体育祭 6
続いて『綱引き』の競技が始まる。全校生徒が2列に並び、その間にロープが通される。普通、綱引きをする時は、手首ほどの太さのある荒縄を使うのだが、今回は縄跳びほどの細いひもが設置された。
「それでは綱引きを始めます。ロープをもって準備をして下さい」
アナウンスが流れたので、僕らはひもを持ち、引っ張る準備をする。
「これ、細すぎないか?」「大丈夫なのか、切れないよな?」
不安な声が上がる中で、スタートの合図が行なわれる。
「3、2、1。それではスタートです」
スタートの合図と共に、僕らは全力で引っ張り始めるのだが、ひもが細すぎて力が入りにくい。
「なんだこれ? つかみにくい」「ツルツルしていて、滑るっ!」「このままだと負けるぞ」
ズルズルと一方的に引っ張られて負けてしまった。綱引きは3戦行なわれ、先に2勝した方の勝ちだ。
ひもを元の位置に戻し、再び試合をするが、2戦目も負けてしまう。
「あーなんだよこれ」「力が伝わらないじゃないか」
滑って力が伝わりにくいのは、向こうのチームも同じはずなのだが、どうも納得がいかない。
昔の太い荒縄だと、負けたときでも、力を出し切って負けて感じがしたので、納得ができたのだが……
収納スペースで考えると、ひもの方が少なくて良いと思うが、やはり綱引きは昔ながらの太い荒縄の方が良い。なんでも宇宙人の技術を取り入れれば良いというものでもなさそうだ。
綱引きの次は、『2人3脚』が行なわれる。これはクラスの全員が参加する訳ではなく、一部の選ばれた人しか参加しない。
ちなみに、僕たちのメンバーの中からだと、ジミ子とヤン太がペアで参加する。
ヤン太はかなり足が速いので、他の人と組んだ方が良いのだが、背の高さでジミ子と組む事になった。この競技は速さだけでなく、足の長さや体格を出来るだけ揃えた方が有利だろう。
ヤン太とジミ子は選手の待機場所に行くと、しばらくしてアナウンスが流れて来た。
「えー、安全を図る為に、客席にバリアを設置します。しばらくお待ち下さい」
上空から鉄骨のように細いモノリスが現われ、観客席と競技トラックの間にそびえ立つ。
ミサキが驚きながら言う。
「つぎの競技は『2人3脚』よね?」
「うん、そのハズなんだけど……」
僕らがそんな会話をしていると、大きなロボットがやって来た。
大きさは10メートルほどはあるだろうか。白色に塗られたロボと、赤色に塗られたロボが、トラックのスタート地点に立っている。姉ちゃんの声でアナウンスが入る。
「ええと、これは映画、ペシフィックリムヌに出てくるロボットらしいです。なんでも、この映画のロボットは二人で操作するみたいで、動きがシンクロしないと、まともに動かないそうです。私は映画を見てないので、よく知りませんけど」
よく知らないのに、こんな物を作ってしまったのか……
ロボットを見ながら、キングが悔しがる。
「くそっ、あのロボットに乗れるなら、俺も二人三脚に出ていれば良かった」
「確かにそうだね。あれに乗ってみたいよね」
僕が返事をする横で、ミサキが聞いてくる。
「これって『二人三脚』なの? これは『二人三脚』って言って良いの?」
「あー、うん、どうなんだろうね」
ミサキの言う通り、もうこれは違う競技にしか思えない。
やがて準備が出来たみたいで、ジミ子とヤン太がロボットに乗り込んだ。相手チームもロボットに乗り込み、スタートのピストルが鳴る。
ロボットのコックピットにはマイクがついているようで、ヤン太とジミ子の声が聞えてきた。
「まず、右からいくぞ、せーの」
「お、重いわね。足がまともに持ち上げられないわ」
「ゆっくり行こう。ゆっくりなら動かせるはず」
ヤン太とジミ子のロボットがゆっくりと動き出す。その姿は映画のロボットそのものだ。
一方、敵のチームはほとんど動かない。
「なんだこれ、うごかねーぞ」
「急げ! 敵チームは進み出してるぞ」
「どうやったら動くんだ、これ!」
ギギギと足が小刻みに震えるが、まともに動かない。操作するのが、かなり難しいらしく、敵チームはスタート地点からほとんど動かないうちに、ヤン太とジミ子のロボットがゴールをした。
ちなみに、距離は50メートルなので、ロボットだと7~8歩と言った所だ。
この後も『二人三脚』は続くのだが、なんと全員がまともにロボットを動かせなかった。確かにロボットを動かすには、特殊な訓練が必要だと思うのだが、一歩も動かせないロボットはどうなんだろうか?
「あー、ええと、次はもうちょっと操作が簡単なロボットにします」
姉ちゃんの声が流れて『二人三脚』は中断するように終了した。確かに調整は必要だろう。そう思っているとミサキがポツリとつぶやいた。
「無理にロボットを使わなくても良いんじゃないの?」
冷静に考えるとその通りだが、来年も『二人三脚』用のロボットを持ってきて欲しい。
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