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体育祭 4

 体育祭の競技のルールを、姉ちゃんが急に変更する事になった。

 とんでもないルールに変更されるのかと思ったが、パン食い競争のパンが5個に増えただけだった。この程度の変更だったら、他の学校でも出来そうだし、あまり滅茶苦茶(めちゃくちゃ)にはならなそうだ。


 担任の墨田(すみだ)先生がやってきて、僕たちのクラスに言う。


「次は、クラス全員参加の『大玉転(おおだまころ)がし』だ。グラウンドに移動するぞ」


 クラスで列を作り、僕らはスタート地点へと移動をする。



『大玉転がし』は、3メートルくらいの張りぼての大玉を転がす競技だ。うちの学校だと、スタート地点から50メートルほど先に置かれている、赤いカラーコーンを回って帰ってくればいいという、単純な競技だ。

 走る距離や、球の大きさに違いはあるが、小学生からある運動会や体育祭には一般的な種目と言える。



 先生に誘導されて、スタート地点にたどり着いたのだが、肝心(かんじん)の大玉が用意されていない。これから運び込むのだろうか?

 そう考えていると、姉ちゃんの声で、こんな放送が聞えてきた。


「本日の大玉はプレアデスグループ提供の特別品です。上空をご覧下さい」


 空を見上げると、青い空に白い点と赤い点がある。それはあっという間に大きくなり、僕らの前に舞い降りた。

 大きさは、とにかく馬鹿でかく、高さは校舎の2階部分はありそうなので、7メートルはあるんじゃないだろうか。柔らかい素材らしく、少しだけ潰れて、まんじゅうのような形をしている。


「デカすぎるだろ」「これ、動かせるのか?」


 そんな声が上がると、また放送が流れて来た。


「高校生の力で動かせるように設計してあります。それでは準備して下さい」


 本当なら動かせそうには見えないが、宇宙人の技術なら大丈夫だろう。僕らは配置につく。


「3、2、1、スタート!」


 スタートの合図と共に、僕らは自分のチームの白い大玉に向って突っ込んだ。



 ぐにゅう。僕らはボールにめり込んだ。


「うお、なんだこれ」「かなり柔らかいぞ」


 あちこちから声があがる中、ヤン太のどなり声が聞えてきた。


「柔らかくても押せ、押し続ければ動くハズだ!」


「おう」「分った」


 みんなヤン太の指示に従い、この柔らかい物体を押し続ける。これはなんだろうか? ビーズクッションの『人をダメにするクッション』に(もち)を加えたような感じだ。つかみどころがなく、とにかく柔らかい。

 それでも力任(ちからまか)せに押し続けていると、やがてゆっくりと動き出した。



 大玉は、動き出すと、どんどん加速をはじめる。一度、加速がつくと、後は順調に進むみたいだ。ただ、大玉が大きすぎて、前が全く見えない、これはちゃんとした方向に進んでいるのだろうか?


「私が先に行って誘導するわ」


 ジミ子が大玉から離れ、先行して誘導する事になった。


「気持ちだけ右側に。そうそうそのまま前にすすんで。敵のチームはかなり遅れているわ、後ろを見て」


 ジミ子に言われて、後ろをちょっとだけ振り返る。すると、敵の赤い大玉が、後ろの方に見えた。僕らのチームの半分くらいしか進んで無さそうだ。このまま行けば勝てるだろう。



「あと10メートルでカラーコーンの横を通るわ、勢いを殺さずに右周りで行くわよ。あと7メートル、5、3、1、通過したわ、全力で曲げて」


「いや、これどうやって曲げるんだ。勢いが落ちないぞ」


 キングが文句を言いながら、柔らかい大玉を思い切り引っ張って何とかしようとする。ズルズルと引きずられながら、かなり大回りで、ようやく進行方向を変える事ができた。



 ターンに成功すると、あとは一直線にゴールを目指すだけだ。僕らは再び全力で大玉を押しはじめる。すると、姉ちゃんの声で、こんなアナウンスが流れる。


「中間地点を過ぎて帰路に入ると、敵チームのトラップが現われます。気をつけて下さい」


「トラップって何だよ、どうなるんだ?」


 ヤン太がそう叫ぶと、誘導係のジミ子が、こんな事を言った。


「何だか、白い大玉に、赤い斑点(はんてん)がポツポツと現われたわ、とりあえず気をつけて」



 大玉を回していると、下から赤い斑点が上がってくるようになった。僕らはそれに触れないように大玉を回し続けるのだが……


「何が起こるのか気になるのよね。ちょっと触ってみましょう」


 ミサキが敵チームのカラーの、赤い斑点に触ろうとする。


「いや、ダメだって」


 僕が静止しようとしたが遅かった。ミサキはすでに触れた後だ。


「あれ、体が大玉からくっついて離れない。いや、まって、まってぇ!」


 ミサキの体が大玉にへばりつき、回転に合わせて上の方へと巻き込まれて行った。


「まあ、宇宙人の技術だから、安全面は大丈夫だろう。思いっきり行くぞ!」「「「おう」」」


 ヤン太が全員に号令(ごうれい)を出し、それに僕たちは答える。


「あばっ」「ちょっ」「まっ」


 ミサキは地面からせり上がってくるたびに何かを言おうとするが、僕たちは全力でボールを押し続け、見事に勝利する事が出来た。



 ちなみに、姉ちゃんから後から聞いた話だと、あのトラップは、一定時間が過ぎれば外れるようになっていて、どうやら大玉を一時的にストップさせる事を想定していたみたいだ。あのまま突っ走るとは、考えていなかったらしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 普通は止まるだろうからいい感じの勝負になってただろうに……w ミサキが悪いから当然の結果と言えるw [一言] そりゃ周りの忠告聞かずに押したらひどい目に遭っても仕方ないわww
[一言] 流石ミサキ。躊躇わない動物。
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