体育祭 5
大玉転がしが終わると、続いて『玉入れ』の競技が始まる。
ちなみに大玉に張り付いて転がっていたミサキは、泥だらけになったものの無傷だった。さすが宇宙人の技術だ。
全校生徒がグラウンドに集結すると、玉入れ専用の玉が地面の上にばらまかれる。この玉が使われるのは、おそらく年に1回。この時だけだろう。全校生徒が使うので、それなりの数があると思うが、この時だけしか使わないのは、もったいない気もする。
玉の用意が済むと、次は籠の用意だ。てっきり先生方が持ってくるかと思ったのだが、いつまでたっても籠が出てこない。しばらくすると、姉ちゃんの声で、こんなアナウンスが入った。
「『玉入れ』ですが『玉当て』に競技を変更します。ターゲットに玉を256発、先に当てたチームの勝ちとなります」
姉ちゃんのアナウンスが終わると、高さ1.7メートル、幅1メートルほどの金属板のような物が、回転しながら降りてきた。そして高さ10メートルほどの場所で止まる。その姿はモノリスそのものだ。
キングがモノリスを見ながら、みんなに向って言う。
「これ、宇宙人が攻めてきた時にやった、ゲームに似ているな」
僕が思い出しながら答える。
「たしか、世界中に現われた巨大モノリスを、撃ち落とすゲームだよね?」
「ああ、それを意識してるんじゃないかな」
そんな話をしていると、再び姉ちゃんのアナウンスが流れた。
「準備は良いですか、始まりますよ。3、2、1、スタート」
スタートと同時に、モノリスに『256』と大きな数字が浮かび上がる。僕らは玉を拾い、モノリスに向って投げ始めた。
『251』『244』『237』、ボールがバシバシと当り、モノリスの数字が見る間に減っていく。256という数字は多すぎのような気がしたが、ターゲットが大きく、簡単に玉が当るので、この数字でも問題なさそうだ。
170を過ぎたとき、ジミ子が声を上げた。
「あれ? なんだか小さくなってない?」
「本当だ。モノリスが明らかに小さくなってるな」
ヤン太が玉を投げながら答える。1.7メートル、大人の身長くらいあったモノリスは、およそ1.2メートル、子供の身長くらいに縮んでいた。的が小さくなったので、少し狙いにくい。
僕が玉を拾いながら言う。
「そういえば、実際に宇宙人が来たときも、モノリスが段々と小さくなっていたよね」
「あの時の人類は負けたけど、今日は俺たちが勝とうぜ!」
「おう」「任せておけ」
キングが必死に投げながら言うと、みんなその気になった。
狙いにくくなっているものの、玉を投げ続けていけば、いくつかは当り、徐々に数字が減っていく。
60を切ったとき、隣のクラスを見ると、47になっていた。マズい負けている。そう思ったのだが、隣のクラスの手が完全に止まっていた。
「どうしたんだ、お前ら?」
ヤン太が投げながら言うと、こんな答えが返ってきた。
「50を切ったらわかるよ」「モノリスが赤くなったら注意しろよ」
なんの事か分らず、僕らは投げ続ける。やがて50を切ると、モノリスが赤く点滅しはじめた。
「ええと、現実だと確か、ここからモノリスが反撃してきたような気が……」
僕がポツリとつぶやいた。ジミ子が玉を振りかぶりながら言う。
「反撃なんてこないでしょう。ギャッ」
ボールを投げようとしたジミ子に電撃が落ちた。ジミ子はそのまま玉をポトリと落とす。
「大丈夫?」
「冬の静電気くらい痛いわよ」
静電気か、頑張れば耐えられると思うけど、意外と痛そうだ。
僕も試しに投げようとする、すると、的確に狙いをすませたように、ピシャリと雷が落ちてきた。
「いたっ!」
痛みが来る事は分かっていたので、耐えながら僕は玉を投げた。だが、痛みで投球のフォームが乱れて、とんでも無いところに飛んで行った。
「うがぁ」
ミサキは痛みを無視するように玉を投げて、標的に当てていく。フォームはほとんど乱れず、とても頼もしい。
電撃はけっこう痛い。隣のクラスと同様に、僕たちのクラスも手が止まり始めた。そこで僕はクラスのみんなに、こんな提案をしてみた。
「『せーの』の掛け声で、みんなで一斉に投げてみない? 電撃が散らばって、痛みが緩和するかもよ?」
「そうだな。一度、試してみるか」
ヤン太がみんなに話をして、この方法を試してみる事になる。
「じゃあ、行くぞ。せーの!」
みんなで一斉に投げようとすると、電撃は3名だけに降り注いだ。
「ぐわぁ」「痛ぇ」「なんで俺だけ」
一部からは悲鳴が上がるが、残りの人は電撃を喰らわない。無事に玉を投げきり、いくつかはモノリスに当りカウントを減らす。
「これは行けるぞ、次もコレで行くぞ!」
「おう」「やってやるぜ」
攻略法が見つかったので、僕たちのモノリスのカウントは順調に減っていく。
このやり方を見て、隣のクラスが気がついた。
「おい、あれを見てみろ!」「俺たちもやろうぜ!」
あわてて真似をし始めるが、僕たちが先に始めた分、かなり有利だった。
広がった差が縮まる事は無く、僕たちは勝利を収める事に成功する。
「私たちが勝ったわ!」
「そうだね、ミサキはかなり当てていたからね、MVPだよね」
僕が言うと、ミサキは嬉しそうに答える。
「ええ、あの状態になってから、5個は当てたからね」
得意そうに答えた。もしかして攻略法を見つけなくても、ミサキなら痛みに耐えて投げ続け、最後まで行けたかもしれない。




