建築業の行方 2
宇宙人の技術を使った、建材会社のホームページを見ていると、オプション設備の紹介のページがあった。
ページを開いてみると、出窓、ベランダ、瓦屋根といった、ごく普通の家にみられるものから、ちょっと特種なものまで様々な物が並んでいる。ヤン太がある場所を指さしながら言う。
「その『新時代の太陽光パネル』って気になるな。詳しく見てみよう」
詳細ページを開くと、そこにはこんな宣伝文句が並んでいた。
『従来の5倍の発電量。屋根の上の10畳ほどのスペースに敷き詰めれば、電気代が、ほぼ無料に。もちろん100年保証』
「無料ですって! それって、うちにも設置できないかしら?」
ジミ子が『無料』という言葉に釣られて、大きな声を上げる。スマフォを操作しているキングが、あせりながら概要を読み上げる。
「まあ、待ってくれ。ええと、発電効率は少し落ちるけど、一般的な家にもつけられるみたいだな。設置費用は、およそ160万円~320万円くらいらしい」
ミサキがその値段に反応する。
「高いわね、それだと電気代を普通に払っていた方が良いんじゃない?」
すると、ジミ子が真剣に答える。
「いいえ、安いわ。100年使えるのよ。それに、あの無利子の100年ローンが使えるとしたら、320万円かかったとしても、年間の支払額は3万2千円、月々の支払いは2700円よ。信じられないくらい安いでしょ?」
それを聞いて、ミサキはこう答える。
「あっ、うん。そうかもね。月々の電気代がいくら掛かっているか知らないから、よく分らないけど」
この後、みんなでミサキに電気代の事を説明する。僕も詳しくは知らないけど、おそらく1万円は越えているはずだ。
一通り、説明が終わると、ミサキは「ふーん」と、分ったのか、分らなかったのか、どちらともつかない返事をする。……まあ、これ以上の説明はやめておこう。他の製品が見てみたい。
商品を眺めていると、『最新鋭の免震システム。これがあれば、地震も怖くない!』と、安全性をうたった商品がある、僕はこれが気になった。
「これを見てみない? 宇宙人の地震対策は気になるよ」
「そうだな、見てみようか」
キングが詳細を開くと、そこにはこんな事が書いてある。
『地震センサーが揺れを感知すると、浮遊して揺れが伝わるのを防ぎます』
この文章を読んで、キングが思い出したように言う。
「たしか地球の技術でも、こういうのがあったな。ホバークラフトみたいなシステムで、地震がくると空気を入れて、ほんの数ミリ浮き上がって、地震の揺れを伝えないんだ。これもそんなシステムだろう」
そんな説明をしている横で、ミサキが割り込むように言う。
「説明の動画があるみたいよ。見てみましょうよ」
商品のページに張られている動画を再生してみると、姉ちゃんが出てきた。どこか広い校庭のような場所にある、一軒家の前で説明を始める。
「この免震システムは、浮上して地震の揺れを伝えません。どれだけ地震を伝えないのか、試してみたいと思います。家の中に入りますね」
姉ちゃんは家の中に入り、台所に行く。台所にはティーカップが用意されていて、そこに、なみなみとお湯を注いだ。
「それではテストを行ないます。地震を起こす訳にはいかないので、トラックを用意しました。これから突っ込んで貰いたいと思います」
姉ちゃんは無茶苦茶な事をさらりと言った。外にあるカメラに切り替わると、そこには大型トラックが待機していた。
ヤン太が驚きながら言う。
「マジかよ、トラックが突っ込むってよ」
「少し浮遊しただけで、大丈夫なのか?」
あまりに無茶な状況にキングも心配をしている。
「どうなるのかしらね?」
ミサキが疑問を口にすると、ジミ子が予想をする。
「浮遊だから、カーリングみたいに滑走して、威力を殺すんじゃないの?」
そんな話をしていると、トラックのエンジンがかかり、まっすぐに家に突っ込んで行く。ちなみに運転しているのはロボットなので、ぶつかっても平気だろう。
スピードをどんどん上げて、トラックが家に接近する。ぶつかりそうになると、カメラが家の中に切り替わった。
ロボットの声でこんなアナウンスが流れる。
「緊急事態デス。これより浮上しマス」
そして、ティーカップのアップの画像に切り替わり、お湯が少し揺れる。だが、これだけだった。他には揺れが伝わってこないようだ。
「どうなったか分らないけど、さすがはお姉さんの会社の技術ね」
ジミ子が得意気になって言う。画像が外のカメラに切り替わると、家が浮いていた。
それは、ちょっとどころではない。上空10メートルくらいの場所をただよっている。トラックは、どうやら家の下を通過したようだ。
カメラが再び切り替わり、姉ちゃんが解説をする。
「このように、上空に上がり、地震を回避します。ほかにも洪水や土砂崩れなどにも有効ですね。あと、さらにオプションで移動システムも組み込めます。こちらを組み込めば、家ごと移転して、避難できるようになります。浮上している時は、水回りが使えないので、その点は気をつけて下さい」
説明が終り、動画が止まると、ヤン太があきれながら言う。
「お、おう。これなら、どんな災害も平気だな」
浮遊システムは360万円。移動システムまで組み込むと980万円になるらしい。引っ越しするときは、空飛ぶクレーン車を使えばいいので、移動システムは完全に無駄遣いだと思う。




