体育祭 9
午前中の競技が終わり、僕たちは昼休みに入った。生徒は教室に戻り、保護者たちはピクニックシートの上でお弁当を広げる。
うちの姉ちゃんと母さんは、ミサキのおばさんや、ヤン太、キング、ジミ子たちのおばさん、おじさんと一緒に食事を食べるらしい。大きな重箱を開けて、みんなでワイワイと食べている。その中に宇宙人が混ざっているのは、異様な光景だが……
クラスに戻ってくると、僕らは弁当を広げる。体育祭や運動会はいつだって特別なお弁当だ。蓋をあけると卵焼き、ウインナー、唐揚げ、アスパラガスの肉巻きなどと、おにぎりが入っていた。
「「「いただきます」」」
食事の挨拶をすると、さっそく食べ始める。運動の後の食事は、いつも以上に美味しく感じた。食が進み、みんなあっという間に食べ終えた。ちなみにミサキは1人で重箱くらいある弁当を食べていたが、あんなに食べて午後の運動は大丈夫だろうか?
午後は応援合戦、つまり『チアリーディング』から入る。食事が早く終わったので、『チアリーディング』の競技に参加する、僕とキング、あとクラスメイト3人が集まり、振り付けの確認をする。
ダンスには不慣れで、バラバラな部分もあるけど、何とか踊れている。出来は良く無いが、おそらく隣のクラスもこんなものだろう。
残されたわずかな時間で、少しでも振り付けを良くしようと踊っていると、担任の墨田先生がやってきた。
「『チアリーディング』に出場する連中は…… そろっているな。これはプレアデスグループと、学校からの差し入れだ」
そういってビニール袋に入った、白いユニフォームのような服を出してきた。袋には名前が書いてあり、自分の名前の袋を受け取る。隅田先生は、続けてこう言った。
「強制はしないが、出来ればその服を着て出場してくれ。聞いた話によると、どうやらうちの教頭先生がそのデザインの服を選んだらしい。応援合戦の審査委員長は教頭先生だから、競技の点数に影響してくると思うぞ」
エロイと噂のある教頭先生だ、嫌な予感しかしないが……
僕は袋を開けて、中身を確認してみる。そこには超ミニスカートの、チアリーディング用の衣装が入っていた。
キングが衣装のスカートを取り出して、あきれながら言う。
「いや、これ、絶対にパンツが見えるだろ」
墨田先生が冷静に答える。
「まあ、見えるだろうな」
僕が、墨田先生にこんな質問をする。
「学校が、生徒にこんな服を強要していいんですか?」
「だから、あくまで強制はしない。自発的な意思を尊重するそうだ。教頭先生も、強制したとなると、後で問題になると思っているんだろう。強く『生徒の意思を尊重するように』と念を押されたよ……」
「……ああ、はい、そうですか」
チアリーディングに参加するメンバーが話し合う。
「どうする? コレを着るのか?」
「着れば、おそらくかなり点数が違ってくるぜ」
「いや、でも、さすがにこの衣装は……」
色々と躊躇をしていると、ミサキがこの話に割り込んできた。
「私たちの白組は、点数が少し負けているじゃない。この衣装で得点が上がるなら、着るべきよ!」
僕が反論をする。
「でもパンツが見えるよ」
するとヤン太がこう言った。
「気になるならスパッツでもはいたらどうだ? 持ってなきゃ誰かから借りればいいだろ?」
この意見に、ミサキが反論をする。
「審査委員長は、あのエロ教頭よ。スパッツで隠したら、大幅に減点されるに決まってるじゃない。元男なんだから、パンツが見えるくらい気にしない! これは運動会の勝利のためよ、みんなもそう思うでしょ?」
クラスの残りのメンバーに話を振ると、「おー」「そうだそうだ」「パンツぐらい見せちまえ」と、この競技には出場しないので言いたい放題だ。
「じゃあ、まあ、生徒の間で、そう決まったという訳で、俺は職員室に帰るわ」
墨田先生はそそくさと、逃げる様に教室を出て行っく。なんとなく、この衣装で出なければいけない雰囲気なので、仕方なく僕らは着替える事になった。
衣装に着替えて、午後の部が始まった。スカートは想像以上に短く、ただ歩いているだけでも見えてしまいそうだ。
まあ、恥ずかしいのだが、この恥ずかしい思いをしているのは、隣のクラスも同じハズ……
そう思って、敵である隣のクラスのメンバーを見てみると、普通の体操着だった。ちなみに他の学年も確認してみるが、この衣装を着ているのは僕たちだけだった。
キングがボソボソと言う。
「俺たちだけみたいだぞ」
「ここまで来たらしょうがない。もうやるしかないでしょ」
僕がヤケになって答えると、キングもあきらめたようだ。
「あっという間に終わるから、とっととやって終わらせるか」
ダンスの音楽が流れ始めると、吹っ切れた僕たちは、思い切りダンスを始めた。間違っても、勢いがあればごまかせるだろう。
精一杯踊り、2分半のダンスが終わった。しばらくして得点が発表されるが、白組98点、紅組41点と、圧倒的な大差で僕たちのチームが勝った。ちなみに、審査委員長である教頭先生は、敵のチームを一切見ずに、ずっと僕たちだけを見つめていた気がする。
かなり恥ずかしい出来事だったが、まあ、3日もすれば、みんな忘れるだろう。




