第36回目の改善政策 1
お昼を食べ終えて教室で待機していると、いつもの番組が始まった。
「今週もやって参りました、第36回目の改善政策の発表です。本日も明石市立天文科学館の展望台からお送りします」
「ヨロシクネー」
「さて、今週の改善政策では何を改善されるのでしょうか?」
「その前に、コノ写真、知ってるカナ?」
宇宙人はそういって、1枚の写真のパネルを出して来た。そこには木製の小屋のような物が映っている。
福竹アナウンサーが、思い出しながら答える。
「ええと、これは最近話題になった『猥 研吾朗』さんの発表した小屋ですね。1人で過ごせる空間が欲しい人に好評だとか」
「コノ小屋の値段を知っているカネ?」
「いいえ、値段までは知らないですね」
「部屋の大きさは約6畳くらいで、300万円するのヨ。高いと思わナイ?」
「……高いです、高すぎます。ありえないくらい高いです」
ちょっと質の良い物置小屋みたいな建物が300万円するらしい。これはかなり高い気がする。
「コレ、買うカネ?」
「いいえ、買いませんよ。高すぎます。これを置く場所や土地もありませんし。それに、これに住める訳でもないんですよね?」
「そのままだとトイレがナイから無理だと思うヨ。オプションで付けられるみたいだケド」
そう言って宇宙人はカタログのような物を差し出す。福竹アナウンサーはパラパラとめくってから言う。
「あー、たしかにオプションにキッチンや、トイレ付きのシャワールームもありますが、もともと6畳ですからね。そこに、これらの施設をつけると…… もう居る場所がなくなりますね」
「耐久性にも問題があるネ。そこでワレワレが小屋を販売するネ」
どうやら宇宙人が小屋を作って販売するらしい。僕たちは火星や月面の住居に行った事があるが、どれも素晴らしい出来だった。今回は、どんな小屋が出てくるのだろうか?
宇宙人と福竹アナウンサーは、展望台のエレベータを降りて、外へと向う。玄関から外へ出ると、駐車場に謎の物体があった。灰色の金属っぽい、大きな塊が置いてあり、その前に姉ちゃんが立っている。
「ようこそ、こちらがプレアデス建材グループの開発しました、新商品の小屋です」
姉ちゃんが挨拶をすると、福竹アナウンサーが詳しい話を聞き出す。
「大きいですね。大きさは、船や鉄道輸送に使う、コンテナくらいのサイズがありそうですね」
「はい、そのサイズを元に作りました。長さは12.1メートル、幅は2.4メートル、高さは2.9メートルあります。中の広さは27.6平方メートル。畳に直すと15畳ほどになりますね」
「広いですね、あっと、すいません」
スタッフからメモが渡されて、それを福竹アナウンサーが読み上げる。
「ワンルームマンションは、平均25平方メートルらしいです。これは充分な広さがありますね、先ほどの小屋とは違って十分に住める広さです。さっそく中を拝見したいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、こちらへどうぞ」
そう言って、扉の前へと案内をする。
姉ちゃんが扉の前で、商品の説明をする。
「こちらが最安値のエントリーモデルとなっております。お値段は90万円、耐久性も抜群で100年保証がついています」
「おお、これだけの広さで、このお値段は安いですね。これは値切らなくても『買い』かもしれません。さっそく中に入ってみます」
ドアを開け、中に入る。すると、そこには窓一つ無い、長細い閉鎖空間が存在していた。金属っぽい壁が、刑務所を彷彿とさせる。
「……これは、なんと言いましょうか、確かに広いのですが、息が詰まりそうです」
福竹アナウンサーが困った感じで言うと、姉ちゃんは平然と答える。
「やはり窓くらいは欲しいですよね。どこら辺に欲しいですか?」
「ええと、風通しを考えると、部屋の中央付近には欲しいですね」
「大きさはどうします?」
「そうですね、人が出入りできるくらいのサイズはどうでしょう?」
「では、具体的な位置決めをしましょうか」
姉ちゃんがそう言うと、四角い光が壁に映し出された。
続いて姉ちゃんは、福竹アナウンサーに意見を聞く。
「窓を付けるとしたら、こんな感じでどうでしょうか?」
「もう少し大きくてもいいですね。位置はもう少し低めで」
「このくらいですか?」
「ええ、そのくらいが良いですね」
「では実際に窓を付けましょう。壁からすこし離れていて下さい」
「え?」
映像が部屋の外のカメラに切り替わる。すると、そこにはロボットが待機していた。ロボットは、手にレーザーブレードのような物を持っていて、いきなり壁を切りつける。
金属っぽい壁は、真っ赤になり切断された。そこに別のロボットがやって来て、真っ赤になった金属に、どこからか持ってきた窓をくっつけた。
姉ちゃんは得意気に福竹アナウンサーに説明する。
「はい、このように、お好みの場所に、自由に窓を備え付ける事ができます」
「……すごいですね」
「ちなみに、この大きさの窓だと、追加費用は12万円ですね」
「お金はかかるんですね……」
福竹アナウンサーが、ちょっと不満そうに言う。まあ、快適に住むなら、多少の出費は必要だろう。
姉ちゃんのセールスはこれで終わらない。こんな事を言いだした。
「この小屋、耐久性も抜群ですからね、テストしてみます?」
「ええ、そうですね、テストさせて下さい」
次は耐久力のテストをするようだ。




