読書の秋 2
姉ちゃんの会社が新しく電子書籍の端末を出すらしい。僕たちは、その端末のレポートを引き受けた。
翌日の放課後、僕たちは姉ちゃんの会社へと向う。どうやら端末の準備が出来たらしい。
会社の入り口に行くと、ロボットが待っていて、中の会議室へと通された。しばらく待っていると、姉ちゃんがやってくる。
「レポートのバイトを引き受けてくれてありがとう。最初に報酬の話をしたいんだけど、現金7000円か、最新式の電子書籍の実機のどっちが良い? ちなみに実機の方は、2~3万円で売り出す予定なんだけど……」
「実機の方が良いです」「俺も」「僕も」
全員が電子書籍の端末を選んだ。やはり現金より、宇宙人の技術で作った端末の方が魅力的だ。
「わかったわ。じゃあ、テストで使った端末を、そのままあげるわね」
「姉ちゃん、どんな端末なの? 早く見せてよ」
僕が急かすと、姉ちゃんは、ちょっともったいぶってから、端末を取り出した。
「これがその端末よ。どう?」
取り出して来たのは、どこからどう見ても紙の本だった。
「姉ちゃん、これ、紙の本だよね?」
僕が質問をすると、みんなに本の実物を手渡しながら答える。
「本のサイズは『四六判』にしたわ。少し大きめのマンガのサイズね。まずは手触りとかを確認して」
本を手に取って、中身をパラパラと確認するが、やはり紙の本だ。ジミ子も姉ちゃんに確認をする。
「これ、普通の本ですよね?」
「いいえ、電子書籍よ。試しに本の中身を変えてみるわね」
姉ちゃんがそう言うと、本のタイトルが『吾輩は描である』から、『蜘蛛の系』に瞬時に変った。中身を少し確認するが、本のタイトルに合わせて、文章も変っている。
「これは、どうなっているんですか?」
ミサキが聞くと、姉ちゃんが説明してくれる。
「これは、紙の質感を再現した、本みたいな電子書籍の端末よ。『本はやっぱり紙じゃないと……』っていう人も多くてね。その人たち向けに作った端末なの。表紙と中の200ページ。全てが電子ペーパーで出来ているわ」
ペラペラとめくりながら、ヤン太が感心しながら言う。
「なるほど。何にでも変えられる紙の本って感じですね」
「あっ、あくまで紙じゃなくて、紙の質感をもった電子ペーパーね。強化フィルムで出来ているから、人間の力じゃ切れないし、折り目もつかないの。防水加工もされていて、お風呂に持ち込んでも問題ないのよ」
なんと、かなり丈夫で、お風呂でも読めるらしい。紙より魅力的な機能が付いている。
「これは売れるんじゃないか? 本の切り替えは、どうするんだろ?」
キングが本を念入りに見回すが、ボタンやスイッチのような物は見当たらなかった。姉ちゃんが、操作方法について説明してくれる。
「その本の制御は、プレアデススクリーンか、スマフォに専用のアプリを入れて行なうの。スマフォの場合は、本の最終ページにQRコードがあるから、それを読み取って」
「了解。さっそく入れてみるぜ」
キングがアプリを入れて、起動してみる。すると、本のリストが表示された。
先ほどあった、『吾輩は描である』『蜘蛛の系』他には、『銀河鉄道の鵺』『走れメロウス』『入間失格』有名な作品ばかりだが、どれも古い。
姉ちゃんが、ちょっと申し訳なさそうに言う。
「古い作品ばかりでごめんなさいね。まだ開発段階だから、そこにあるのは晴空文庫の本だけなの。晴空文庫の本は、どれも著作権が切れているから、自由に使えるのよ」
それを聞いて、キングが質問をする。
「他の出版社とかの、電子書籍の端末としても使えないと、これは売れないんじゃないだろうか……」
「ああ、その点は大丈夫よ。テストが終わったら、先方の出版社の許可を取って、動くようにするから」
「それなら安心した」
キングがほっと胸をなで下ろす。
確かに、晴空文庫の本だけでは、買う人がいないだろう。
「今のところ、読めるのは晴空文庫のラインナップだけなんだね?」
僕が姉ちゃんに確認すると、意外な答えが返ってきた。
「いえ、実は、一部の新しい本も、無料で見られるの。ちょっと手間は掛かるんだけどね」
「どうやったら見られるの?」
「図書館に行って本を借りるのよ。ただ、本を借りる時に、実際の本を持って帰る訳じゃなくて、この端末にダウンロードするようにすれば良いわ。それで使えるようになるの。ちなみに、この場合は返却しなくてもOKよ。貸出期間中を過ぎると、その本は見られなくなるから」
「返さなくて良いのは助かるね。貸し出す本を管理する図書館側の負担も減ると思うし」
「そうね。色々と便利になると思うわ」
この後、みんなで予定を話し合う。その結果は、もちろん図書館に向うという結論だった。
姉ちゃんに挨拶をすると、僕らは会社を出発する。




