第37回目の改善政策
お昼過ぎ、教室のテレビでいつもの番組が放送される。
「第37回目の改善政策の発表です。今週もおつきあいをお願いします」
「ヨロシクネー」
冒頭は、福竹アナウンサーと宇宙人のおなじみの挨拶で始まった。
「さて、今週は何を改善されるのでしょうか?」
「今週の政策は特に無いネ。そのかわり、新しい製品の発表をするヨ」
「ほう、その製品とは何でしょう?」
「製品の説明の前に、コレ、何だと思う?」
そう言いながら、宇宙人はテロップを出す。そこには『一日あたり、平均30分』と書かれていた。
福竹アナウンサーは、テロップを見ながら考える。
「30分ですか? ええと、なんでしょうね? お化粧に掛ける時間とか?」
宇宙人は次のテロップに切り替える。
「正解はこれネ。『入浴時間』の平均ヨ」
なるほど、確かに日本人なら、そのくらいお風呂に入ってそうだ。
入浴時間と聞いて、福竹アナウンサーはさらに話を聞き出す。
「今日は製品の紹介をするのですよね?」
「ソウネ。製品の紹介ネ」
「『入浴時間』に関係するというのは、どのような製品をなのでしょうか?」
「実際に用意してあるカラ、これから見に行くネ」
明石天文台のエレベーターを降り、外の駐車場へと移動する。すると、そこにはガラスで出来た電話ボックスのような物が置いてある。
宇宙人が製品を指さしながら言う。
「コレは『全自動、人体洗浄機』ネ」
「ぜ『全自動、人体洗浄機』ですか? 名前からして、体を洗う装置でしょうか?」
「ソウネ。洗浄から乾燥マデ、コレ一つで出来るネ」
「なるほど。少し話が見えてきました。この装置を使って、『入浴時間』を短縮するわけですね」
「ソウネ。洗浄のテスト用のマネキンを用意したカラ、試してみるカネ?」
「はい、動いている所を見てみたいです」
どうやら、番組で装置の試運転が見られるらしい。
テストする事が決まると、宇宙人が化粧品を福竹アナウンサーに渡す。
「コレでマネキンにメイクをしてネ」
「メイクですか? ああ、なるほど、メイク落ちを確かめる、洗浄のテストですね」
「ソウネ。ソレが終わったら、コレで落書きもするネ」
宇宙人はそういいながら、マジックを渡す。
「これは、油性マジックですね…… こんな物が落ちるんでしょうか?」
そう言いながら、福竹アナウンサーはマネキンにメイクと落書きをした。
メイクと落書きが終わると、スタッフが現われ、マネキンを人体洗浄機の中にセットする。セットが終わると、宇宙人がリモコンのボタンを押しながら言う。
「今回は、標準洗浄コースで洗うネ」
すると、霧のような細かい水がマネキンに吹き付けられる。
「何やら出てきましたね。水でしょうか?」
「ソウネ。始めに水で、汚れを浮かせるネ。次に洗浄するヨ」
すぐに霧の吹きつけが終り、今度は四方八方からシャワーのような水が浴びせられる。
「シャワーの水煙の中に、スポンジのような物も見えますね。体を洗っているようです」
福竹アナウンサーが実況をしようとすると、シャワーが終わってしまった。
「あっと、シャワーが終り、今は風が吹き付けられているようです。洗浄はもう終りでしょうか?」
「標準洗浄コースは、乾燥マデ含めて3分で終りネ。使用する水も、5リットルで済むネ」
「それは早くていいですね。水も節約できて経済的です」
洗浄が終わったようなので、スタッフがマネキンを装置から取り出した。
マネキンは、メイクや落書きが完全に落ちていて、綺麗な状態だ。
福竹アナウンサーが近くで確認しながら言う。
「これは、完全に落ちていますね」
「コノ装置があれば、汚れは完全に落とせるネ。時間も節約できて、場所も節約できるネ」
「場所ですか? 確かに、これがあれば、お風呂場が要らなくなり、コンパクトになりそうですが…… お値段は幾らでしょう?」
「120万円ヨ」
「高い、高すぎます!」
ここから、いつものように福竹アナウンサーの値下げ交渉になった。
値下げ交渉が延々と続き、宇宙人が折れる。
「分ったヨ、設置の工事費込みで76万円ネ」
「うーん。まだ下げられる気もするのですが、残念ながら、番組終了のお時間が近づいて参りました。みなさま、アンケートのご協力をお願いします」
いつものようにアンケートの画面が現われたので、僕はとりあえず賛成する方向で答えておく。
しばらくすると、結果が出て来た。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 72%
悪かった 28%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 83%
支持できない 17%』
アンケートの結果を見て、福竹アナウンサーが番組をまとめる。
「今週の政策も好評のようですね」
「ソウネ。いままで入浴に使っていた時間を、もっと有意義な時間に使って欲しいネ」
「私はお風呂の時間も、充分に有意義なひとときだと思いますけどね。それでは、また来週、お会いしましょう」
「マタネー」
こうして番組が終わった。




