交通料金と定期代
レオ吉くんがモデルルームの招待をしてくれて、数日後。あの、場所がニュース番組やWebに紹介された。
山に囲まれた盆地で、一坪3万円。僕の家は40坪らしいので、一般的な家の土地なら120万円もだせば買えるだろう。
このような分譲地は、あそこだけでなく、全国各地の過疎化に悩む自治体が、こぞって参加したらしい。その数は20カ所あまりにおよんだ。問題になりそうな不便な交通は、どこだってドアで解決している。
この計画は、順調に行きそうだったが、大きな問題に阻まれた。それは交通費だ。現在、どこだってドアは、鉄道各社や航空関連の会社が管理していて、交通費を取っている。長距離での移動時間は掛からないものの、膨大な交通費は取られてしまう。
自分の部屋で、テレビをつけて、チャンネルを回していると、たまたまこの交通費に関するニュースをやっていた。なんと、丁Rの会長が、国会に呼び出されている。
「宇宙人の作ったドアを置いておくだけで、高額な交通費を取っていますが、あまりに高額ではありませんか?」
与党の議員から厳しく追求されると、丁Rの会長が厳しい顔で答える。
「在来線の維持費などもあるので、この値段が適切だと思っております」
「では、利益が前年同月比の4倍以上になっているのは、なぜでしょう? これだけ利益があるのなら、値下げできる余地があるのでは?」
「あっ、いえ、その、ですね。鉄道料金は、距離で決まっておりまして……」
苦しい言い訳をする丁Rの会長に、さらに質問を浴びせかける。
「どこだってドアの移動は、特急料金を含まれた金額ですよね?」
「ええ、特別に早い列車ですから」
「列車ですか? 車両など無いので特別料金を取るのはおかしいのでは?」
「いえ、規定で特急料金は決まっているので……」
「規定を見直すつもりはありますか?」
「今のところはありません」
議員は、紙のテロップを取り出してきて、強い口調で言う。
「この円グラフをご覧ください。高い鉄道の料金に、国民の97パーセントは納得しておりません。国民は、ただドアを置いておく場所を提供しているだけなのに、膨大な利益を得ていると感じています。そして、繰り返し聞きますが、丁R側は値下げを考えていないのですよね」
「はい。今のところは……」
「なるほど。では、私は新たな提案します。丁Rは独占企業なので、値段が自由に決められるのでしょう。そこで、対抗する鉄道会社を作ってはどうでしょうか。もっとも、鉄道会社といっても、どこだってドアを置く場所を提供するだけの、駅の建物の管理会社のようなものですけど」
それを聞いて、国会の議長が、議員に確認をする。
「新しい競合会社を作って、価格を競争させようと言うのですね?」
「はい。その通りです。独占状態を崩そうという話ですね。宇宙人の技術があれば、簡単にできるでしょう」
丁Rの料金は、はっきり言って高い。新しい会社は、どんな料金設定をするのだろうか?
この提案を聞いて、丁Rの会長の顔が真っ青になる。
「どこだってドアの数は限られています。おなじ経路を置く余裕は無いと思います」
「それでは、重複しないような経路を作れば良いでしょう。消費者は、安くて便利な方を選択すれば良いのです。新しい会社では、特急料金などは取らないでしょうね」
「いや、それだとうちの利益が…… そうだ! うちも、どこだってドアの特急料金を撤廃します」
「それだけだと、まだまだ高いですね。特急料金が掛からなければ、青舂18切符が使えますよね? あれは一日2370円で乗り放題。往復でその料金だと考えると、片道1185円です。鉄道の料金の上限を1185円にしませんか?」
「ええと、それはさすがに厳しい気が……」
「では新会社を」
「はい! 分りました。その方向で行きましょう。片道の上限を1185円にします!」
こうして、なかば脅迫のような値下げが国会で行なわれた。僕としては、新しい会社を作って、競争させた方が、面白そうだったのだが。まあ、これだけ下がれば充分だろう。
しばらくして、この約束どおり、鉄道の上限は1185円、定期の上限は35600円という料金になる。
信じられないくらいの値下げだが、どうやらこれでも元が取れているらしい。




