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建築業の行方 4

 テレビ都京(ときょう)で、特別番組が始まった。

 人気の高い、春藤(はるふじ)アナウンサーが、ボロボロの二階建てのアパートの前に立っている。スタッフの合図と共に、春藤アナウンサーは喋り始めた。


「今日は、皐月楼(さつきろう)というアパートに来ています。築55年のこのアパートは、風呂がついておらず、部屋の間取りも5.5畳のワンルームがほとんどです。新宿から23分という立地ですが、部屋の狭さと古さから、家賃は3万7千円となっております」


 説明を聞いて、ミサキが声をあげる。


「えっ? 新宿って、高層ビルが立ち並ぶ大都会じゃないの?」


「僕もそう思う。もしかして、東京の『新宿』じゃ、ないんじゃないかな? 他にもありそうな地名だし」



 僕がそう言うと、キングが調べてくれる。


「ああ、いっぱい出てきたな。山形や茨城、神奈川にもあるぞ。千葉だけでも10カ所、埼玉なんて11カ所くらいあるらしい。どこにでもある名前っぽいな」


 それを聞いて、ジミ子が納得して言う。


「じゃあ、どこか、さびれた地方の『新宿』なのね」


 僕らは再びテレビを見ると、春藤アナウンサーが話し始める。


「あそこに都庁が見えます、ここから都庁まで、およそ10分くらいでしょうか。地方の人は信じられないかもしれませんが、都内には、こういった古いアパートが数多く残っています」


 ……どうやら東京の新宿で間違いないらしい。僕の予想は外れてしまった。



 春藤アナウンサーは、薄暗いアパートの中へと移動していく。

 アパートの中では、狭い室内に沢山の人とロボットが集まって居た。


「本日、このアパートで建て替えの決議が行なわれます。立て替え決議には、5分の4以上。住民の7人のうち、5人以上の賛成がないと、可決されないのですが、どうなるでしょうか」



 ロボットが、分厚いカタログを開きながら、説明を開始する。


「テレビで紹介シタ『国王の家』モデルは、マンションで使用すると、屋根の上の水耕栽培、屋根裏の収納スペースが付けられまセン。外壁の装飾にこだわらず、内装だけの再現なら、340万円マデ下げられマス。百年ローンなら、年に、3万4千円の支払い。月々2834円の支払いが、今の家賃に上乗せされマス」


 住人の1人が質問をする。


「『国王の家』は、部屋の総面積が、約15畳になるんだよな。それが、2834円の上乗せで実現できるのか?」


「ハイ。可能デス」


「それなら俺は賛成だ」「俺も」「もちろん僕も」「私も賛成よ」「(わし)も」「わたくしも」「吾輩(わがはい)も」


 住民7人の満場一致(まんじょういっち)の賛成で、立て替えが決まる。まあ、2834円の上乗せで、5.5畳のボロボロのワンルームから、あの部屋に引っ越せるとなれば、誰だって賛成するだろう。



 立て替えが決まりそうなのだが、大家さんが反対する。


「ちょっと待ってくれ、建て替え費用が100年ローンで安いのは結構だが、部屋がそれだけ広くなると場所はどうなるんだ? 他に土地なんて持ってないぞ」


 そう言うと、ロボットが土地の情報をプレアデス・スクリーンで表示しながら、こう説明する。


「この土地の区画デハ、7階マデの建物の建設が可能デス。今までは2階建でしたので、階層を増やせば収納できマス」


「おお、なるほど。最大の7階にするとどうなるんだ? 何か良いプランがないかな?」


 先ほどまで反対していた大家さんが、乗り気になって聞いてくる。するとロボットはこう答える。


「1階ハ、駐車場として貸し出してはいかがでショウ。車5台分のスペースが確保できマス。2階から7階にかけては、各フロア、2部屋ごとに配置をすれば、12部屋分の部屋が配置できマス」


「駐車場に加えて、部屋数が増えるのか。これは家賃収入が増えそうだな……」


 ニヤニヤと大家さんが笑う。4万円にいかない金額で、あの部屋に住めるなら、新たな居住者はすぐに見つかりそうだ。

 住民は部屋が広く快適になり、大家さんは家賃収入が増える。これほど理想的な建て替えはないだろう。



 建て替えの決議が、無事に終わりそうだったのが、住民の1人がこんな事を言い出した。


「その分厚いカタログ、見せて貰ってもいいですか? 『国王の家』じゃなくて、他の内装もあるんですよね」


「ハイ、プレアデス建材だけでなく、各社ハウスメーカーからの製品も載っていマス」


 ロボットはそういってカタログを渡す。住民はみんなで覗き込むようにカタログを見始めた。



「おっ、この本物の木材を使った内装も良いな」


「こっちの、従来の建材を組み込んだ内装は、やたらと安いぞ、これでも良いんじゃないか?」


「収納が多いタイプも良いですね」


「このピンクの壁紙、かわいくない? これにしない?」


「儂は和室がええのう」


「このモダンなデザインはいかがでしょう?」


「吾輩は、この悪魔的なデザインの家を、強く切望(せつぼう)する!」



 建て替えは決まったものの、内装についての希望はバラバラだ。大家さんが困った顔で言う。


「ちょっと待ってくれ、部屋にある程度は統一感を持たせたい」


 こうして、建て替えについての話し合いは、大きな暗礁(あんしょう)に乗り上げた。

 住民のデザインセンスがあまりに違うので、上手くまとまるのだろうか?


 テレビは一端、CMに入ったが、番組はまだまだ続く。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎回思うげと落し罠こわい [気になる点] けどこれ住民に直接的な落し罠ないんだよね
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