マッドハンド 4
『スマッシャーブラザーズ』で、ミサキとジミ子のタイマン勝負にもつれこんだ。ゲームの腕でかなわないミサキはジミ子に対して、ちょっとした妨害をしようとする。
どこだってドアと同じ仕組みの腕輪を使い、腕を切り離した。
離れた腕は、トコトコと指を足のように使い、歩いてジミ子へと向っていく。
腕は、ジミ子の場所に来ると、体を這い上がり始めた。
「いま、大事な所なんだから、ちょっかいを出さないでよ」
ジミ子がヤン太に向けて言う。
「俺は何もしてないぜ、何を言っているんだ?」
ヤン太はテレビ画面を見ながら答える。みんなゲームに夢中で、この事態に気がついていない。
「ああ、もうしつこいわね!」
振りほどこうとして、ジミ子は這い上がってくる手を見てしまう。
「えっ? ぎゃあー!」
見た瞬間に悲鳴があがった。まあ、あたりまえだろう。こんな光景は、ホラー映画かテレビのドッキリ映像でしか見たことがない。
悲鳴をあげてコントローラーを放り出すジミ子。ミサキはこのチャンスをのがさない。
「ふふ、今なら一方的に攻撃できるわ。これでも喰らいなさい!」
左手だけで器用にコントローラーを操り、ジミ子のキャラクターを画面外に押し出そうとした時だ。ジミ子が勢いよく立ち上がったので、体をつかんでいたミサキの腕が離れて、床に落ちた。
「いたっ!」
思わず声をあげるミサキ。慌てたジミ子は、たまたまミサキの腕を踏んづけた。
「いったぁ!」
落ちた時はあまり痛そうではなかったが、踏まれるとさすがに痛いようだ。ちょっと涙目になっている。
「なんだ、こりゃ。気持ち悪いな」
キングが腕を見てドン引きする。
「とりあえず、窓から捨てるか」
ヤン太がそう言って、腕をガシッとつかんだ。
「待ってぇ~」
ミサキはつかまれた状況から脱出しようと、腕を激しく動かす。それはまるで意思を持った別の生物だ。動きがとても気持ちが悪い。
このままでは本当に捨てられそうなので、僕が止めに入った。
「ヤン太、待って。それはミサキの腕なんだ」
「これが? 本当かな?」
そう言ってヤン太は腕をつねってみる。
「いった。つねらないでよ!」
ミサキが痛がっているのを確認すると、どうやら納得したみたいだ。
「そうだな。ミサキだったら、こういう事をしでかすな」
「そうね」
「ああ、やりかねないな」
ジミ子とキングも納得したようだ。まあ、ここら辺は、日ごろのミサキの行動によるものだろう。
一息つき、とりあえず落ち着いたようなので、僕がみんなに説明をする。
「ミサキの腕についている腕輪は、小型の『どこだってドア』のような装置で、腕輪同士は繋がっているんだ」
それを聞いたキングが言う。
「じゃあ、断面はどうなっているんだ? もしかして切断面が見えるのか?」
その質問にはミサキが答える。
「何か、プラスチックの蓋が付いてる感じね。そこに製造番号か何かが書いてあったわ」
一瞬、グロい光景を思い浮かべてしまったが、そうではないらしい。腕輪を見てみると、ミサキの言った通り、灰色の蓋で覆われて、そこにシリアルナンバーのような英数字が振ってあるだけだった。
僕は少し安心をする。これで切断面が見えていたら、まさにホラーそのものでしかない。
「これ、なかなか便利なのよ。例えばあそこにリモコンがあるじゃない」
ミサキは遠くにあるテレビのリモコンを指さして言った。続いて説明をする。
「そんな時には、こう、腕を取り外すの」
腕を取り外すと、腕はトコトコと歩いて行き、リモコンのボタンを指で押すと、ふたたび指で歩いて戻ってきた。
「ね、便利でしょ」
これを見て、キングが言う。
「それだったら、スマフォのリモコンのアプリか、音声認識で家電が動かせるスマートスピーカーを設置すれば良いだろ」
「テレビのリモコンはそうかもしれないけど、これはもっと便利なのよ。チョット離れたお菓子とか、飲み物とか、何でも持ってこられるんだから。冬だったら、コタツから出ないでなんだって出来るわよ」
多少は便利になるかもしれないが、少し歩けば済む話でもある。ミサキはそこまでして動きたくないらしい……
「まあ、有効な使い道は後で考えるとして、面白そうだから、僕にも貸してよ」
「いいわよ。はい。ここをこうすれば、腕が外れるようになってるの」
僕はミサキから腕輪を借りると、装着して、試しに腕をはずしてみる。そして、トコトコと指で歩こうとするのだが、腕だけではバランスよく歩けない。それどころか、ひっくり返って、まともに立つのも難しい。
この様子をみて、ミサキは僕に言う。
「意外と難しいでしょ。自由に歩けるようになるまで、朝まで掛かったんだから」
なるほど、ミサキはこの練習をしていて徹夜した訳か。それだけ時間があれば、残っていた宿題を終わらせられた気がするのだが……




