体育祭 2
体育祭の役割を決めてから、10日が経ち、いよいよ本番の日を迎えた。
チアリーディングの振り付けの練習は、あまり出来ていない。ぎこちない感じで、ようやく踊れている程度だ。
あまりの出来の悪さに不安になり。隣のクラスに聞いてみると、似たようなものだと教えてくれた。
その理由の一つに、チアリーディングの得点の配分があまり高くなくて、リレーなどの競技でどうにでもなると言う話だった。
これを聞いて安心した僕らは、なんとなくしか練習していないが、まあ何とかなるだろう。
朝のホームルームで、担任の墨田先生が大声で言う。
「今日は体育祭の当日だ。保護者の方々も来ている生徒も多いだろう。各自、怪我をしない範囲で頑張れ。ではこれから校庭に移動するぞ、入場行進だ」
僕らは外へと出る。
外で入場の出番を待ちながら、僕らはこんな会話をする。
「高校生になったら、親には来て欲しくないよな」
ヤン太が言うと、キングが同意をする。
「そうだよな。今年は特に女子になったから、なおさら見てほしく無いよな」
「私は見に来て欲しいわ。いつも見に来てくれているし」
ミサキがそう言うと、ジミ子がからかうように言う。
「そうね。ミサキが活躍できる貴重な機会だし」
「そんなことはないわよ。運動以外も、ちゃんと活躍できるわ」
「じゃあ、勉強やテストでも良いところを見せてみて」
「……体育祭、頑張りましょう、絶対に勝つわよ!」
ミサキは開き直った。まあ、今日だけは運動だけに集中しても良いかもしれない。
他の学年の移動が終り、やがて僕らの番になった。足並みを揃えてから、前に歩き出す。
校庭を大回りで一週するように歩き、全ての保護者の方々に見えるように練り歩く。
僕は保護者の席をよく見ていなかったのだが、ミサキが僕に聞えるようにつぶやいた。
「うちのお母さんと、ツカサのおばさんも来てるよ。あとお姉さんと宇宙人も」
「姉ちゃんは分るけど、宇宙人も?」
おもわず保護者の席を振り向いて見る。すると、そこには身長3メートルの、あの宇宙人がいた。あまりにデカすぎて一目瞭然だ。ちなみに隣には姉ちゃんが居て、僕が気がついたのを見ると手を振ってきた。
「おい、宇宙人がいるぞ」「なんでいるんだ?」
宇宙人が居ると分ると、周りがざわつき始める。本当に、なんでいるんだろうか?
とりあえず、僕のクラスの入場行進は乱れまくった。
行進が終わると整列をして、校長先生の話を聞く。今までもあまり校長先生の話は、頭に入ってこないが、今日は宇宙人が気になって、いつもより頭に入ってこない。気がつくと話が終わっていて、選手宣誓が行なわれていた。
選手宣誓が終わると、僕らは事前に外に出しておいた、自分の席に座る。
自由な時間になったので、僕の周りにクラスのみんなが集まって、こんな質問をされる。
「ツカサのお姉さんと宇宙人がいるけど、どうなってるんだ?」
「いや、僕も聞いてないよ。姉ちゃんはまだ家族だから分るけど、宇宙人はなんで来てるのか分らない」
「まあ、そうか」「あの宇宙人、何考えてるか分らないからな」
クラスのみんなで考えていると、墨田先生が声を掛けてきた。
「ほら、もう徒競走がはじまるぞ。お前ら支度をしろ!」
僕らはせかされて移動を始める。
うちの学校の徒競走は100メートル走だ。同じ様な走行タイムのグループを作り、4人が1組で走って行く。同じ様なタイムなので、誰が勝ってもおかしくない。
事前にきめられた順番に並び、出番を待つ。ちなみに、この体育祭では、半重力ブラのような、宇宙人の技術をつかった下着やスポーツ用品は禁止されている。これらを使うと、とんでもない数値が出るからだ。
ちなみに違う学校で、宇宙人のシューズを使ったところ、100メートルで10秒を切った生徒が続出したらしい。とんでもない性能だ。
次から次へと人が走って行く。やがて僕の番となった。ちなみに僕のグループには、ジミ子もいる。
ジミ子は足がかなり遅い。まあ、僕もかなり足が遅いという事だ。
スタート地点に入り、構えると、ピストルの音が鳴った。
僕が足が遅いのは、ある弱点があるからだ。今日は、その弱点を補う作戦を用意してきた。みんなは腕を大きく振って、飛び出して行くが、僕は自分の胸を両手で抱えて走り出す。
これが僕の考えた秘策だ。僕は胸が痛くて走れないので、それならば両手で固定してしまえば良い。これでかなり早く走れるハズ……
そう思ったのだが、僕は引き離されて最後尾になってしまった。どうやら走る時に、腕はあまり関係ないと思っていたのだが、そんな事はなかったらしい。あわてて途中から腕を降り始めたが、もう間に合わないほど引き離されていた。結局、僕がビリでゴールをする。
ゴールをすると、ジミ子は一位を取っていた。ジミ子くらいの胸がうらやましいが、僕が言うと皮肉と取られそうだ。余計な事は言わない方が良いだろう。




