体育祭 11
障害物競走が終わると、しばらく休憩時間となった。その理由はトラックに設置された、重力を軽減する装置によるものだ。競技に参加しなかった他の生徒や、保護者の人達、教員の先生方も、月と同じ6分の1の重力を体験したいらしく、トラックにぞろぞろと出てきて、ジャンプなどをして楽しんでいる。
僕はその間に着替えを行なう。チアリーディングの衣装はとても恥ずかしい、もう二度としないだろう。
15分の休憩の後、次の競技に移る。
次は『騎馬戦』だ、あらかじめ割り振られたチームに分かれて、騎馬を作る。ちなみに僕はヤン太と同じチームだ。僕が騎馬の中心で、ヤン太が上に乗り、騎手を務める。運動神経のよいヤン太なら、活躍してくれるはずだ。
競技が始まろうとした時、姉ちゃんからアナウンスが入る。
「騎馬戦は、本物の戦いっぽくしてみたいと思います。まずは道具を配るので、騎手の生徒はロボットから道具を受け取って下さい」
ロボットが道具を配り始めた。ヤン太の受け取るのを見ていると、その道具はリレーのバトンのような物だった。
「なんだこれ? けっこう重いけど、何に使うんだ?」
ヤン太がこの道具を手に取り、じっと見てみるが、何の道具だか全く分からない。
騎手の全員にこの道具が行き渡ると、姉ちゃんが説明を始めた。
「配った物は、映画スター・ウォーフの『レーザー・セイバー』のおもちゃです。コレを使って戦って下さい。スイッチは手元にあります」
ヤン太が渡された物を観察して、スイッチを入れる。
「これかな?」
フォオォォンと音がして、光のブレードが現われた。軽く『レーザー・セイバー』を振ると、ブォン、フォン、と映画と同じ様な効果音が鳴った。
「おお、これはカッコイイな」
ヤン太が満足げに言う。確かに映画に出てきた本物のようで、格好良い。
あちらこちらで、ブォン、フォン、と音がなっている中、姉ちゃんの説明が続く。
「ええ、ダメージなどの判定は、こちらでやります。この状態が生き残っている状態です」
姉ちゃんがそう言うと、騎手の頭の上に、緑色の光る文字で『○』と『Living』という文字が浮かび上がった。
「ダメージを受けて、死んでいる状態はこんな感じですね」
浮かび上がっていた文字の色が赤に変り、『×』と『Dead』という文字が表示された。これは分りやすい、一目瞭然だ。
「試合形式は、従来と変りません。3試合やって、生き残った数が得点になります。それでは第1試合を行ないます、スタート!」
スタートの合図と共に、僕らは走り出す。この競技には全校生徒が参加しているので、軽い地響きのようなドドドという音が響き渡る。
「とにかく敵のいる方へ突っ込め!」
ヤン太に言われて、近くの敵に突っ込んだ。近づくと、ヤン太が『レーザー・セイバー』を振り下ろす。敵も黙って切られる訳はない、『レーザー・セイバー』で受け止めた。刀同志が触れあると、ジジジ、という音とともに、つばぜり合いのようになった。
この状態に、ヤン太も敵の騎手も驚く。
「なんだこれ、映像だけだと思ってたけど、手応えがちゃんとあるぞ」
「受けると反動があるわね、どうなっているのでしょう?」
何度か『レーザー・セイバー』で激しく打ち合っていると、後ろのほうからジミ子の騎馬がやってきた。敵の死角をつくように回り込むと、音も無く後ろから敵を突き刺す。相手の表示はすぐに赤く変り、死亡した。
「ぐぅ、一対一の戦いに、卑怯ですよ!」
「戦場で油断してるのが悪いのよ。勝てば良かろうなのだ!」
ジミ子が悪役のようなセリフを言って、どこかへと移動していった。まあ、確かに、倒し方にルールは無いはずだ。
「次の敵に行くぞ!」
僕らはまた近くの敵に近づく。剣の届く範囲に入ると、打ち合いが始まった。
フォン、ジジ、ブォン、ジジジ。映画さながらの効果音が鳴り響き、やがて相手がバランスを崩した。
「すきあり!」
「ぐわぁー、やられたー」
敵の人が大げさに死んだ振りをする。敵の人はノリノリだが、ヤン太は素っ気ない。
「次行くぞ、次」
あっさりと次の敵に向う。
運動神経がよく、ケンカ慣れしているヤン太は強かった。7人目の敵を真っ二つにすると、そこで時間切れとなる。
「はい、第1試合、終了です。自分の陣地に戻って下さい」
この後、生き残りを数えるのだが、僕たちの白組が圧倒的に勝っていた。ざっと7対3くらいの割合だろうか。
現時点の総合得点で、白組は負けているが、2試合目、3試合目と大差をつけて勝てば、逆転できるかもしれない。
少し休憩を挟み、2試合目の試合が始まる。




