懐かしいトイレ 2
姉ちゃんが、使わなくなった、男性用の小の便器を指して言う。
「これが新しく開発した便器よ。試してみてちょうだい」
「姉ちゃん、何を言ってるの? 僕らにはもう、アレがついてないんだから無理だよ」
訳の分らない事を言う姉ちゃんに、強く抗議をすると、姉ちゃんは得意そうに言った。
「ここにはいくつもの小の便器がならんでいるけど、この便器だけ特別な改造をしてあるの。ちょっと見ていてね」
姉ちゃんは、用意していた空のペットボトルに水道水を入れると、それを便器の前でひっくり返した。普通なら水がこぼれ、床がビシャビシャになるところだが、結果は大きく違った。ペットボトルの口から、水が飛び出すように便器に向って放たれる。
「……なにこれ? 姉ちゃん、どうなってるの?」
「重力や気流操作、牽引ビームなんかを使って、水の流れを操っているの。これなら女性でも立ちションができるでしょう」
「うん、まあ、できるかもしれないけれど……」
女性になって、かなり時間が経過している。今さら立ちションは恥ずかしいだろう。
そう思っていたのだが、ヤン太が行動に出た。
「これ、男だった時の感覚でやれば良いんですよね?」
「うん、そうよ。パンツ降ろして出せば大丈夫よ」
「じゃあ、さっそく。ふう」
ヤン太はズボンを下ろすと、小を出し始める。後ろからだとよく見えないが、ちゃんと飛んでいるようだ。
出し終わると、キングがヤン太に聞く。
「どうだった?」
「んー、まあ、ちょっと違和感があるけど、男だった時みたいにできるな」
「本当か? じゃあ、俺もやるか。そろそろ膀胱が限界だ」
キングはスカートの前の方を口に咥えると、用を足し始めた。外見は美女なので見ていると変な気分になってくる。
出し終わったキングが言う。
「ふう、やっぱり男のやり方は楽だな」
パンツをはき直したキングに、ジミ子が聞く。
「そのまま履いたけど、紙で拭かなくていいの?」
「ああ、風が吹いて水分を吹き飛ばしてくれるぜ。なんか、ドライヤーみたいな感じだな」
そんな会話をしていると、姉ちゃんが解説をしてくれる。
「ええ、牽引ビームを使って、完全に水分を引き剥がしているの。紙で拭くより、効率的に乾かしてくれるわ」
やはり宇宙人の技術は凄い。まあ、こんな物に使わず、従来通りのトイレで、素直に紙で拭けば済む気もするけど……
「さあ、次は弟ちゃんの番よ。ドパーっと出しちゃって」
「えっ、うん。ちょっと待ってね」
ズボンを下げ、パンツを降ろすが、しばらくぶりに立ってやろうとすると出てこない。飲み物はかなり飲んでいて、すぐにでも出したいのだが、立ったまま用を足すのを体が拒否しているのか、出てくる気配が無い。
しばらく立っていて、出てこないのを見ると、姉ちゃんが小さな容器を指しだしながら言ってくる。
「もしかして緊張してる? そんな時はコレを飲んで」
容器は、乳酸菌飲料のヤヌルトだった。僕はそれを一気に飲み干す。
「こんな量の水分をとっても、変らないと思うけど……」
すると姉ちゃんは真顔で言った。
「いや、それ、利尿剤よ。ちょうどいい容器が無かったから、ソレに入れただけよ」
「えっ? ちょっと、嘘でしょ?」
残念な事に、嘘では無かった。飲んでしばらくすると、水道の栓が抜けたようにあふれ出した。
僕は、漏らしてしまったと思ったのだが、お小水は綺麗な放物線を描きながら、狙ったように便器に吸い込まれる。
用を足している時に、横からミサキが聞いてくる。
「ねえ、どんな感じ?」
「うん、まあ、問題ないよ。ちょっと恥ずかしいけど」
実はかなり恥ずかしいのだが、ミサキはあまり気にしていないらしい。
「本当? じゃあ、私もやろうかな。ジュース飲み過ぎちゃって」
ミサキが隣の便器で用を足そうとして、慌てて姉ちゃんが止める。
「ちょっとまってミサキちゃん。改造してある便器は一つだけで、それは今、弟ちゃんが使っていて……」
……遅かった。ミサキは隣でパンツを降ろし、やってしまった。普通の便器では、重力操作など行なわれることもなく、そのまま下に垂れ流す。結果として、ミサキは漏らしたような感じになってしまった。
「えっと? これは……」
呆然とするミサキを、姉ちゃんがフォローする。
「ちょっと待ってね。ロボットの掃除と、服のクリーニングを頼むから。直ぐ手配するわ」
大惨事が起こっている中で、ジミ子が申し訳なさそうに言う。
「私もちょっと用を足したくなったから、そこでやって来るわ」
そういって、大のトイレの方に入って行った。そう、男のトイレにも大はある。ミサキもジミ子のように、そちらで済ませばよかったのに……
この後、数体のロボットが駆けつけ、ミサキ以外はトイレの外に出された。
しばらくすると、服を持ったロボットがトイレから出て行き、少し遅れてジャージ姿のミサキが出てきた。
「あっ、10分ぐらいでクリーニングが終わるらしいから、ちょっと待っててくれないかな」
「うん、分ったよ」
とりあえず僕が返事をするが、あたりを気まずい空気が漂う。
あの小便器は、全く問題がないが、改造していない便器と見分けがつくようにしておかないと、大変な事になる。まだ改良が必要だと分った。




