表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

523/567

懐かしいトイレ 3

 ミサキが、男性用の小のトイレで大失敗をしてから、数日が経った。

 朝食の食卓で、姉ちゃんが僕に言う。


「そうそう。あの小のトイレ、試しに弟ちゃんの学校に設置する事になったから」


「えっ? アレを設置するの? 大丈夫なの?」


「まあ、機能的には問題ないから平気でしょう。少し改良もしたし」


「どんな改良なの? 詳しく教え……」


 そう言いかけると、母さんが止めに入る。


「いまは食事中でしょ。トイレの話題は後にしなさい」


「はい」「はぁい」


 この話題はすぐに止めて、なんの変哲も無い天気の会話になった。トイレは、まあ、学校に行ってみれば分るだろう。



 ミサキと一緒に学校に行き、教室に着くと、既にクラス中でトイレが話題になっていた。さっそく僕たちも見に行く。


 トイレは人であふれていた。人混みの中を覗くと、昨日までは何も無かった窓側の余白のスペースに、小のトイレが2つほど並んで設置してある。元男子には懐かしい風景だが、女子にとっては物珍しいだろう。



 みんな、このトイレを見ているだけで使おうとはしない。僕も遠巻(とおま)きに眺めていると、声を掛けられた。声の主はヤン太とジミ子とキングだ。


「おはよう。あのトイレで用を足した人はいる?」


 僕がみんなに聞いてみると、ヤン太がこう答える。


「元男子で2人ほどチャレンジしたヤツがいたな。基本的には俺たちの使ったヤツと同じだと思うが、少し機能が追加されているみたいだ。ズボンを下ろそうとすると、ホログラムのスクリーンで目隠しが現われた」


「へえ、そうなんだ。さすがに女子で使った人はいないよね?」


「それはいないな。使い方を説明した張り紙があるみたいだが、試すヤツは居ないだろう」



「小トイレは使うヤツが少ないけど、あっちの機械は人気があるぜ」


 そういってキングが洗面台の横の、空気で水滴を吹き飛ばす、エアータオルを指さした。


 ミサキが不思議そうに聞く。


「あれがどうかしたの? 普通のエアータオルみたいだけど?」


「まあ、使ってみろよ」


 キングに言われるがままに、僕とミサキは洗面台で手を洗い、エアータオルを使ってみる。すると、手についた水が、一発でスルッと落ちた。普通のエアータオルだと、吹き出し口を何度も往復させなければいけないのだが、これは1回、軽く通過させるだけで、見事に乾燥する。指の間に水滴がまるで残っていない。



 ミサキが手を確認しながら言う。


「すごいわね、これがあれば、もうハンカチなんて要らないじゃない」


「確かにそうかもしれないけど、ハンカチは持ち歩こうよ。他の場面でも使うかもしれないんだから」


「まあ、いいじゃない。それより、これ、どうなってるのかしら?」


 ミサキが不思議そうにしていると、キングが解説してくれる。


「おそらく小のトイレと同じだろう。空気の流れはもちろん、重力操作とか、牽引ビームとか、色々な技術を使ってるんだと思うぜ」


「ふーん。なるほどね」


 ミサキは納得した感じを出すが、理屈は分っていなさそうだ。目が泳いでいた。



 登校する人が次々とトイレに押しかけてきて、身動きがとれなくなるくらい渋滞をする。

 もはや人の波でトイレを見る事もできない。しょうがないので、クラスに戻ると、しばらくしてチャイムが鳴り、授業が始まった。


 朝のホームルームの時に、担任の墨田(すみだ)先生が、トイレの使い方の説明をする。男子は「へー」とか「ふーん」などと、比較的、スムーズに受け入れたようだが、女子は違う。おそらく女子には使われないだろう。


 説明が終わると授業が始まり、普段と変らない時間が流れはじめる。



 3時間目の授業が終り、4時間目に入ろうとした時だ。

 4時間目の授業は、体育なので、みんなトイレを済ましておこうとする。毎週、この時間はトイレが渋滞する。人によっては、わざわざ階の違う、他の学年のトイレに行く人もいるくらいだ。


 今日も渋滞するだろうと思い、僕は体操着に着替える前に用を足した。トイレから戻り着替え終わると、こんどはミサキがトイレに行きたがる。


「トイレに行っておきましょうよ」


「僕はもう済ませたよ」


「いいから、みんなで行きましょう」


 強引にトイレにつれていかれる僕たち。



 トイレに入ると、思いの(ほか)、空いていた。その理由はすぐにわかる。元男子が小のトイレを使っているからだ。

 個室のトイレは8つ、小のトイレは2つしかないが、小のトイレの方が回転が速い。次から次へと元男子は用を足していく。


 これを見たミサキが、また、試してみたくなったようだ。


「私、あっちでやってみるわ」


「大丈夫なの?」


 僕が心配をすると、ミサキは胸を張って言う。


「大丈夫よ。二度と同じ失敗はしないわ。『汚名挽回(おめいばんかい)』よ」


 それを聞いたジミ子は思わず突っ込んだ。


「それを言うなら『汚名返上(おめいへんじょう)』ね。『汚名挽回』だと、また大惨事になるわよ」


「……ま、まあ、平気よ。行ってくる」


 そう行ってミサキは小の便器の方に行ってしまった。



 小のブースに人が入ると、後ろにホログラムの壁が出て、胸あたりから(ひざ)くらいまでを隠す。ごそごそと短パンを脱ぐと、すぐにジョロジョロと音がしてきた。ミサキが豪快(ごうかい)に用を足しているらしい。


 やがて、出し終わり、体操着の短パンを上げると同時に目隠しが消える。


 スッキリしたミサキが僕に向って言う。


「これ、早くて楽ね。昔の男子はいつもこうだった訳?」


「うん、そうだよ」


「良いわね、今度から、こっちを使って行こうかしら」


「分ったから、さあ授業に遅れるから行こう」


 ミサキを引っ張るように校庭に連れ出して、体育の授業が始まった。

 この小のトイレ、学校や劇場や映画館など、一定の時間に、みんなが駆け込むような施設には良いかもしれない。



 体育の授業が終り、昼休みが過ぎて、放課後になった。

 誰も居ないトイレで、僕はこの小のトイレを試してみる。


 ……ところが、なかなか出てこない。体が立ってやる事を拒否しているようだ。

 あまりにも出てこないので、結局、僕は個室に入り用を足した。なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく出せるミサキは、もしかしたら凄いのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 小で大失敗という言葉に笑った。 [一言] 股間を露出するのに抵抗ありそうですよね。 利便性以外の問題もありそう。
[良い点] ツカサがもう女の子に… 性別転換好きよ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ