表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

490/567

慣性力スニーカー 1

 体育祭が終わって夕食の時に、姉ちゃんにリレーの時に使った靴が、ちょっと気になるという話をしたら、後日、僕たちがテストをやる事になってしまった。靴のテストにあまり時間はかからないという話だったので、平日の放課後に集まる話になった。


 学校が終り、制服姿のまま、姉ちゃんの会社に行く。ちなみに、今日は体育の授業もあったので、体操着も持っている。会社の前に行くと、ロボットが待機していた。


「お待ちしておりまシタ。アヤカ様は現地でお待ちしていマス」


 ロボットに案内されて、会社の中にある『どこだってドア』をくぐる。



 ドアを抜けた先は、どこか田舎の小学校か中学校のようだ。ずいぶんと(さび)れた場所にあるのだが、なぜか校舎の中は人でにぎわっている。この場所は、見覚えがあるような……


 思い出そうとしていると、姉ちゃんがやってきた。


「授業後におつかれさま。とりあえず体操着に着替えて、この靴を履いてきて。説明はその後でするわ」


「姉ちゃん、それはいいんだけど、なんで田舎の学校の校舎に、人があんなにいるの?」


「ここは、少し前までは廃校だったんだけど、プレアデスグループが買い上げて、水族館にした場所よ。おぼえているかしら?」


 姉ちゃんが説明すると、ジミ子が思い出したようだ。


「日本各地の水族館を『どこだってドア』で繋げたり、世界各地の海底をつなげた場所ですね?」


「そうよ。手頃なグラウンドがなかったから、ここを使う事にしたの。じゃあ着替えて来ちゃって」


 僕らはロボットの案内で、空いている教室に連れてこられた。手早く着替えると、靴を履いて外に出る。



 外に出ると、軽い準備運動をしながら、雑談をする。この靴で走った事のあるヤン太が、感想を言った。


「とにかく早く走れると思うぜ。大げさに言うと、平地と下り坂くらいは違う。どんどんスピードが加速していくんだ」


「そうよ。ガガガって加速して、バビューンって走れるんだから」


 ミサキもこの靴を履いて走った。その感想を効いても、イメージが湧いてこない。まあ、ヤン太の感想を参考にした方が良いだろう。下り坂のイメージは分りやすい。それなら早く走れる気がしてきた。



 準備ができると、姉ちゃんが聞いてくる。


「走る用意は出来たかな?」


「はい」「OK」「できました」


「運動場は、体育祭の時とおなじように、光のコースを作るわ。理由は、バンク角があって、外に飛び出さないようにするのと、コケたときにクッションになって、怪我を防ぐ効果ね。安全性は、派手に転んだミサキちゃんだったら、分るでしょう?」


「ええ、転げ回って、目は回りましたけど、全く痛くありませんでした」


「じゃあ、まずは機能をOFFにして、普通の100メートル走のタイムを計ってみましょうか」


 姉ちゃんに言われて、僕たちはスタート地点につく。



 コースには1~5番の文字が振ってあり、5人同時に走れるようだ。適当に配置につき、スタートの合図を待つ。


「行くわよ。3、2、1、スタート!」


 合図と同時に僕らは走り出す。やはりミサキの足が速い。ミサキが12.8秒で一位、ヤン太が13.3秒で二位、僕が13.9秒で三位、キングが14.7秒で四位、ジミ子が15.1秒で最下位だった。


 ヤン太が悔しがりながら言う。


「くそう。ミサキに勝てなかった!」


「当然よ、私の方が速いわ!」


 調子に乗っているミサキに僕が釘を刺す。


「まあ、転ばなければ、速いかもしれないね」


「そ、そうね。今日は大丈夫よ」


 この間のリレーも、転ばなければ一位を取れたのかもしれないが、まあ転んだものは仕方ない。



 走り終えた僕たちに、姉ちゃんが靴の説明をしてくれる。

 まず、タブレット端末で、別の靴の画像を表示した。


「この靴は知っているかしら? ナイ(ダブルダガー) 社の靴で、お正月の駅伝では84%の選手が使用していたわ。この靴は高い反発力、いわばバネみたいな感じで速く走れるの、そこで、それ以上の性能を出せるようにしたの」


 そう言って、姉ちゃんは、僕たちが履いている靴と同じ物を取り出した。


「ここの、かかとの所のスイッチを入れると、速く走れるようになるわ。まずは反発力を見てみましょう」


 姉ちゃんは、胸の高さから靴を落とした。すると、スーパーボールのようにそのまま跳ね返って、ふたたび姉ちゃんの手の中に収まった。



「……ちょっと反発力を強くしすぎたかしら? この間のリレーの時は、加速するまで時間がかかったから、改良をしたんだけど、やりすぎたかしらね。まあ、いいわ、この靴にはもう一つの機能があるの、『慣性の法則』って知ってる?」


 その質問に、キングが答える。


「勢いがつくと、物が急に止まらないってヤツだろ? 自転車とか漕がなくても、しばらく惰性で進み続けるやつだ」


「そう。それが慣性の力ね。慣性の力は、普通は直線的な動きなんだけど、この靴は直線的じゃない動きも維持してくれるの、こんな具合にね」


 姉ちゃんが肩を中心として、グルグルと靴を回す。

 ある程度、勢いがついてきたら、姉ちゃんは手を離した。すると、靴は回転運動を維持しようとして、そのままの動きを続けながら、ぺったん、ぺったんと勝手に進み出す。

 靴は勝手に30メートルほど進むと、そこで勢いが尽きたようで、動かなくなった。



 ジミ子がこれを見て言う。


「分りました。この靴は、走るための反復運動の動きを覚えて、アシストしてくれるわけですね」


「そういう事。まあ、予想より遙かに勝手に進んだけど…… とりあえずテストしてみましょうか」


 不安な事を聞かされた後に、僕たちはテストに入る。宇宙人の技術だから、安全性は確保されているハズだろう……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この思考錯誤感が好き [気になる点] 客多い 色んな意味で見どころあるし 仕方ないね
[一言] 新しい技術の靴を作ったらタイム良くなりすぎて禁止とか、作った人はふざけんなって感じだろうなって思ったり。 結局ルールに手を入れられる奴の胸三寸なのが気分悪い事件でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ