移動式デパート 1
全国各地に新たな宅地ができて、住民が移り始めると、あらたな問題が発生した。それは買い物の問題だ。
居住地は、基本的には山の中が多いので、商店は近くに無い。どこだってドアで移動して、都会で買い物をするという手もあるが、交通費が下がったとは言え、場所によっては2300円程度はかかってしまう。
通販で住ませてしまうという手もあるが、僕らの両親の世代や、それより年齢が上の世代は、実際に見て買いたいらしい。まあ、この気持ちは分る。食品とか洗剤などの消耗品は通販でも構わないが、服とか靴とかは身につけてみないと、サイズや着心地など分らない事が多い。
そこで、実際に商品を見ながら買えるように、姉ちゃんの会社がデパートの会社と提携して、移動できるデパートを作っているらしい。ニュース番組で、空飛ぶ船をベースにして、組み込んでいると言っていた。
そんなニュースを聞いた数日後の放課後だ。姉ちゃんから電話が掛かってくる。
「弟ちゃん、今日の放課後は暇? 暇だったらバイトをしてみない? レポートをするだけの、簡単な仕事だよ」
「ちょっと聞いて見るね」
みんなに予定を聞く。特に決まった予定は無いらしく、みんなOKだった。
「姉ちゃん、大丈夫みたい」
「じゃあ、会社に来てね」
そう言って電話が切れた。突然のバイトに、僕らは急いで姉ちゃんの会社に向う。
姉ちゃんの会社に着くと、玄関でロボットが待っていた。
「こちらへドウゾ」
ロボットに誘導されて『どこだってドア』をくぐる。移動先は海のそばらしい、波の音と潮の香りがした。
どこに移動したのかと、周りを見渡すと、どうやら造船場の近くらしい。巨大なドックがあり、舟らしき巨大な物を作っている。鉄骨をバチバチと溶接をしている最中だ。
そんな工場の中で、姉ちゃんが僕らの元に走って、近寄ってくる。
「弟ちゃんと、友達のみんな、今日は来てくれてありがとうね」
「姉ちゃん、それより今日のバイトの内容な何? 話を何も聞いてないんだけど?」
「ああ、そういえば言ってなかったわね。ところで、今日のバイト代は前払いをします。現金で7000円か、全国デパートチケット15000円分、どっちが良い?」
「それは15000円分の方が良いけど、デパートチケットなんて使う場所が……」
僕が否定しようとすると、ジミ子が割り込むように言う。
「お姉さん、今日のバイトって、もしかして移動できるデパートのレビューですか?」
「さすが、正解よジミ子ちゃん。これからデパートを見てもらうんだけど、どうせだったらお買い物を楽しんだ方が良いでしょう」
姉ちゃんはそう言って、ニッコリと笑う。すぐに使えるなら、額面の多いデパートチケットの方が良い。みんなデパートチケットの方を受け取った。
大きな造船ドックの中を歩きながら、姉ちゃんが説明をする。
「最近はデパートの売り上げがよくないらしくてね。この話を各デパートの運営会社に説明したら、各社から試してみたいって、参加表明がすぐに来たわ。伊勢舟、太丸デパート、そうごデパート、髙鳥屋、阪禅デパート、酉武デパート、東式デパート。ほとんどのデパートからオファーがきたんだけど、いちばん早く返事の来た四越デパートさんのが出来たから、それをレビューして欲しいの」
姉ちゃんは造船ドック端にくると、外にある建物を指さして言う。
「あれが四越デパートさんの建物よ」
それは、普通の建物だった。幅と長さは50メートルくらい。高さは7階か8階だろうか。ごく普通のデパートが建っている。
思わずヤン太が聞く。
「あれ、普通のビルに見えるんですけど、動くんですか?」
「動くわよ。ちょっとうごかして見せるわね。10メートルくらい浮上して、1回転してみてちょうだい」
姉ちゃんがそう言うと、ビルは音も無く浮き上がり、ゆっくりと一回転して着地をする。どうやら動かせるらしい。
ミサキが目を輝かせて、姉ちゃんに聞く。
「中で買い物が出来るって話でしたが、商品とか、あるんですよね?」
「全部の商品を搬入している訳じゃないけど、7割くらいは展示してあるわ」
「わかりました。さあ、みんな行きましょう」
ミサキに引きずられるようにして、僕らはデパートの中へと入っていく。




