体育祭 3
徒競走が終り、他の学年の競技が始まった。僕らは次の出番まで時間がある。
みんなで姉ちゃんと宇宙人の所に行って、話を聞こうと近寄ると、こんな声が聞えてきた。
「最近、コンビニの焼き鳥にはまってるんですよ」
「それなら駅前の商店街の焼き鳥屋さんの食べてみてよ、肉が大きくて、コンビニよりお買い得よ」
「あの商店街なら、おでん屋さんも良いわね。練り物とか自家製で、手作りで作ってるっていう話よ」
「唐揚げのオイシイお店の、良い場所を知らないカネ?」
「それなら2丁目のお肉屋さんがお勧めよ」
「アリガト。今度、行ってみるヨ」
姉ちゃんとうちの母さん、ミサキのおばさん、そして宇宙人が、親しげに会話をしていた。
その会話の内容は、どうやらお惣菜についてらしい。すごく庶民的な内容だ。
姉ちゃんは僕をみると、声を掛けて来た。
「弟ちゃん、徒競走は残念だったね」
「うん、頑張ったけど、まあ仕方がないよ。ところでなんで姉ちゃんは見に来たの? 宇宙人さんも一緒に?」
「チーフに体育祭の話をしたら、興味があるから見たいって言い出してね。学校に確認したらOKだったから連れてきたのよ」
「あっ、そうなんだ……」
まあ、確かに宇宙人からしてみると、体育祭は珍しいだろう。ただ、うちの高校の体育祭は、わざわざ見るほどの価値は無いと思う。
「弟ちゃんは、どの種目に出るの?」
姉ちゃんが聞いてきたので、素直に答える。
「僕の参加するのは、全員参加の競技『徒競走』『大玉転がし』『綱引き』『玉入れ』『騎馬戦』と、選択競技の『障害物競走』と『チアリーディング』だよ」
「弟ちゃんがチアリーダーの格好をして『チアリーディング』をやるの? 楽しみね」
「いや、普通の体操着だよ。あまり練習してないから、つまらないと思うよ」
僕がそう言うと、なんと宇宙人がこんな事を聞いてきた。
「ツマラナイのカネ?」
「まあ、大した事はやらないので、あまり楽しめないと思いますよ」
僕が歯切れが悪い感じで言うと、宇宙人は続いて質問をしてくる。
「何か不満があるのカネ?」
その質問に、横からミサキが答えた。
「不満があります。私は『パン食い競争』に出場するんですけど、小さいパンを一つだけしか食べれないんですよ。あまりにも少なすぎると思いませんか?」
ミサキがそう言うと、ヤン太もそれに続く。
「騎馬戦も荒っぽい事が禁止になったからな、もっと荒々しくやるべきだろう」
「私は『借り物競走』に出場するんだけど、ちょっと地味なのよね」
ジミ子も文句を言い出した。流れに乗って、キングも文句を言う。
「『チアリーディング』はやっぱり恥ずかしいぜ。この格好で人前に立つのはなぁ……」
そういって、短パンのようなズボンの裾を気にする。確かに、ジャージだったらあまり恥ずかしくはないのだが、この格好でやるのは少し恥ずかしい。
みんなで不満を宇宙人にぶつけると、宇宙人はこう言った。
「分ったヨ。不満があるなら改善しないとネ」
そういって、姉ちゃんに目線を送る。すると、姉ちゃんは親指を立てて、爽やかな笑顔と共に、こう言った。
「分りました。ちょっと教員と改善策を話してきますね」
次の瞬間、姉ちゃんは教師の居るテントに走って行ってしまった。これは嫌な予感しかしない……
ヤン太がグランドの様子を見ながら言う。
「そろそろクラスの方へ戻らないと、ミサキは次の競技に参加するんだろ?」
「あっ、そうだ。早く戻らないと。じゃあ、また後で」
手を振って別れて、僕らは自分の席へと戻ってきた。
次の競技は『パン食い競争』だ、走る距離は50メートル、その途中にパンが一つぶら下がっていて、これを口で咥えるという、ごく普通の『パン食い競争』のはずだったが、急に変更が加わる。
走る距離は変らないが、途中に5個のパンがぶら下げられた。そして、姉ちゃんの声で、こんな説明の放送が流れる。
「『パン食い競争』ですが、ルールに追加があります。コース上にパンを5個、配置しました。パンを余計に咥えると、一つにつき2点のボーナスが入ります。それでは行ってみましょう」
姉ちゃんの説明が終わると、競技が始まった。
『パン食い競争』は4人で走る。1位の人に10点、2位の人に6点、3位の人に3点、4位の人はゼロだ。
大量得点を狙うなら、パンを5個咥え、1位で走り抜けるのが理想だが、もちろんそう上手くはいかない。パンを複数狙うと、走行タイムが大幅に落ちるからだ。足の速い人なら、一つを咥え、1位で走り抜けた方が得点が高い。足の遅い人は、パンを複数、狙っていった方が得点を稼げるチャンスが生まれる。
ただ、時間をかけて5個咥えると、それだけで高得点になってしまう。そこで、1位の人がゴールした時点から、30秒で時間切れになるというルールが追加された。
このルールの改善で、『パン食い競争』が意外と面白くなった。戦略性が出て来たからだ。
一つだけ咥えて、さっさとゴールをする人。
5個のうち、3つくらいを狙っていって、2位くらいを狙う人。
最初からゴールをあきらめて、時間切れまでパンにかじりつく人。
なにせ初めてのゲームなので、手探りで戦略を探っているのも面白い。
みんなが苦労しながら競技をやっている中で、ミサキはパンを5個とも素早く平らげて、1位で走りさっていった。オリンピックで、この競技があれば、ミサキは選手として出られるんじゃないだろうか?
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次回の更新はお休みします。
ちょっと前からハイファンタジーの連載も始めました。
気が向いたら見てやって下さい。
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