マッドハンド 3
宿題はまだ終わっていないが、ミサキが『スマッシャーブラザーズ』に参戦してきた。
キングが抜けて、かわりにコントローラーを握ったミサキは、僕たちに向って宣言をする。
「ふふふ、私が参入したから、みんなギッタンギッタンにしてあげるわ! 覚悟しなさい!」
「よし、その挑戦を受けてやろう。いくぞみんな!」
ヤン太の合図と共に、僕らはミサキのキャラに襲いかかる。僕らは先ほどまで協力してキングと戦っていた。連携はバッチリだ、流れ作業のようにミサキのキャラを画面外に押し出した。
「あっ、負けた……」
呆然とするミサキに対して、ヤン太がボソリとこぼす。
「あっという間に勝てたな。キング以外の普通のプレイヤーだと、こんなに弱いのか……」
ミサキがふてくされながら言う。
「私ばかり狙わずに、つぎは普通にプレイしてよ」
「さっきは、ギッタンギッタンとか言ってなかったっけ? まあ、いいや、次からは普通にやろう」
残った3人で戦って、この回はたまたま僕が勝ち抜けた。
「さあ、次のゲームをやりましょう!」
ミサキに急かされて、再びゲームが始まる。
「行くわよ、うりゃあ!」
ミサキはゲームが始まると同時に、ジミ子へ攻撃を仕掛けた。
「甘いわよ。それ」
ジミ子は攻撃を難なく躱し、背中に回り込むと、押し出すように攻撃を加える。すると、ミサキのキャラはそのまま画面外へと落ちていった。
「……負けたわ。私、このゲームは慣れていないから、ハンディをちょうだい」
それを聞いてヤン太がOKを出す。
「良いぜ、どのくらいハンディをつける? とりあえず、最大レベルにしようか?」
『スマッシャーブラザーズ』は、キャラクターを強化したり、弱体化したりする事が出来る。強化は3段階に分かれていて、ヤン太は最大のレベルアップを提案した。
すると、ミサキはこんな事を言う。
「それだったら、妨害する権利をちょうだい」
ミサキがおかしな事を言い出した。『スマッシャーブラザーズ』は、相手をいかに妨害するのかというゲームで、常に妨害行為は行なわれる。いちいち妨害の許可をとっていてはゲームにならない。
「まあ、良いけど、何をやらかす気だ?」
ヤン太がとりあえずOKを出すと、ミサキはニヤリと笑いながら言う。
「ふふ、秘密よ!」
2ラウンドはヤン太の勝ちで勝負が終わる。3ラウンドが始まると、ミサキがいきなりテレビの前に飛び出して、反復横跳びをしはじめた。この行動にジミ子が文句を言う。
「何をやってるの、画面が見づらいじゃない」
「ふふっ、これが私の妨害よ。どうかしら、見づらいでしょう?」
ミサキの反復横跳びの後ろから、僕らは覗き込むようにゲームをする。ミサキが画面を横切るたびに、キャラクターを見失い、ゲームの難易度が一気に上がった。
ミサキ自信の視界は塞がれていないので、ミサキの一方的な試合になるかと思ったのだが、それは違った。ゲームを続けているうちに、ミサキとミサキのキャラクターの動きが悪くなってくる。やがて、ミサキは座り込んでしまった。そして、キャラクターは、そのまま画面外へとはじき出される。
「あれ? 妨害行為はもうしないの?」
僕がそう聞くと、ミサキは息を切らせながら言う。
「ええ、ちょっとこの妨害はやめるわ。この方法、疲れるんですもの……」
まあ、確かに反復横跳びをしながら、ゲームをするには無理がある。
3ラウンド目はジミ子の勝利で終わった。引き続き、4ラウンド目が始まる。
このラウンドはミサキはほとんど動かない。どうやら守りに徹するようだ。
僕とヤン太が壮絶な攻撃を出し合い。僕が何とか勝利を収めた。
「やった」
「くそっ」
ヤン太に勝ったと思った瞬間。ジミ子に背中を攻撃される。
「スキ有り」
隙だらけの僕のキャラは、背中を蹴られ、画面外へとはじき出された。
「あっ……」
ミサキとジミ子の一騎打ちとなった。
「ふふ、この時を待っていたわ、どりゃー」
今まであまり動かなかったミサキは、動き出し、ジミ子に攻撃を浴びせる。
「甘いわよ。そんな攻撃じゃ私は倒せないわ」
ジミ子は攻撃をかいくぐり、ミサキに攻撃をしかける。
「うぐぅ、まだまだぁ」
ミサキはジミ子の攻撃をなんとか耐える。ゲームの腕は、ジミ子の方が、かなり上だ。
「このままじゃ負けるわね。とっておきを出すわ」
ミサキはそう言って、右手に付けた腕輪をゴソゴソと触りだした。これは、腕輪に見えるが、姉ちゃんの渡した小型のどこだってドアだ。
腕輪はやがてガチャリと音を立てると、ボトリと腕が落ちた。ミサキは、のこった左手だけで、器用にゲームを続ける。ちなみにみんなはテレビ画面に夢中で、この事に気がついていない。
切断された右腕は、手を下にして、逆立ちのように立ち上がる。そして、トコトコと器用に歩き出した。対戦相手のジミ子に、静かに近寄って行く。




