管轄外地域 2
宇宙人が、全く監視をしていない街があるらしい。
テレビでその街の特集をするというので見ていると、ひっきりなしにパトカーが行きかう、治安の悪そうな風景が映った。番組はやがて事前に取ったVTRを流し始める。
ヘルメット、防弾チョッキという重武装の福竹アナウンサーがカメラに映る。
「私、ゴッサルシティーの警察署に来ています。本日は、一日、警察の方に密着して、取材を行なう予定です。ミシェルさん、今日一日、よろしくお願いします」
福竹アナウンサーは、割腹の良い中年の警察官に挨拶をする。警察官は、軽く会釈をしてから、1枚の紙を取り出して来た。
「ああ、よろしく。まずはこの誓約書にサインを頼む。これは、『これから何が起こっても、警察には責任ではない』って誓約書だ。これから行くところは治安が悪いからな」
「わかりました。ではサインをしましょう」
迷うこと無く、颯爽とサインをする福竹アナウンサー。その姿は一流のジャーナリストで、とてもカッコ良く映っている。
サインが終わると、福竹アナウンサーは現場のディレクターに聞く。
「これ、番組の演出ですよね?」
「そうだと良いんだケドね。まあ、あまり気にせず行きましょう」
「気にしないでって……」
饒舌な福竹アナウンサーが言葉を無くした。そうだ、この番組はテレビ都京の番組だった。想定外の事故が起こっても不思議ではない。
サインをした後、ミシェルさんが福竹アナウンサーに言う。
「とりあえずサインはもらったものの、そこまで心配しなくても平気だ。犯罪者だってバカじゃない。怪我を負わせるような傷害罪は重罪になるし、下手すりゃ殺人未遂なんて罪にでもなりゃあ、何十年も出てこられないのを知っているからな」
「それを聞いて安心しましたよ」
福竹アナウンサーが、ホッと胸をなで下ろす。すると、ミシェルさんはボソッと言った。
「まあ、たまに損得勘定の出来ないイカれたヤツはいるから、そういったヤツらだけは気をつけてくれ」
「あっ、はい。気をつけます」
福竹アナウンサーが、一気に青ざめる。
アメリカなので、下手をするとカーチェイスとか、銃撃戦とかに巻き込まれそうだ。
ミシェルさんはサインした書類を、デスクワークの警官に渡す。すると、書類を受け取りながら、こんな会話が始まった。
「ミシェル。2丁目の銀行と、5丁目の郵便局で銀行強盗が発生しているぞ」
「またか。郵便局は三日前にも銀行強盗が入っただろ?」
「いや郵便局は二日前だな。4丁目の信用金庫は三日前に襲われたんだが、それと覚え間違いをしてるだろ」
「ああ、そうだったか。さすがに銀行強盗がこれだけ多いと、覚えきれないからな……」
「まったくだぜ、本当にどうしようもないよな。2丁目の銀行は、1週間ほど襲われていないはずだから、こっちの方が金が残っているかもしれないぜ?」
「ああ、じゃあ、2丁目の銀行にちょっくら行ってくる。福竹アナ、ついてきな」
「はい、ご同行させていただきます」
ミシェルさんと福竹アナウンサーは、パトカーに乗り込んで銀行へと向っていく。
ちなみに、銀行強盗が発生しているというのに、慌てる様子は無く、ゆっくりとした動作だった。あまりに犯罪が多くて、日常となっているのだろう。緊張感がほとんど無い。
車に乗り込み走り出すと、福竹アナウンサーは、運転中のミシェルさんから、話を聞き出す。
「先ほどの話を聞いていましたが、この街で銀行強盗はよく起きるのでしょうか?」
「ああ、銀行強盗や窃盗は、無数に起きている。警官が取り締まっているが、とても追いつけない状況だ」
「なぜ、そこまで犯罪が多いのでしょうか?」
「主な原因は2つだな、一つ目は、この街がエイリアンの監視から外れた為だ。この街以外のエイリアンの監視している街だと、犯罪をしてもすぐにバレるだろ?」
「ええ、そうですね。常に監視されていますから、犯罪行為はすぐに捕まりますね」
「ああ。だが、この街では、その監視がない。犯罪をしてもバレない可能性がある訳だ。そこで、銀行強盗や詐欺で儲けようっていう、ろくでなしどもが全米から集まって来やがった」
福竹アナウンサーがあきれた表情でたずねる。
「そんな悲惨な状況なんですか?」
「ああ、新規の転入者どもは、『宇宙人の監視のストレスに耐えられない』とか、表向きは適当な理由をつけてはいるが、ほぼ間違いなく犯罪者だろうな」
「……確かに、こんな治安の悪い街に、わざわざ引っ越してきませんよね。かえってストレスが増えそうです」
「まあ、そんな感じだ。さらに街の状況を悪くした、街の条例があるんだが…… おっと銀行についた。さあ行くぞ」
パトカーが銀行に着いたらしい。ミシェルさんが車から降りると、福竹アナウンサーが、緊張した表情でついていく。




