建築業の行方 8
モデルルームを見る為に、無料のタクシーに乗り込み、一分もしないうちにその場所へとたどり着いた。
「着きました、ではモデルルームを見てみましょう」
レオ吉くんは、ごく普通に話を進めようとするが、ジミ子が突っ込みを入れる。
「移動距離は150メートルもなかったんじゃないの? タクシーに乗る必要はあった?」
すると、レオ吉くんは素直な意見を言う。
「無料で使えるので、移動時間が少しでも早くなるなら、使った方が良いんじゃないですかね?」
以前から、レオ吉くんは運動不足だったが、この調子だと直らないだろう……
「そんな事より、モデルルームを見せてくれよ」
ヤン太がせかすと、レオ吉くんはこんな質問をする。
「その前に、質問です。家の土地の面積は知っていますか?」
「いや、解んねぇ」
「では、調べても構いませんか?」
「良いぜ」
レオ吉くんはスマフォをちょっとイジると、もう結果が分ったみたいだ。
「はい、分りました。うちの会社は、長さが12.1メートル、幅が2.4メートルが、1つのユニットの単位なんですけど。ヤン太くんの土地では4.5個のユニットまで置けますね。とりあえず、広さを認識してもらう為に、内装も何も無い、空のユニットに入ってもらいましょう」
僕たちは灰色のコンテナの様な部屋に入る。
「広いね」「広いわね」「これって、部屋の広さはどのくらいあるんだ?」
ヤン太の質問にレオ吉くんが答える。
「27.6平方メートルですね。畳だと15畳のスペースになります」
キングがスマフォの電卓を叩きながら言う。
「15畳が4.5個分だと、67.5畳だな」
「……ちょっと想像がつかないな」
ヤン太がぼうぜんとしていると、レオ吉くんが、こんな提案をしてくれる。
「ユニットは4.5個分なので、2階建てが良いと思いますね。1階に2.5個分を配置、2階に2個分を配置するのが普通だと思います。4人家族なんですよね」
「ああ、両親と妹、それに俺の4人だな」
「では、こんな感じはどうです。1階部分に、ご両親の寝室と22畳のリビングキッチン。2階部分は、ヤン太くんと、妹さんの部屋にしてみては?」
「それだと俺と妹の部屋は、どのくらいの大きさになるんだ?」
「2階部分はユニット2つ分なので、30畳ですね。廊下など共有部分の設計にもよりますが、1人当り14畳から12畳といった感じでしょうか」
「……今の部屋の倍以上あるぞ、広すぎる」
ぼうぜんとするヤン太の背中を押して、僕らは何も無い部屋を出る。
レオ吉くんは、僕らにカタログを配りながら説明を続ける。
「まあ、部屋の広さが解ったところで、うちの会社のモデルルームを見てまわりましょうか」
レオ吉くんはそう言いながら、一番近いモデルルームの扉を開けた。
「おじゃましま~す」
そう言いながら、ミサキが真っ先に中に入って行く。それに僕たちも続く。
一つ目のモデルルームは、ごく普通の部屋のように見える。
窓がいくつかあり、部屋の中央にはテーブルのような、自立した台所がある、いま流行のアイランドキッチンというヤツだろうか。
「綺麗ね、オーブンや食器洗い機も付いているわ」
「ステキ、こんなキッチンなら、美味しそうな料理が出来そうね」
部屋の中央にあるキッチンにジミ子とミサキが食いついた。
やはり元から女性なので、キッチンに対してこだわりがあるのだろう。もっとも、ミサキは食べる専門で、料理をしている所は見たことないのだが……
「いや、このキッチン、でかすぎるんじゃないか?」
「それに、部屋の真ん中だと邪魔そうだな」
一方、ヤン太とキングは否定的な感想を言う。料理をしない、元男子の反応はあまり良くないようだ。
すると、レオ吉くんのセールストークが始まった。
「確かに、このキッチンは邪魔になると思います。そこで、使わないときには、こうすれば良いのです」
キッチンの横についているボタンを押すと、テーブルのようなキッチンは動き出した。部屋の中央からズルズルと移動をして、壁際にピッタリとくっつく。
これを見て、ヤン太が声をあげる。
「おっ、使わないときは端に寄せられるのか、良いなこれ」
「ええ、この床は伸縮する素材を使っていまして、ある程度の操作ができるんですよ。壁を同じ素材で作ると、窓もこの通り、移動もできますし、大きさだって変えられます」
レオ吉くんが得意気になって操作をする。宇宙人の技術を使っているのだろう。移動できない設備が移動できるのは画期的だ。
僕らが感心していると、ジミ子が先ほど渡されたカタログのページを指さしながら、レオ吉くんに質問をする。
「その設備の値段、これであってるの?」
「はい。窓が移動できる壁は270万円。設備を移動できる床は420万円ですね。やはり高すぎますか……」
「高すぎるわよ!」
ジミ子の心からの突っ込みが入った。
「それだと、うちには要らないかな……」
ヤン太も値段の高さにあきらめたようだ。
宇宙人の技術に感心をしていたが、冷静に考えると、キッチンを移動する必要性は無い気がする。
「では、次に行ってみましょうか」
レオ吉くんに連れられて、僕らは次のモデルルームに移動をする。




