月面旅行 24
試食を配り終え、一仕事を終えた僕たちは、ガラガラで全く人の居ない足湯に入る。
足湯のある場所は、湖を見渡せる高台にあり、靴を脱いでお湯に浸かると、ものすごい解放感に満たされた。
「はぁ~、気持ち良いわね~」
「本当にリラックスできますねぇ~」
ミサキが感想を言うと、レオ吉くんがそれに相槌を打つ。確かに二人の言う通りだ、ぬるめのお湯に疲れが溶け出していく気がする。
のんびりと湯に浸かっていると、レオ吉くんが国民の人から声を掛けられた。
「国王陛下、それは気持ちよいのですか?」
「ええ、気持ち良いですよ」
「ただ温かい水に足をつけているだけですよね?」
「言葉で説明するよりも、体験した方が早いと思います。どうぞ試してみて下さい」
「分りました。それでは失礼させて頂きます」
そういって湯に足をつける。初めは不思議がっていたが、次第に心地よさが伝わってきたらしい。
「おお、なるほど。これは素晴らしい」
その様子を見ていた周りの人たちが、突然、興味を持ち始めた。
「俺も試してみたい」「私も」「儂も」
噂はあっという間に広がり、足湯は人でごった返す。中には服を着たままジャグジーに飛び込んでいる人もいた。
「十分にあったまったから、俺たちは上がるか」
ヤン太に言われて、僕らは足湯を上がる。
「湯上がりは、やっぱりソフトクリームが乗っかったクレープよね」
そう言ってミサキは本日3回目のクレープ屋の列に並んだ。
前回から時間がかなり空いたので、今ならもう一つくらい、クレープを食べられそうだ。
「僕らも2個目を食べようか?」
「そうね、そうしましょう」
「いいですね。冷たい物が食べたくなりました」
僕がみんなに聞くと、ジミ子とレオ吉くんが返事をする。
クレープ屋に並び、アイスの乗っかったクレープをみんなで食べた。
腹の膨れた僕たちは、ゲームセンターに行く。
ゲームセンターはとても賑わっていたが、人気のあるゲームと、人気のないゲームがはっきりと別れていた。
エアーホッケー、モグラ叩き、ミニボーリング。いわゆる体を使ったミニゲームは行列が出来るほど人気だったが、ビデオゲームと言われる、モニターを使ったテレビゲームは、まったくと言って良いほど人気が無かった。
これらビデオゲームの、人気の無い理由はすぐに分る。
ゲームをプレイする国民の人を見ていると、どうやらゲームが難しすぎて、すぐにゲームオーバーになってしまうみたいだ。面白さが分る前に、全滅してしまう感じだった
これは、動物ノ王国の住人が、ゲームに対する経験がまるで無く、初心者からだろう。ボタンを押していくだけのスマフォのソシャゲーならまだしも、ゲームセンターのゲームは、反射神経、学習能力、ゲームに対してのセンスが問われる。いきなりこの手のゲームは、ハードルが高すぎたのかもしれない。
「これらのゲームでも難しのか…… 『テトルス』くらいなら出来ると思ったんだが……」
キングはそう言いながら、椅子に座り『テトルス』をプレイする。
『テトルス』とは4つの様々な形のブロックが落ちてきて、それを隙間無く埋めていくゲームだ。
キングはブロックを横一列に並べ、次々に消していく。
落ちてくるスピードはどんどん上がっていき、やがて目で追うのが難しい速度まで上がった。
こうなると、普通ならすぐにゲームオーバーになるのだが、キングは平然とプレイを続ける。
レオ吉くんが僕に聞いてくる。
「あれ、どうなっているんですか?」
「いや、どうなっているんだろうね?」
僕もそう返すしかない。反応スピードは異常な速度に達している。この異常な状態は、周りにも伝わったようで、しらない間にギャラリーが出来ていた。
「おい、なんだあれ」「おかしいぞ」
そんな声が聞えてくる。うん、確かにおかしい。
ただ、この異常な状態も、そんなに長くは続かない。やがて集中力の切れたキングは、一つのミスをしてしまい、そこからあっという間にブロックが積み上がっていく。そしてゲームオーバーになってしまった。
すると、周りから拍手が起こる。
「いやあ、すごかった」「とんでもないな」
子供達も近くに寄ってきて、こんな事を聞かれる。
「きれいなおねーちゃん、どうやったらあんなに上手くできるの」「このゲームのやり方を教えて」
「えっ、お姉ちゃん? あっ、俺の事なのか。あー、まあ、毎日やってれば、そのうち上手くなると思うけど、いくつかコツを教えてやるよ」
そう言って、いくつかのセオリーを教えていた。
キングが別のゲームをプレイする。するとギャラリーはそれについていく。
プレイをするたびにギャラリーが増えていき、ゲームを6つほどすると、身動きができないほど、人混みが膨れ上がっていた。
「そろそろゲーセンを出よう。もう無理だ」
「わかりました。いったん外へ出ましょう」
キングが根を上げたので、僕らはレオ吉くんに連れられて外に出る。
外に出ると、ジミ子が言う。
「ふう、私たちの提案したアイデアは、どれも成功したみたいね。これからどうしましょうか?」
「少し待って下さい、電話が来ました」
レオ吉くんがスマフォに出て、どこかとやり取りをしている。しばらくすると、スマフォを切って、僕たちに言う。
「どうやら準備が間に合ったようです。これから遠出してみませんか?」
「いいけど、どこへ行くの?」
僕が聞き返すと、レオ吉くんがちょっとイタズラっぽく言う。
「それは…… お楽しみという事で、どうでしょう」
「良いわ、行ってみましょう!」
ミサキが何も考えずに答えて、僕らは遠出をする事になった。
混雑の緩和してきた、公園の循環バスに乗り、僕らは公園の入り口まで行く。そこから『どこだってドア』をくぐり抜けて、スポーツ施設の前にやってきた。
そしてスポーツ施設の体育館の中に入る。重力が6分の1のエリアを通り抜け、そのまま宇宙基地の外へと繋がる扉へと進む。
通路を歩いている途中に、僕がレオ吉くんに言う。
「ちょっと待って、これ、このまま進むと、確か外に出るよね?」
「大丈夫ですよ。このまま進みます」
レオ吉くんはそう言うと、扉を抜けていく。そして、外へと通じる直前の減圧室で止まった。
僕はここで宇宙服でも着るのかと思ったが、違った。そこには四角いコンテナブロックを組み合わせた、空飛ぶバスのような乗り物があった。
レオ吉くんが僕らに説明する。
「これが、『銀色の月』と行き来が出来る『連絡船』です。これからこれで、月を一周してみようと思います」
レオ吉くんがとんでもない事を言い出した。




