建築業の行方 5
テレビ都京の特別番組を見ている。
築55年のアパートの建て替えが決まったが、部屋の内装の希望がバラバラで、まったくまとまりそうにない。
方向性の違いを言い争っているうちに、番組はCMに突入した。
ヤン太があきれながら言う。
「これ、意見がまとまらないだろ」
「そうね。無理だと思うわ」
そうジミ子が返事をすると、ミサキがこんな事を言い出す。
「さっきインターネットで見た、モフモフの毛皮みたいな内装にすればいいのよ」
「俺は嫌だな」「俺も」
ヤン太とキングがミサキの提案を即座に否定をした。まあ、あれは冬の寒いときなら良いかもしれないけど、夏の暑い時期には地獄を見そうだ。
やがてCMが開けると、大家さんが頭を抱えるシーンから始まる。
「ある程度、内装は統一したいんだが…… このアイボリーを基調とした部屋ではどうだ?」
大家さんは、とても無難なデザインのサンプルを指さす。すると、住民から反対意見があがる。
「ピンクの部屋が良い~」「和室のがええ」「この、悪魔的なデザインの方が……」
何も知らなければ、この無難な部屋でも賛成しただろう。だが、カタログで、それぞれお好みの部屋を見つけてしまった後ではもう遅い。自らが気に入ったデザインを押してくる。
「これは、どうすればいいんだ……」
大家さんが、なかば放心状態でつぶやく。すると、ロボットがカタログを開きながら、こんなプランを提案してきた。
「このプランはいかがでショウ。オーナーの建て替え費用が浮きマス」
「ん? どれどれ」
立て替え費用が浮くと聞いて、大家さんが興味を示す。ロボットが開いたページには、鉄骨の骨組みのイラストが載っていた。
「……これは、建物の構造を解説するページかな? 完成図はどれだい?」
大家さんがロボットにたずねると、こう答える。
「これが完成図デス。このプランでは、オーナーは住居を支える鉄骨のフレームを建設しマス。住人は、各自が所有している居住ユニットを、フレームの中に収納しマス」
「あー、なるほど。居住ユニットの置き場所を貸すような感じか。アパートというより、キャンピングカーの立体駐車場みたいな感じだな」
住民の1人が言う。
「つまり、部屋は各自が所有しているので、それぞれの自由にカスタマイズして良いのですね?」
「全て自由ではありまセン。外装に関しては、フレームの中に入らなければならないので、大きさの制約はありマス。内装に関しては自由デス」
内装は自由だと聞いて、住民が沸き立つ。
「おお」「良いじゃないか」「これにしましょうよ」
ほとんどの人がすぐに賛成する中で、1人が疑問をもったようだ。
「ちょっと待ってくれ、そうなると、部屋は個人の持ち物になるんだよな?」
「ハイ、そうなりマス」
「そうなると、賃貸というより、分譲マンションに近いよな?」
「そうデス。形態的には分譲デス」
「もし、この場所から引っ越す場合は、どうなるんだ? 分譲だと、物件を売り払わなければならないから、引っ越しが難しくなるだろう?」
「イエ、同じような、鉄骨だけのフレーム型タイプのマンションを見つけて、部屋ごと引っ越せるので、引っ越しは簡単になりマス」
「……あっ、そうか。部屋ごと引っ越せるって概念がなかったわ。そうだな、それならなんの問題もなさそうだ」
大家さんが、最後に決議を取る。
「では、このフレーム型のマンションに建て替えに賛成の人、挙手をして下さい」
「はいっ」「はーい」「賛成じゃ」
全員の手があがり、建て替えが決定した。
決議が決まると、司会の春藤アナウンサーが、番組をまとめに入る。
「このように、古いアパートの立て替え決議が、全国で行なわれているようです。集合住宅の建て替えの決議は、住民の5分の4以上の賛成が必要なので、いままではかなり可決が難しかったのですが、これからは容易になっていくでしょう」
そう締めくくると、番組は終わった。
僕が素直な感想を言う。
「建物が古ければ古いほど、居住スペースが狭ければ狭いほど、どんどん建て替えをしていくだろうね」
ジミ子もこの意見に同意する。
「そうね。金額面でも、無利子の100年ローンで、建て替えのハードルが低くなってるから、多くなるでしょうね」
そんな話をしていると、テレビはニュース番組に切り替わった。アナウンサーが出てきて、こんなニュースを紹介する。
「おなじみの笹吹 アヤカさんが、家の内装やリフォームを手がける、『プレアデス・リフォーム会社』を新たに立ち上げました。このリフォーム会社は、先日発表された、居住ユニットだけでなく、既存の建て売り住宅にも対応するようです」
ニュースを聞いて、ヤン太がぽつりと言う。
「いま、建築関係、儲かりそうだからな。しっかりしてるよ」
こうして、世界中で建築、建て替えのブームが起こった。




