体育祭 12
騎馬戦は3試合を行なう。1試合目は僕たちの大勝利で終わった。僕らの白組は総合得点では負けているが、このまま勝ち続ければ、逆転が出来そうだ。
2分ほどの短い休憩を挟み、2試合目が始まった。
「いくぜ! 今回も敵を切りまくってやる」
フォン、フォンとヤン太がレーザー・セイバーを振り回す。敵はヤン太を恐れているのか、進行方向の人が避けていく。
僕らは適当に前進をするのだが、敵からこんな声があがった。
「今だ、行け!」
ヤン太を囲むように、3方向から人が突っ込んできた。3人とも突きの構えだ。
先頭を切っている敵のリーダーが、声をあげる。
「突っ込むぞ! 逃げたら士道不覚悟じゃ!」
「うおっ、3対1とは卑怯だぞ」
ヤン太は先頭を切ってきた人を切ると、2人目の攻撃を避けつつ、カウンターで切り捨てる。3人目は…… さすがにさばけなかったようで、腹をグサリと刺された。
「あー、ここまでか」
ヤン太がガッカリしながら言う。
「まあ、3対1ならしょうがないよ」
負けたので、騎馬を崩して歩いて自陣に戻る。
「今度こそ、仕留めるぞ!」
威勢の良いかけ声が聞えたので、そちらを見てみると、ミサキに向って3人の敵が突っ込んで行った。
ミサキは、1人目の攻撃をよけながら、カウンター攻撃で仕留める。
2人目の攻撃は受け止めて、力で押し倒して、騎馬を崩して勝った。
3人目の攻撃は、どう見ても避けられないと思ったのだが、自らバランスを崩すようにして、騎馬に足でしがみつき、垂れ下がりながらも反撃をしてやっつけた。ちなみに騎馬の中心はキングがやっている。キングの体格でなければ、騎馬が崩れて、ミサキが自滅していたかもしれない。
やられた敵からブーイングが起こる。
「落ちてただろ?」「あんなのありかよ」
すると、審判のロボットがやってきて、こんな事を言う。
「地面についたらアウトの判定デス。地面につかなければセーフデス」
「ふふーん、そういうルールですって」
ミサキが得意気に言うと、敵は大人しく帰っていった。ロボットの判断は正確なので、反論する気も起こらない。
この後、ミサキは暴れまくって、2試合目が終了する。
生き残った騎馬の数を数えると、ほぼ互角だった。3対1で戦う敵の作戦が成果をあげたようだ。運動神経が無駄に良い、ミサキには効かなかったみたいだけど……
3試合が始まる前に、僕たちのクラスは作戦を立てる。
「うちらも計画的にいこうよ。集団戦をやろう」
誰かが提案をすると、こんな声があがった。
「それなら、リーダーはヤン太とミサキに任せた方が良いんじゃないか? 強いから」
「おう、いいぜ、俺がやってやるよ」
ヤン太は快く引き受ける。一方、ミサキは。
「私は今のままで良いわ。単独で突っ込むわよ」
まあ、たしかにミサキに『統率』するような頭脳は無い。いままで通り、自由にやっていた方がいいのかもしれない。
「じゃあ、私がやってみようかしら?」
意外にもジミ子がリーダーとして立候補した。他に立候補する人もいなく、リーダーはこの2人に決まる。
「いきますよ、3試合目です。ではスタート」
姉ちゃんのかけ声で3試合目が始まった。
試合が始まると同時に、僕らは突っ込んで行く。
「敵将、ヤン太を打ち取れ、いくぞ」
敵はまたしても3人でヤン太を狙ってきた。
「ツカサ、あの作戦だ!」
それまで前進していた僕らは、足を止めると、敵から逃げるように逆に向って走り出した。
「おい、お前らにげるのか」「情けないぞ!」
そんな声が後ろから聞えてきたが、構わず逃げる。
そして、しばらく逃げた後に、横からジミ子の部隊が奇襲をしてトドメをさした。
「残念ね、あなた達は深入りしすぎたわ」
「ぐわぁ」「おのれ、卑怯な!」
「3対1で戦おうとしてたあなた達が、卑怯とか言うのおかしくない?」
「まあ、それもそうか」「ああ、もうとっとと帰ろうぜ」
ジミ子に説得されて、隣のクラスの人達は帰っていった。
ヤン太とジミ子の連携は完璧だった。付き合いが長いので、何を考えているのかよく分る。敵を一騎、また一騎と、確実に撃破していく。
ここでふと、僕はミサキの事が気になった。単独で突っ込んでいったので、もしかしたらやられているかもしれない。そう思い、周りを見回してみると、キングの肩の上で、立ち上がっているミサキが見えた。
「おい、危ないって」
「大丈夫よ。こっちの方が避けやすいんだから、ほら、次の攻撃が来たわよ」
ミサキの事を狙って、4騎も突っ込んでくる。ミサキは1人目を即座に切り捨てると、2人目の攻撃を躱しつつ、カウンターを入れる。3人目の攻撃を受け止めると、そこに4人目の攻撃を重ねてきた。さすがにミサキでもこれは避けられない。そう思っていたのだが、ミサキが敵の騎馬に飛び移り回避をする。そして、そのまま敵の首を刈り取った。
ミサキは敵を倒した後、ジャンプして再び自分の騎馬に戻る。
「えっ?」「それ、ありかよ」
不満を言うと、審判のロボットが答える。
「地面につかなければセーフデス」
どうやらセーフらしい。この後もミサキは大暴れをして、3試合目は僕たちの快勝で終わった。
敵に飛び移りながら戦うミサキの姿は、まるで猿のようだった。




