第36回目の改善政策 3
姉ちゃんが福竹アナウンサーに話を振る。
「この部屋で、実際に暮らしている物件を見てみたいですか?」
「ええ、ここは家具も何もない倉庫のような空間なので、生活している様子が想像できません。モデルルームがあるのなら見てみたいです」
「では、映像を中継先に切り替えたいと思います。月面に住んでいるレオ吉国王陛下、よろしいでしょうか?」
「はい、こちら月面の私の自宅です。今日は自宅の様子を紹介すれば良いのですよね?」
「ええ、よろしくお願いします」
月面にあるレオ吉くんの家に、カメラが切り替わった。
森の中にある、コテージのような家は、まるで映画やおとぎ話に出てくるような家だ。映像が教室のテレビに映し出されると、クラスメイト達がざわつく。
「レオ吉くん、あんな場所に住んでいるんだ」「すてきな家ね」「うらやましいな」
家をちょっと見ただけで、みんなは素晴らしいと褒めたたえた。まあ、誰しもがそう思うだろう。あれは、理想を絵に描いたような家だ。
テレビの中のレオ吉くんは、紹介を始めた。
「こちらが玄関ですね。中に入ると、このようになっています。22畳のワンルームの仕様ですね、ベッドとソファーと机が置いてあります」
「キッチンはこんな感じですね、趣味で料理を作ったりするので、色々とスパイスが並んでいます。コンロはIHヒーターです、月面の家にはガスが通っていないので、全て電気でやってます」
「お風呂場は2.5畳で、縦長の作りですね。足を伸ばせる大きめのお風呂が置いてあります。少しぬるめのお湯で、ゆっくりとあたたまるのが好みですね」
レオ吉くんは淡々と紹介を続ける。一通り、家の紹介をすると姉ちゃんに確認をする。
「このような感じの家なんですが、紹介はこれで良かったでしょうか?」
「ええ、十分です。では、カメラをこちらに戻しますね」
姉ちゃんがそう言うと、中継が切り替わり、映像は地球に帰ってきた。
「どうでしたか、福竹アナウンサー?」
姉ちゃんは福竹アナウンサーに感想を聞く。
「あれ、映画のセットや、CGじゃないんですよね?」
「ええ、もちろん実際の建物です」
「いやぁ、素晴らしいです。あんな家に住んでみたいものですね」
「このコンテナは、長さは12.1メートル、幅は2.4メートルの空間ですが、あの家はこのコンテナを二つ繋げた空間になってます。幅が倍になり、4.8メートルになってますね」
それを聞いて、福竹アナウンサーが金の話をし始める。
「2個買えばあの家が出来るんですか? 一つが90万円なので、180万円でアレが買える訳ですね」
「あっ、いえ、空間だけはそのお金で買えますが、家具とかありませんし、キッチンやバスもついてきません。壁も、高級感が出るように疑似木材を使ってますし、屋根や花壇などのオプションもついておりますので……」
「それでは、あの家をそのまま買おうとすると、いくらくらい掛かりますか?」
「およそ580万円くらいですね」
福竹アナウンサーが眉間にシワを寄せて言う。
「けっこうな金額になりますね」
「ええ、デザインと内装に凝ると、どうしてもお金がかかってしまいます」
「でも、その値段だと、あのワンルームの家ではなく、もっと広い家が買える気がするのですが?」
「そうですね。私らの販売する小屋も、広さだけを重視するなら、色々と気にしなければ安くなりますが…… とりあえず、地上に戻ってきたので、外にでましょう」
今までは小屋ごと空を飛んでいたが、明石市立天文科学館の駐車場に戻ってきたようだ。建物の玄関から入り、エレベーターをのぼって、再びスタジオの中に移動した。
スタジオに戻ってくると、福竹アナウンサーは姉ちゃんに対して、値引きをしようとする。
「さて、先ほどの家、580万円との事ですが、ちょっと、お高いんじゃないですかねぇ~ 笹吹アヤカ社長」
すると、意外にも宇宙人がこの話に割り込んできた。
「トイレも何もついてナイ、約6畳の小屋が300万円するのヨ。高くはないでショ」
そういって、建築家『猥 研吾朗』の売り出した小屋の写真のパネルを見せる。
「ああ、はい。そうですね。確かにコレに比べれば安いですが……」
福竹アナウンサーは痛い所を突かれたが、まだあきらめていないらしい。何か理由を見つけて食い下がろうとしている。
そこに、姉ちゃんがテロップを持ち出して、こんな説明をし始めた。
「まあ、高いという人も居ると思って、特別に分割購入プランをご用意しました。この製品は、過酷な環境でも100年は持ちますからね。100年での分割ローンを、無利子でご購入できます」
これには福竹アナウンサーも開いた口がふさがらない。しばらくぼーぜんとした後に、ようやく話し始める。
「……100年分割ですか。580万円を100で割ると、年で5.8万円の支払い。月々で4833円のお支払いですか?」
「ええ、あの家を購入すれば、そうなりますね。ご家族用に大きな家も用意しています。こちらはもう少し値が張りますが、やはり100年ローンが組めるので、無理せず購入できると思いますよ」
「これなら誰しもがマイホームを持てますね」
そんな話をしていると、かなり時間が過ぎていたようだ。スタッフから福竹アナウンサーに合図が飛ぶ。
「おっと、もうアンケートの時間です。今週の改善政策の評価をお願いします」
安く、長持ちする家が建てられるのは良い事だろう。僕は「今週の政策は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する。
やがてアンケートの解答が出そろって、結果が表示された。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 81%
悪かった 19%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 81%
支持できない 19%』
福竹アナウンサーが番組をまとめる。
「ほとんどの人が今回の政策を支持していますね。やはりマイホームは夢ですからね」
「ソウネ。この国の家や賃金の高さは異常ダヨ」
「そうですね。賃貸で都心の物件だと、10万とか簡単に超えてきますからね」
「家のために働いているようなものじゃナイ。ソレっておかしくナイ?」
「ええ、おかしいかもしれませんね。それではお時間となりました。また来週、お会いしましょう」
「マタネー」
二人が手を振って番組が終わった。
僕たちの街では、賃貸はそこまで高くないのだが、都心だとそんなにするのだろうか?
スマフォで調べて見ると、ワンルームマンションで、月々8~9万とかが出てくる。家族で住む広さを確保しようとすると、どのくらい掛かるのだろうか……




