建築業の行方 10
収納だらけの部屋を出ると、次のモデルルームへと移動する。
レオ吉くんがカタログを見ながら言う。
「次は内装のイメージをつかんで貰いたいと思います。1つの住居のユニットは15畳。ヤン太くんの家は1階部分は2.5個なので、約37畳ですね。こちらの3つ、ユニットが繋がったモデルルームにご案内します」
僕らはユニット3つが連なったモデルルームに案内される。中は灰色の壁で出来た、何も無い空間だった。
僕がレオ吉くんに質問する。
「内装って言ってたけど、ここは何も無い部屋だよ。何を見学すれば良いの?」
「これから、立体映像で内装を再現します。まず、家の面積を合わせましょう。この部屋はユニット3つ分なので、0.5個分を削除しますね」
レオ吉くんがそう言うと、部屋の一角に壁が出来上がった。ミサキがその壁を触ってみる。
「あっ、これ、本物に見えるけど映像だわ。すり抜けるもの」
そう言いながら、壁に手を突っ込んでいた。
「内装のイメージを再現するだけなので、ホログラムかどうかは、あまり気にしないで下さい。とりあえず、一般的な区画を区切りますね。トイレとかお風呂場、ご両親の寝室を設置しましょう」
レオ吉くんがそう言うと、部屋に壁が出来て、37畳の空間が4割ほど狭くなる。
作られた壁にはドアが開いていて、中にはトイレや洗面所、お風呂などが設置してあった。
「残った空間が、リビングキッチンになります。この間取りだと22畳くらいですね、他の場所を削れば、もう少し広くできますが……」
「いや、充分に広いよ。笑っちゃうくらい」
そう言って、ヤン太は引きつった笑顔を浮かべている。気持ちは分る、こんな広い空間だと、生活するイメージが沸かない。
「そうですか? では、試しに物を置いてみましょう。ここにアイランドキッチンを設置。大型の冷蔵庫をここに、テレビとソファーはこちらにしましょうか?」
レオ吉くんが手で支持をすると、キッチンや冷蔵庫、3人掛けのソファーなどが現われた。物が置かれた事で、少し生活をイメージできるようになる。
キングがテレビを見て言う。
「テレビが少し小さいんじゃないか? ソファーも、もっと置いてみればどうだ?」
「テレビは40型なんですが、部屋からすると、小さすぎたようですね。とりあえず70型くらいを置きますか。ソファーも3つくらい追加しておきます」
部屋が広いので、70型のテレビでもちょうど良いくらいだ。ソファーは4つ置いてあるが、全然、邪魔になっていない。
ジミ子がこの部屋の様子を見て、素直な感想を言う。
「なんか、病院の待合室みたい」
「……そうですね。やりすぎました、ソファーは2つにしましょう」
レオ吉くんが慌ててソファーを消した。やはり、ここは空間が広すぎて、持て余している感じがする。
「家具はまた後で考えるとして、内装のイメージを決めましょう。壁は白っぽい色で良いですか? それとも木が良いですか? 和室をイメージした、砂壁っぽいウグイス色はどうでしょう?」
レオ吉くんの言葉に合わせて、家の壁の色がどんどん変る。レオ吉くんは説明を続ける。
「床はやはりフローリングですかね? 畳や絨毯でも良いかもしれません。もちろん絨毯の色は自由に選べますよ」
床が赤、オレンジ、黄色、緑、青、紫と、虹のように色が変っていく。
「天井も、様々なタイプがあります。照明はどうしましょうか? お洒落なカフェのような間接照明にします?」
照明が、白熱電灯や蛍光灯、シャンデリアなどに次から次へと変っていく。立体映像なので、やりたい放題だ。
「いや、ちょっと待ってくれ。そんなに直ぐには決められない」
珍しくヤン太が音を上げる。
さすがにこれだけ選択肢が多いと、絞りきれないだろう。そこで、僕がこんな提案をする。
「とりあえず、今の家と同じような内装を選んでみたら?」
「そうだな。そうしよう。とりあえず、白い壁とフローリングで頼む」
「はい、分りました。こんな感じでどうでしょうかね」
レオ吉くんが、適当に選んで、一般的な家の内装に落ち着いた。
「ふう。やっぱり普通が一番だな」
ヤン太がそう言うと、レオ吉くんはこんな事を言い出した。
「映像だけだと分らない、特種な内装もあるんですけど、それも見てみます?」
この話にミサキが飛びついた。
「私、もふもふの毛皮みたいな内装を試してみたいんだけど、あるかな?」
「ありますよ。それでは移動しましょう」
レオ吉くんに連れられて、僕らは次のモデルルームに移動する。




