懐かしいトイレ 1
夕食を食べ終えて、リビングのテレビをボーッと見ていたら、姉ちゃんが帰ってきた。
姉ちゃんは、僕を見つけるなり、こんな事を言う。
「弟ちゃん、新製品のトイレを作ったのよ。試しに使ってみて、感想を聞きたいんだけど」
「うん、いいよ。それなら他のみんなにも連絡した方がいいよね?」
スマフォを取り出し、メッセージアプリのLnieで知らせようとすると、姉ちゃんからストップがかかる。
「あっ、ちょっとまって。今回のテストは、元男性の人たちに頼みたいのよ」
「まあ、良いけど、どうして?」
「それは、まあ…… 新しいトイレを試す時に分ると思うわ。依頼を受けてくれるんだったら、当日はオシッコをなるべく我慢してきてね。そうそう、これを渡しておきましょう」
そう言って、メェクドナルドゥのドリンクバーのクーポン券をくれた。バイトの諸経費としては安すぎる気がするが、ここはありがたくもらっておこう。ヤン太とキングだけにメッセージを送り、テストのOKの返事をもらった。
翌日の放課後。僕らはメェクドナルドゥで過ごす。ドリンクバーのクーポン券は5枚あったので、今回、関係の無いミサキとジミ子も飲んでいる。
ちなみに、姉ちゃんと約束した時間まで、およそ1時間半ある。僕とヤン太とキングは、ドリンクバーで多めに飲み物を取りながら、いつも通り、マンガやテレビの話をして過ごす。
意図的に飲み物を飲んでいる僕らより、ミサキの方が多く飲んでいた気がするが、そこは気にしない。
およそ1時間半後、姉ちゃんから電話がかかってきた。
「弟ちゃん、こっちの準備は出来たから、いつでも会社に来てちょうだい」
「分った。今から行くよ」
そんな話をしていると、ミサキが割り込んで来た。
「ねえ、今からどこにいくの?」
「姉ちゃんの会社に行ってトイレのテストをするんだ。何か理由があるみたいで、元男子にテストをして欲しいんだってさ」
「へえ。どんなトイレだか気になるわね、私も見学して良い?」
「ちょっと待ってね、姉ちゃんに確認してみるから」
姉ちゃんに確認した所、見学しても大丈夫らしい。僕らはみんなで姉ちゃんの会社に移動をする。
メェクドナルドゥと姉ちゃんの会社は、同じ駅前のエリアにあるので、5分と歩かない。あっという間に会社にたどり着く。会社の前にはロボットが待機していて、僕らは会社の中へ通された。
部屋に入ると、姉ちゃんが僕らに言う。
「待っていたわ、さあ、トイレに移動しましょうか」
そう言って、男子トイレの扉の前に連れて行かれた。
宇宙人が来てから、全員が女性になったので、男子トイレという場所は無くなった。男性用の小の便器は、使えなくなり、すべて女子用と同じ、個室のトイレに作り替えられていった。
姉ちゃんが男子トイレの扉を開ける。すると、そこには昔のままの姿があった。なんと、男性用の小のトイレがまだ残っていたのだ。
これを見て、ヤン太が思わず声をあげる。
「おっ、珍しい。まだ残ってるなんて」
それを聞いて姉ちゃんが答える。
「ここのフロアは、私とレオ吉くんとチーフくらいしか居ないからね。男性用のトイレを直さなくても、充分に数が足りているのよ」
男性用のトイレが女性用のトイレとして作り替えられる理由は、個室の数が足りていないからだ。個室の数が足りていれば、無理に直す必要もなく、そのまま小の便器が放置される場合もある。ここはそういった、取り残された場所なのだろう。
「それで姉ちゃん、新しいトイレってどこにあるの? あっちの奥の個室かな?」
僕が聞くと、姉ちゃんは目の前の男性用のトイレを指さして言う。
「目の前にあるじゃない、これがそうよ」
僕らにはもう付いていない。小の便器で、どうやって用を足せというのだろう……




