読書の秋 1
国語の授業の最後の方で、担任でもある墨田先生がみんなに言う。
「お前ら『読書の秋』なんだから、本の一冊くらいは読めよ」
それを聞いて、ミサキが胸を張って、こう言った。
「私はいつも読書してますよ。週に1冊くらいは読んでいます!」
「そうか。それなら読んだ本の簡単な感想文を書いてきてくれ」
「良いですけど、提出すると成績が上がりますか?」
「そうだな。では、宿題として全員に出そう。提出しないヤツは、評価を減点する」
「えー」「ふざけんなよミサキ」
宿題を増やされたクラスメイトは、ミサキにブーイングを飛ばす。
すると、ミサキは開き直って言う。
「まあまあ、みんなもこれをきっかけに、少しは読書をした方が良いよ」
そんな話をしていると、授業終了のチャイムが鳴った。
最後に墨田先生がミサキに言う。
「あー。読書にマンガは入らないからな。ちゃんと活字の本を読めよ」
それを聞いて、ミサキの顔が青ざめる。
「えっ? うそ……」
「では、国語の授業はこれで終りだ。みんな宿題を忘れるな」
こうして、余計な宿題を追加されて、授業は終わった。
その日の放課後、ハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥのテーブルで、ミサキが突っ伏しながら愚痴を言う。
「なんでマンガの読書はダメなのよ。同じ本なんだから、いいじゃない……」
「しかし、何で余計な事を言ったんだ。宿題を追加されちまったじゃないか」
ヤン太があきれながら言うと、ミサキは反論する。
「まさか、追加されると思ってなかったのよ。それより、本はどうしようかしら? 明日、みんなで図書館にでも行って、探してみる?」
「俺は、ちょっと前に買って、まだ読んでない小説があるから、それで良いかな」
「俺は読みかけの小説があるから、それで行くぜ」
「私も、もう少しで読み終える小説があるから、それの感想を書くわ」
ヤン太が答えると、キングとジミ子もそれに続いて答える。
みんな読む本が決まっているようだ。困ったミサキは僕に聞いてくる。
「ツカサはどうするの?」
「どうしようかな。この間、読んだ本の続編が出てるみたいだし、それでも読んでみようかな?」
「みんなけっこう小説を読んでいるのね……」
ミサキが感心をする。まあ、小説と言っても、ヤン太はヤンキーが主人公の本が多いし、キングはゲームのノベライズの本が多い、ジミ子はラノベと金儲け関係の本が半分くらいずつだ。僕らはあまり大した本は読んでいない。
「あ~どうしよう。とりあえず図書館の本棚を見て、本の厚さが薄い本を選ぼうかな」
ミサキがだるそうに言っていると、ジミ子が話題を変えてきた。
「そう言えば、みんなは紙の本派、それとも電子書籍派、どっち?」
「俺は紙派だな」
「僕も紙だね」
「俺は、ほとんど電子書籍だぜ」
ヤン太と僕は紙、キングは電子書籍がメインらしい。
「私も紙だけど、ジミ子はどうなのよ?」
ミサキが聞くと、ジミ子はこう答えた。
「私は安いのを買うわ。古本屋にあれば古本を買うし、電子書籍で半額セールをやって居ればそれを買うわ。定価で買うのなら紙の本ね。もしかしたら、プレミア価格がついて転売できるかもしれないもの」
さすがジミ子だ、あきれる程しっかりしている。ミサキは続いて、こんな質問をする。
「電子書籍で半額セールなんてやってるの?」
「やってるわよ。全部が安い訳じゃなくて、一部のタイトルが安くなる感じかしら。今、安売りしてるタイトルは、こんな感じよ」
ジミ子がスマフォで安売りの一覧を見せてくれる。
「へー、この本とか面白そう」
僕も覗いてみると、確かに面白そうな本がいくつかあった。半額で買えるなら、電子書籍も悪くないのかもしれない。
「俺は紙の方が良いな。やっぱ、実物がないと」
「でも、電子書籍はスマフォでいつでも見られるぜ」
ヤン太とキングの意見が対立する。そこで僕が仲裁に入る。
「まあ、それぞれの利点があるからねえ。ジミ子のように使い分けるのが良いのかも」
この意見に、ミサキが乗っかってきた。
「そうね。私も両方、使いこなせるようになってみせるわ」
すると、ジミ子がポツリという。
「まあ、ミサキだと、紙の書籍と電子書籍、まちがって両方を買って、重複しそうだけど」
「大丈夫! それは紙の本でもやったことがあるから!」
胸を張ってミサキは言う。もしかして、本棚の整理が出来ないミサキには、電子書籍の方が良いのかもしれない。
一通り、紙の書籍と電子書籍のメリット、デメリットを話し合った後。話は別の話題に流れていった。
夜になり、みんなと別れて家に帰る。
家には、姉ちゃんが既に帰っていて、缶ビールを飲んでいた。
僕は姉ちゃんが、紙か電子か、どちらの方が好きか聞いて見る。
「姉ちゃん、紙の書籍と電子書籍、どっちが好き?」
「うーん。私は、とりあえず電子書籍で読んでみて、かなり気に入ったら紙でも購入するかな? なんでそんな話をしてきたの?」
「今は『読書の秋』じゃない。みんなで、読むならどっちが良いかって話になったんだ」
「なるほどね。あっ、そうそう。こんど、うちの会社から、あたらしく電子書籍の端末を出すんだけどレポートをしてみる? 少ないけど、バイト代を出すわよ」
「うん、やってみたい」
姉ちゃんに話を振ったら、最新の電子書籍の端末の話題が出て来た。はたして、どんな製品が出るのだろうか?




