建築業の行方 6
僕と母さんと父さんで夕食を食べていると、姉ちゃんが帰ってきた。
姉ちゃんは家に入ると、鞄も置かずに、こんな事を聞いてくる。
「うちでリフォームする場所ない? 家族割引で安くリフォームできるわよ」
おそらく、今日、作った会社のリフォームをやりたいのだろう。姉ちゃんはかなり乗り気で言うのだが、母さんがこんな返事をする。
「今のところ無いわね。特に不自由な部分もないし」
「そんな事ないでしょう。ほら、ステキなキッチンに入れ替えるとか」
「今あるキッチンが壊れてからでいいわよ」
母さんが断ると、姉ちゃんはターゲットを変えてくる。
「お父さんは何かない?」
「特に無いな」
「弟ちゃんは?」
「僕も無いよ」
「うーん。我が家で直す所は無いのかしら?」
「いいから、ご飯を食べちゃいなさい」
そう言いながら、母さんがお茶碗にご飯をよそう。
姉ちゃんは、おとなしく席について、晩ご飯を食べ始めた。
姉ちゃんは、しばらく黙って食べていたのだが、思い出したように、こんな提案をする。
「そうだ、耐震補強の工事をしない? この工事はやって置いた方が良いでしょう」
「高そうね。いくらくらいかかるの?」
母さんが質問すると、姉ちゃんはタブレット端末を取り出して、どこかにアクセスをする。
「ええと、うちの場合は37万円ね。そこに家族割引の2割引が適用されて29万6千円で出来るわよ」
母さんが感心しながら言う。
「それで地震対策ができるなら安いわね」
「震度7が来ても、壁とかは壊れるけど、建物の倒壊とか起こらなくなるわ。家族の安全の為にもやっておきましょうよ」
母さんは乗り気になったのだが、父さんがこんな事を言う。
「会社の人が耐震補強の工事をやったんだが、工事が大変だって話だぞ。壁を引っ剥がして、柱に金具を取り付けるとか言ってた。壁を工事する為に、家具とか動かさなきゃならんから、大仕事になるだろう」
すると、姉ちゃんが得意気に言う。
「大丈夫よ。家具とか動かさなくてもできるわ。うちくらいの大きさなら、2~3時間もあれば、工事は終わるわよ」
「おお、それなら良いな。やってみるか」
「支払いは100年ローンもきくわよ。ええと、29万6千円を100で割ると、1年で2960円、一ヶ月あたり247円で行けるわ」
「いや、そんな小額のローンは面倒くさいな。30万円くらいだったら一括で払うぞ」
「わかったわ。まいどあり~」
父さんがOKをだして、うちの耐震補強の工事が決まった。
「姉ちゃん。工事はいつやるの? どんな工事をやるの?」
僕が質問をすると、姉ちゃんはタブレット端末をいじりながら答える。
「工事の時期は、いつでもいいわよ。もしかして、工事の内容が気になったりする?」
「ちょっと気になる。宇宙人の技術をつかった工事なんだよね?」
「そうよ。工事の様子とか見学する?」
「うん、見てみたい。友達を呼んでもいいかな?」
「いいわよ。じゃあ、土曜日の午後からでどう?」
「分った、その予定で確認してみるよ」
僕はメッセージアプリのLnieで連絡を取ると、みんな大丈夫だった。姉ちゃんにその事を伝えて、工事は予定通り行なわれる事になった。
日付がすぎて、工事の当日となる。
みんなで庭に集まっていると、打ち合わせた時刻どおりに姉ちゃんが出てきた。
「お待たせ、じゃあ、これから工事を始めるわよ」
そう言うと、軽自動車のトラックくらいの空飛ぶ乗り物がやってきて、中からロボット1体だけ出てくる。工事をするのは、このロボットだけだろうか?
「姉ちゃん、ロボットは1体で足りるの? 工事する時間は2~3時間しかないんでしょう、これだと人手が足りないんじゃないの?」
「平気よ。本当に工事を行なうのは、このロボットだからね」
そういって、ピンポン球くらいの大きさの金属っぽい球と、パチンコ球くらいの球をいくつか取り出して来た。
ジミ子が質問をする。
「これって何ですか? トゲみたいなものがついていますけど」
ピンポン球とパチンコ玉には、トゲがたくさんついていて、握ると痛そうだ。
姉ちゃんは、少し考えてから、こう言った。
「うーん、動いている所をみた方が、言葉で説明するより良いかもね。工事を始めちゃいましょう」
そういって、この球をロボットに渡す。
「デハ、工事を始めマス。穴を開けるのは、ココで良いでしょうか?」
「そこでいいわよ。じゃあ始めちゃって」
姉ちゃんが開始の合図を送ると、ピンポン球くらいの球が、空中にふわりと浮き上がる。そして、ものすごい勢いで回転し始めた。
球は回転したまま壁に当る、球は壁を掘り進むように、家の中へと掘り進む。
穴はかなり深いらしく、木材を削った、おがくずがもの凄い勢いで出続ける。ロボットは掃除機を取り出して、吸い取り口をそこに当て、出てくるおがくずを吸い取り始めた。
姉ちゃんがタブレット端末を取り出して、僕たちに説明してくれる。
「うちの柱は、こんな感じになっているんだけど、あの鉄球は、柱の中心を掘り進んでいって、柱を中を空洞にするの。鉄球は、1つの柱を掘り終わると、柱から柱に移動していって、家の全ての柱に対して穴を開けるわ」
これを聞いて、ミサキが質問をする。
「中が空洞になったら、かえって弱くなるんじゃないですか?」
「そうよ弱くなるわ。だから、空洞になった場所に、新たに樹脂を注入するの。この樹脂は、固まると鋼鉄より強くなって、建物が補強されるの。これが固まった樹脂のサンプルね」
そう言って、長さ30センチほどの、バトンくらいの棒を渡された。
この樹脂のバトンは、重さはあまりなく、プラスチックでできているような感じだ。あまり丈夫そうには見えないので、キングが本音をつぶやく。
「本当に丈夫なのかな? 力をいれると、折れそうな感じもするけど……」
それをきいた姉ちゃんが、自信満々に言い切った。
「試して見てもいいわよ。折れないし傷もつかないと思うから」
「よし、やってみるか」
キングは思いっきり力を込めて、バトンを曲げようとする。しかし、バトンはビクともしない。
「俺にも貸してくれ」
ヤン太も曲げようと試みるが、やはりビクともしない。すると、姉ちゃんがこう言った。
「工具をつかっても良いわよ。うちの物置に工具があったでしょう。それでやってみたらどうかしら?」
僕が物置から、トンカチやノコギリを出して、このバトンをどうにかしようとするが、傷さえつけれないくら頑丈だった。
「これ、無理だ!」
「もう手が痛い!」
しばらく頑張っていたのだが、ヤン太とキングがとうとうあきらめた。おそらく家庭用の工具では、どうにもならない強さなのだろう。
ロボットが掃除機を片付けて、次の工具を取り出して来た。すると、姉ちゃんが解説をする。
「さて、穴の掘削が終わったようね。次は樹脂を入れるわよ。このチューブを使って入れるんだけど、これは胃カメラみたいに、上下左右、自由に曲げられるの。これを使って、隙間なく樹脂を埋めていくわ」
最初に開けた穴からチューブを突っ込み、ロボットは作業を続ける。
中でどうなっているのか分らないのだが、順調に樹脂を流し込んでいるのだろう、たぶん。
樹脂を注入し始めてから、1時間あまり、どうやら作業は終わったようだ。
最初に開けた穴が、綺麗に塞がり、仕上げに壁と同じ色のペンキを塗って工事は完成だ。
「こんな感じで、耐震補強が簡単にできるわよ。見積もりは無料だから、みんなの家もよければやってみてね」
姉ちゃんがみんなにチラシを配り、宣伝をして工事が終了した。
僕らは工事を見ていたが、作業は全て壁の中で行なわれていたので、全く面白くなかった。面白い工事だと思って見ていたのだが、損をした気分だ。




