ああ、もうしょうがねぇ、500ドルをよこしな」
「はい。では500ドルです」
犯人はなんと500ドルしか盗まなかった。日本円の価値に直すと、およそ5~6万円だろうか。そんなはした金で良いのだろうか?
この疑問は福竹アナウンサーも抱いたらしく、なんと、犯人に直接マイクを向ける。
「少しよろしいでしょうか? 銀行強盗で500ドルは少なすぎませんか? 銀行員さんの言った通り、ここは10万ドルくらい盗んでみては?」
「お前、何を言ってるんだ。そんなに盗んだら犯罪者になっちまうだろう」
「??? いえ、500ドルだけでも、盗んだら犯罪は犯罪でしょう?」
犯人は、あきれながら言う。
「……さてはお前、この街のルールを知らないな。今から俺がそこの警官につかまるか見てみな」
犯人の開き直った様子をみて、警官のミシェルさんがため息をつきながら言う。
「その様子だと、罰金を支払うんだな」
「ああ、もちろん、犯罪者扱いは嫌だからな」
「……500ドルの窃盗は、罰金180ドルだな。ほら、この書類にサインをしろ」
犯人はサラサラとサインをする。
「あいよ。これが罰金の180ドルだ。じゃあ、あばよ」
犯人はお金を払うと、堂々と玄関から出て行った。警官は捕まえないのだろうか?
福竹アナウンサーがミシェルさんを急かす。
「何やってるんですか、犯人を捕まえないと!」
あわてる福竹アナウンサーを落ち着かせるように、ミシェルさんは言う。
「罰金を払ったから追いかける必要は無い。この街では、950ドル以下の小額の窃盗では、罰金を払えば罪に問われないんだ」
「えっ? 犯罪は犯罪じゃないんですか?」
いまいち理解の出来ない福竹アナウンサーに、銀行員さんが説明をする。
「宇宙人の監視が外れたときに、この街では爆発的に犯罪が増えました。本格的な銀行強盗とか、殺人や傷害事件とか重犯罪がね。警察の手が足りなくなり、住民投票で被害額が900ドル以下の犯罪は、罰金を払えば免除される仕組みを導入したんです」
福竹アナウンサーが、あっけに取られながら質問をする。
「そんな仕組みを導入したら、犯罪が増えますよね」
「ええ、さらに手に負えないくらいに増えましたよ。普通の街だと、こんな仕組みは直ぐに廃止されるのですが、この街の住人の大半は犯罪者になってしまったので、もう廃止されないでしょうね……」
ミシェルさんが、ふたたびため息まじりに言う。
「まあ、そういう事だ。もう少し街のパトロールをしてみようか」
福竹アナウンサーとミシェルさんはパトカーに乗ると、街の中を走り始めた。
車を走らせながら、ミシェルさんが街の説明をする。
「あのドラックストアは、万引きが多すぎて潰れた。あそこのスーパーは、だいぶ頑張っていたが、やはり潰れてしまったよ。店は次から次に潰れていっている、まあ、無理もないけどな」
「銀行とか、よく潰れないですね」
福竹アナウンサーが聞くと、ミシェルさんはこう答えた。
「銀行は、銀行強盗に関する保険に入っているから、盗まれても保証で補われるらしい。ただ、その保証も、今月いっぱいで打ち切られるそうだ。そうなると撤退だな」
「この街はどうなってしまうんでしょうか?」
「まともなヤツは、もう街から出て行っちまったし、終りだろう」
ミシェルさんが寂しそうに言う。その後、福竹アナウンサーも黙ってしまった。かける言葉が見当たらないのだろう。
ここで密着取材のVTRが終り、ふたたび中継に戻ると、福竹アナウンサーが喋り始める。
「この町は犯罪者に乗っ取られたと言って良いでしょう。軽犯罪はもはや数え切れないほど増加して、重犯罪や火災も頻繁に発生しています。私は、すぐに宇宙人の監視下に戻した方が良いと思うのですが、そうなると、もう犯罪は行えません。住民のほとんどが犯罪者のこの街に、その住民投票が通るとは思えません。絶望的に見える状況ですが、この街に新たなビジネスが生まれようとしています、一端、CMをどうぞ」
番組の前半が終り、CMに入った。こんな街で本当に、新たな産業が生まれるというのだろうか?




