人体洗浄機 1
第37回目の改善政策が、発表された日の放課後。
ハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥに寄って雑談をする。
話題はもちろん改善政策の話だ。
「きょうのあの装置、なんだったっけ?」
ヤン太が話を振ると、ジミ子が答える。
「『全自動、人体洗浄機』ね」
「そうそう、その人体洗浄機なんだけど、あれ、必要か?」
その疑問にキングが答える。
「必要は無いんじゃないか? 普通のシャワーで体を洗えば済むし」
「そうね。私も要らないわ。お風呂で充分でしょう」
ジミ子も必要が無い思っているようだ。僕も、あの装置を否定はしないが、積極的に導入するかと言われると、その答えはNOだ。シャワーで充分だろう。
「そうだよな、必要ないよな」
不必要という結論にまとまりそうだったが、ミサキが反対をしてきた。
「私は、あの装置の導入に賛成よ。3分で体の乾燥までやってくれるんだから、すごく楽じゃない」
ずぼらなミサキらしい意見だ。この意見に、ジミ子が反論をする。
「値段が76万円もするんだけど、そこまでお金を出してまで欲しいの?」
「いや、それは……」
「もし、お小遣いを減らすかわりに、家に設置するって話になったらどうする?」
「……それなら反対するわ。メェクドナルドゥの限定バーガーが食べられなくなるじゃない」
ミサキもあっさりと反対派に回る。やはり、楽をするより食欲の方が勝るらしい。ちなみにミサキは今、期間限定の『トリプルビックバーガー』と『完熟アボカドバーガー』の二つを食べている。どちらか一つに絞れば、あの装置を導入できるんじゃないだろうか……
そういえば、改善政策の発表で気になった点があった。
「あのさ、今日、宇宙人は人体洗浄機の紹介の時、シャワーやお風呂の替わりとして、あの装置を紹介していたような気がするんだけど、みんなはどう思った?」
疑問を投げかけると、ヤン太がすぐに答える。
「そうだな。言われて見れば、そんな感じにも受け取れるな」
キングがスマフォで確認しながら言う。
「風呂に使っている場所を解放して、入浴時間も減るとか言ってるな。そうなると、風呂を取り壊して、アレを設置するわけか」
「お風呂に入れなくなるのは嫌ね」
「それなら俺も嫌だな」
「俺も風呂の方がいいな」
ジミ子が反対すると、ヤン太とキングが反対した。僕もお風呂が入れなくなるのは嫌だ。やはり、みんなお風呂の方が良いらしい。
「私は、お小遣いが減らなければ、どっちでもいいわよ」
1人、例外が居た。ミサキはあまり気にしないようだ。
否定派が4人、どちらでも良い派が1人。この状況をみて、ジミ子がこんな事を言う。
「世間ではお風呂好きの人が多いじゃない。人体洗浄機なんて売れるのかしら? 値段もそこそこ高いし……」
「僕が姉ちゃんに売り上げを聞いてみようか?」
「うん、お願いね」
僕とジミ子がこんな話をしていると、ミサキが割り込んでくる。
「そんなことより、この『トリプルビックバーガー』もオススメよ。肉がこれでもかと入っているの」
「へえ、そうなんだ。今度食べてみようかな」
「こっちの『完熟アボカドバーガー』もすごくおいしいの。アボカドが本当に完熟で、とろっとろなんだから」
この後、話題が食べ物に移り、そこから漫画やゲームといった日常の話になっていった。
ハンバーガーを食べ終えて、長々と話をした後に、僕らは家に帰る。
家に帰って、しらばくすると、姉ちゃんが帰ってきた。
僕は姉ちゃんに話を聞いてみる。
「姉ちゃん。今日、発表した『人体洗浄機』って売れてるの?」
「注文はそこそこ来てるわよ。今日、来た注文だけで、およそ2000個くらいかな」
「けっこう来てるね。あの装置って、お風呂の替わりに取り付ける訳でしょ?」
「ああ、チーフは、そう考えているみたいだけど、風呂場を撤去してまで設置する人は少ないわね」
「そうなんだ、具体的にはどのくらいの割合なの?」
「2000個のうち、企業向けの注文が1700個、一般向けは300個くらい。一般の人で、お風呂と入れ替えて設置する人は50人くらいかしら?」
「一般家庭だと300人しかいないのか…… そう考えると、めちゃくちゃ少ないね。やっていけるの?」
僕が質問をすると、姉ちゃんは得意気に答える。
「大丈夫よ。お風呂が普及している日本だと受注数が少ないけど、シャワーが多い外国では注文が殺到しているわ。特に、使う水が少ないから、水資源の乏しい国からは引き合いが凄いの。まあ、日本だといまいちなんだけどね、企業からはそこそこ注文が来てるけど……」
「日本の企業だと、どんな場所から発注が来てるの?」
「多いのは、銭湯や温泉ね、少し変った装置でお客さんを呼び込みたいみたい。他には、スポーツジムとか、工場などのシャワールーム替りに設置されるわ。特に、落ちにくい汚れの工場には、重宝されるでしょうね、汚れの落ち方が違うからね」
「ふーん、そうなんだ。僕らとはあまり関係なさそうな場所にしかないんだね」
「ええと、ちょっと待ってね。意外と近くにもあると思うから…… ほら、ここの銭湯とかに設置されるわ」
姉ちゃんがタブレット端末で、ある銭湯を指さす。その銭湯の場所には、見覚えがあった」
「ここって、4つほど隣の駅の、人に合わせて入浴剤を入れてくれる、人工温泉の銭湯の場所だよね?」
「えーっと、そうみたいね。そんなサービスもあったわね」
確かグループ会社のハズだが、姉ちゃんは忘れていたみたいだ。姉ちゃんは、ごまかすように僕に言う。
「ま、まあ、『人体洗浄機』に興味があったら試しに行ってみるのが良いかもね」
「うん、じゃあ、みんなに声を掛けてみるよ」
後日、この話をすると、みんなで銭湯に出掛ける事になった。




