マッドハンド 2
日曜日の午前中、勉強を見るためにミサキの家に行く。
家のチャイムを鳴らすと、すぐにミサキのおばさんがやって来た。
「ツカサくん、いつもミサキの勉強を見てくれて、ありがとうね。いま、呼んでくるから。ミサキ~ ツカサくんが来たわよ~」
しばらく経つと、ミサキがパジャマ姿でやってきた。いつも通りのだらしのない格好だが、今日は目の下にひどいクマができていた。
「ミサキ、どうしたの、そのクマは? もしかして、徹夜で……」
宿題をこなしたのかと感心をしていると、ミサキは右手につけた腕輪を指さしながら言う。
「そう、このアイテムの使い道を研究していたの。まったく寝ていないから、お昼までは寝かせて。午後からは家であそびましょう」
そう言って、ふらふらと自分の部屋に戻っていった。
ミサキの突然の予定変更は、いつもの事だ。僕は他のメンバーに連絡を回すと、午後に備えてゆっくりと休む。
お昼ご飯を食べて、ミサキの家に行く。チャイムを鳴らすと、今度はミサキが出てきた。
「待っていたわ。この右手の使い方を見せてあげる」
そう言って、右手につけた腕輪を見せびらかす。まだ寝ぼけているのだろうか?
僕は軽く聞き流すと、こんな質問をする。
「他のみんなはまだ来てないの?」
「ええ、まだ来てないわね」
「それじゃあ、宿題を進めちゃおうか、まだ終わっていないでしょ?」
「う、うん。まだだけど、それより、この右手を……」
「その使い方は、宿題が終わってからね」
ミサキのやりたい事をやっていると、間違いなく宿題が終わらない。僕は強引に宿題を推し進める。
僕がミサキの宿題を見ていると、やがてヤン太とジミ子、そして最後にキングがやって来た。キングはリュックサックを背負っていて、中からゲーム機を取り出す。
「ネンテンドー、スウォッチを持ってきたぜ、テレビに繋いで、みんなでゲームをやろうぜ!」
「やろう」「やりましょう」「やろうか」
ヤン太とジミ子と僕はすぐにゲームを始めようとする。もちろんミサキもやりたがる。
「じゃあ、私も……」
ゲームで遊び始めようとしたので、僕が強めに言う。
「ミサキは宿題が終わってからにしよう。そうしないと、宿題が終わらないでしょう」
「えっ、そんなぁ…… でも、それはそうかもね。さっさと宿題を終わらせるわ!」
ミサキがすごいスピードで宿題をやり始めた。この分だと早めに終わるかもしれない。
キングが僕らに聞く。
「ゲームは何にする? いくつか持ってきたけど」
「アレで良いんじゃないか、『スマッシャーブラザーズ』で」
「そうね。それで良いんじゃない」
ヤン太とジミ子が『スマッシャーブラザーズ』を選んで、それに決まった。
『スマッシャーブラザーズ』とは、みんなでワイワイとやる簡単な格闘ゲームだ。キャラクターの体力などは無く、攻撃して画面外に弾き出せば勝ちという、とてもシンプルなルールで、初心者でもある程度は戦える。
「よし、まずは共闘して、キングを落とすぞ!」
「うん」
「分ってるわ」
ヤン太と僕、ジミ子は協力してキングと戦う。3対1は卑怯に見えるかもしれないが、こうでもしないと僕らはキングに歯が立たない。
「よし、じゃあスタートさせるぞ」
キングがスタートボタンを押し、ゲームが始まった。
ガチャガチャとコントーローラーを動かしながら、キャラクターを操作する。
「ああ、クソっ」
「えっ、次のターゲットは私? あっ」
「……僕1人で、キングに勝てる訳がないじゃない」
先走ったヤン太がやられて、続いてジミ子、最後に僕がやられた。やはりキングは強い。
「今度は、無理をしすぎて飛び出すなよ!」
ヤン太がリーダーとなって、僕らはキングに立ち向かう。
10回くらい戦っただろうか。勝率は6対4くらいで、何とか僕らの優勢だ。
次の戦いの時、僕のキャラは早々にやられてしまったので、ミサキをチラリと見てみると、テレビを食い入るように見つめていた。もちろん、勉強の手は完全に止まっている。
「ミサキ、勉強はどうしたの? 手が止まってるよ」
「しょうがないじゃない。楽しそうにゲームをしていれば、誰だってそっちを見ちゃうわよ。ね、お願い、1回、ゲームをやらせて。1回だけゲームをやったら、勉強にもどるから」
それを聞いていたキングが、こんな提案をする。
「さすがにかわいそうだな。少しくらいだったら良いんじゃないか、俺がしばらく抜けるよ」
「ふふ、面白い戦いになりそうね」
ジミ子が不敵に笑う。ゲームの腕はキングが飛び抜けているが、他のメンバーはそれほど大差は無い。ちなみにジミ子はカッコをつけてセリフを言っていたが、キャラクターはキングに吹き飛ばされて、失格になっていた。
同じくらいの腕前のプレイヤーがこれから戦う。大乱闘が始まりそうだ。




