第36回目の改善政策 2
宇宙人の技術で作った小屋の前で、姉ちゃんが福竹アナウンサーに聞く。
「この小屋、耐久性も抜群ですからね、テストしてみます?」
「ええ、そうですね、テストさせて下さい」
「では、まず、カメラマンさんの一人は、小屋の中に入って下さい」
カメラマンが1人、小屋の中に入り、姉ちゃんは扉を閉める。
福竹アナウンサーが姉ちゃんに質問をする。
「先ほど部屋に入るときに、壁の厚みをチェックしたのですが、かなり薄いですよね」
「ええ、壁の厚みは3センチですね」
「それで大丈夫なのですか? 強度も心配ですが、壁が薄すぎて外の音が聞えてきそうですね」
「試してみますか?」
そういって、姉ちゃんは1メートルくらいはありそうな、大型のハンマーを福竹アナウンサーに渡した。
ハンマーを手に取った福竹アナウンサーは、姉ちゃんに確認をする。
「だいぶ重いですが、これで叩いても良いんですか?」
「思いっきりやって下さい」
「では、失礼して、ふんぬぅ、えいや!」
福竹アナウンサーは、重そうにハンマーを持ち上げて、思いっきり壁を打ちつけた。ドゴンと大きな音はしたものの壁は大丈夫そうだ。続けて2~3発、殴ったのだがビクともしない。
何発か殴った後、ハンマーを置いて、福竹アナウンサーが壁を間近で見つめる。
「ええと、ここら辺を殴ったはずですが、傷一つついてませんね」
「銃弾を受けても傷つきません。耐久性だけでなく、防音性能も高いですよ」
姉ちゃんはそういって、扉を開けた。中にはさきほど入ったカメラマンが居る。姉ちゃんはカメラマンに尋ねる。
「中にいて、騒音はどうでした?」
「騒音ですか? かすかにノックをする様な音は聞えましたが、大きな音は聞えませんでしたね」
福竹アナウンサーがあきれた表情で、ハンマーを見せながらカメラマンに言う。
「これで殴ったんですけど、聞えなかったんですか?」
「はい、ほとんど聞えませんでした。福竹さんが手を抜いて殴ったんじゃないですかね、ちゃんと仕事してくださいよ」
「私は精一杯やってますよ!」
福竹アナウンサーが切れ気味に言ったので、姉ちゃんが仲裁に入った。
「まあまあ、中のカメラのVTRを確認してみましょうよ」
カメラが切り替わりVTRになると、静かな部屋の動画が流れていき、やがてコツッ、コツッと、シャープペンの芯をノックをするような、とても小さな音が鳴ってVTRが終わった。
「あれ、これだけですか? あれだけ強く叩いたのに?」
「ええ、耐久性だけでなく振動を吸収する素材なので、雑音の99%はカットできます。線路のそばでも静かに暮らせますよ」
姉ちゃんが得意気に言う。大型ハンマーでノックしても、あの程度なら、どんな騒音でも平気そうだ。
姉ちゃんはドアを開けて、福竹アナウンサーに指示を出す。
「続いて、断熱性能を見てみましょう。福竹アナウンサー、ドアの上に手をあてて下さい」
「はい分りました。こんな感じですかね」
「では、反対側からガスバーナーで炙ってみますね、少しでも熱を感じたら、手を引っ込めて下さい」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
姉ちゃんは、制止する福竹アナウンサーを無視して、ドアの反対側からガスバーナーで炙る。ガスバーナーは家庭用ではなく大型の業務用で、炎が当った場所が、みるみる赤くなっていく。
ドアの厚さも壁と同じく3センチくらいしか無いのだが、福竹アナウンサーは平気な顔をしていた。福竹アナウンサーは何だかんだ言っても、手はちゃんとドアの上に置いている。
「全く熱くないですね」
「ええ、このまま炙り続けても良いんですが、番組の終了まで続けても熱くならないので、ここでやめます。ちなみに、この素材の耐熱性は、大気圏外から地球に突入しても、平気ですね」
姉ちゃんはそう言いながらバーナーの火を消した。大気圏を耐えられる必要性は、まったくいらないが、とりあえず凄いのは分った。これなら夏の日差しも、冬の寒さも快適に過ごせるだろう。
「他にも便利な事があるんですよ。とりあえず中に入って下さい」
姉ちゃんに言われて、福竹アナウンサーやカメラマン、スタッフの人たちがゾロゾロと家に入る。姉ちゃんはこう続ける。
「これは引っ越しの時も便利なんです。みなさん引っ越しするのは、大変でしょう?」
すると、福竹アナウンサーがこんな話をしてきた。
「アナウンサーは、局の都合で地方に派遣させられますからね。私も若いときは色々と引っ越しさせられて大変でしたよ」
それを聞いて姉ちゃんが、相づちを打つ。
「荷造りとか大変ですよね」
「ええ、引っ越す前も、引っ越した後も大変です。段ボールと戦う日々が続きますからね」
「この、住宅に住んでいれば、そんな悩みも解決ですよ」
「……どういう事です?」
「窓の外をご覧下さい」
カメラは窓の外を映し出す。そこには、遠くに見える小さくなった明石市立天文科学館の展望台と、ミニチュアのような街並みが見えた。
「飛んでいますね…… いつの間にか」
「今は、空飛ぶクレーン車に牽引されて、移動している最中ですね。このように家ごと引っ越す事もできます。移動先に電気やガス、上下水道のインフラさえあれば、どこにだって移動できますよ。非常に手軽に引っ越せるので、短期間の時期の移動、例えば家ごとバカンスに出掛けることも可能です。日本だと、あまり馴染みがないですけどね」
「あー、いいですねこれは。テレビ局には転勤族が多いので重宝されますね。独身にはもってこいです」
福竹アナウンサーの『独身』という言葉にに、姉ちゃんが反応した。
「いえいえ、結婚してからでも使えますよ。お子さんが居ても平気です」
「でも、これって部屋の大きさが、約15畳ですよね。夫婦、2人なら大丈夫かもしれませんが、子供が居ると、さすがに手狭でしょう」
「大丈夫です。連結して使う事もできますから。まだ、この部屋で生活するイメージはあまり沸いていないですよね?」
「ええ、何も無い空間ですからね。実感は無いですね」
「そこで、実際に暮らしている様子を紹介したいと思います。中継を繋いでもよろしいでしょうか?」
「それは是非、見たいです」
「では、中継先の月面に住んでいるレオ吉国王陛下、よろしいでしょうか?」
「はい、こちら月面の私の自宅です」
画像が中継先に移る。すると、レオ吉くんが自宅の前でくつろいでいる画像に切り替わった。




