移動式デパート 2
僕らは大きなデパートの中へと入って行く。
中に入ると、そこは普通のデパートと変らない。
1階は惣菜やお菓子などの食品がメインらしい、広い通路に色とりどりの売り場のコーナーが並ぶ。
「1階は、一般的にデパ地下と呼ばれている食品コーナーね。この建物には地下が無いから、1階になっているけど。移動デパートだけど、品揃えは本家のデパートと変わりないと思うわ」
姉ちゃんが軽く説明をすると、ミサキが店の中を見渡して言う。
「どれも美味しそうね。どれを買おうかしら」
そう言って歩き始めようとするのだが、それを姉ちゃんが止めた。
「ごめんね、ミサキちゃん。まだ食品は搬入してないから買えないの」
姉ちゃんは軽い気持ちで現状を言っただけだが、この一言がミサキには致命傷だった。
「ふぐおぉぉ、そ、そんなぁ、惣菜が買えないなんて……」
膝から崩れ落ち、奇声をあげる。
あまりの落胆っぷりに、心配して声をかける姉ちゃん。
「だ、大丈夫、ミサキちゃん? あっ、最上階の8階のレストランの、一部のコーナーで食事が出来るから」
「おっ、おおう。それは、本当ですか?」
「そうそう、だから安心して」
「は、はい、分りました」
ミサキはどうにか立ち上がるのだが、もらったダメージは大きいらしい、少し足元がふらついていた。まあ、食事をしたら回復するだろう。
ミサキに肩を貸しながら、食品コーナーを歩いて行く。お惣菜のショーケースには、餃子やシュウマイ、新鮮なサラダ、揚げたてに見える高級コロッケ。お菓子コーナーに行くと、どら焼きや大福、いちごのショートケーキなどが綺麗に陳列されている。
ジミ子が姉ちゃんに聞く。
「展示してあるのは、食品サンプルなんですか?」
「ええ、そうよ。3Dプリンターを使った、本物そっくりのサンプルね。売れなかった時の食品ロスを考えて、展示してあるのは全て食品サンプルなの。本物は、宇宙人の技術で冷凍して保存していて、注文が会った時に、電子レンジで解凍して渡す流れになっているわ」
すると、ミサキが、ショーケースにべちゃっと顔をつけて言う。
「こんなに美味しそうなにの、食べられないなんて……」
「上のレストラン行けば、食べられる場所もあるから、それまで我慢して。じゃあ、2階に上がりましょうか」
エスカレーターで2階へと上がると、姉ちゃんがエレベーターガールのように説明する。
「こちら、2階は化粧品とアクセサリー売り場になっております」
説明を聞いて、ヤン太がさらに上の階へと移動しようとする。
「俺らには関係ないんで、3階に行っていいですか?」
先を急ぐヤン太を姉ちゃんが止める。
「まあまあ。あなたたち、ちゃんとしたお化粧した事ないでしょう?」
「ええ、無いです」
「見て行くだけならタダだから。それに、今後の為にもなると思うわよ」
やや強引な感じで、僕らは化粧品コーナーへと移動をした。
口紅やファンデーション、マニキュアやアイシャドーが、色ごと、メーカーごとに並んでいる。
姉ちゃんはスマフォでどこかに電話をすると、一台のロボットがやってきた。
「デパートの化粧品コーナーだと、メイクのお試しが出来るのよ。誰かやってみる?」
すると、ヤン太がふざけながら言う。
「それならキングが良いんじゃないですか」
「えっ? 俺が? 俺はいいよ」
「まあまあ、やってみましょう」
姉ちゃんに無理矢理に席に座らされ、キングのお化粧が始まる。
ロボットがキングからリクエストを聞く。
「アイシャドーはいかがなさいマス? 口紅の好みの色は何色デスカ? 全体の雰囲気はどうしマス?」
「ええと、全部、適当で」
戸惑うキングの横で、姉ちゃんが指示を出す。
「高校生だから、薄めの、ナチュラルメイクっぽい感じでお願い」
「分りまシタ。了解デス」
キメの細かいファンデーションをつけ、肌色に近い口紅を引き、ほんのりと淡いピンクのアイシャドーをのせる。ロボットはあっという間にメイクを済ませた。ただでさえモデルのようなキングが、完璧に仕上がった。
ジミ子が半分キレながら、スマフォで写真を撮る。
「ちくしょう。この写真をトゥイッターにアップして『イイヨ』を稼いでやる!」
「そうね、これなら相当、『イイヨ』がもらえるわね」
ミサキもバシャバシャと取りまくる。
「まあ、俺もとりあえず撮っておくか」
「そうだね。僕は、ネットにアップするのはどうかと思うけど」
ヤン太と僕も写真を撮りまくった。
「そんなに写真を撮るなよ。どうせ、たいしたこと無いんだから……」
その言葉に、姉ちゃんが反応する。
「いいえ、化粧品のモデルができるレベルだわ」
「そんな事は…… ん? あれ? 意外と良いかも?」
鏡を覗きこんだキングが、ちょっとその気になる。すると、ロボットはメモを差し出した。
「コレが、今回、使った化粧品デス」
「……2万3千円。高校生のお小遣いじゃ、これは無理だ」
姉ちゃんもそれに同意する。
「そうね。口紅だけで4600円くらいするわね。私のよりいい値段がするわ」
「姉ちゃんはいつも、どのくらいの使ってるの?」
「だいたい1200円くらいかしら」
僕が値段を聞くと、良心的な価格が返ってきた。もし、口紅を買うとするなら、姉ちゃんから場所を聞けばいいだろう。僕には、キングと姉ちゃんの口紅の違いが分らない。
「ええと、アクセサリーコーナーは飛ばしていきましょうか、高校生には厳しい値段だから。見て行きたいなら寄るけど?」
「いいえ、早く上のレストランに行きましょう」
ミサキが断って、僕らは3階に移動する。




