月面旅行 23
僕らはクレープを食べながら、湖畔を見渡すと、いくつかの新しい建物が建っている事に気がついた。
キングの提案したゲームセンターや、ヤン太の提案したブルーギル意外の種類の釣り堀。ジミ子の提案した足湯やジャグジーができていた。
次はどこに行こうかと話し合っていると、ミサキが2個目のクレープを食べながら戻ってきた。一つ目の牧草でさすがに懲りたらしく、二つ目はごく普通の生クリームとフルーツのクレープだった。
「この生クリーム、とっても濃厚で美味しいわよ。しかも値段は150円よ。もう1個食べようかしら」
それを聞いてヤン太が答える。
「それは確かに安いけど、俺たちは食べたばかりだから、しばらく時間をおかないと食べられないぞ」
ジミ子もそれに相槌を打つ。
「そうね、他の施設で時間を潰してからにしましょう。でも、どこに行こうかしら」
僕が周りを見ながら提案してみる。
「釣り堀はどうかな? ゲームセンターはちょっと混んでいるから」
キングがゲームセンターをチラリとみて言った。
「そうだな。月面で初めてのゲーセンだから人混みが酷い。時間が経てば空いてくると思うから、釣り堀の方へ行くか」
僕らは釣り堀の方へと進む。
湖の管理所で釣り竿を借りて、エサを貰う。
「どんな魚が増えたんだろう?」
ヤン太がそう言うと、レオ吉くんが案内図の乗ったパンフレットを見せながら説明してくれる。
「ええと、一般的に釣り堀でよく見る魚を追加してます。種類ごとにエリアが別れていて、コイ、フナ、ブラックバス、ニジマス、テナガエビ、が追加されました」
それを聞いて、ミサキが突然、興味を持つ。
「ニジマスって食べられるわよね? ブルーギルみたいに、釣ったらもって帰っていいの?」
「ええ、構いません。ただ、ニジマスは釣るのが難しいみたいです。テナガエビだと簡単に釣れて、なおかつ美味しいみたいですよ」
「分ったわ。私はテナガエビを釣ってみる」
「じゃあ、私も簡単なテナガエビにするわ」
ミサキとジミ子がテナガエビに向う事になった。
「俺は難しいニジマスにするぜ」
「じゃあ俺も」
「僕もそうしようかな」
「ボクも難しい釣りという物をやってみたいです」
ヤン太、キング、僕、レオ吉くんがニジマスにチャレンジする事になった。
レオ吉くんは、ブルーギルしか釣りをした事がないそうだ。
僕らは移動した後、釣りを始める。ミサキとジミ子は遠くのエリアでキャッキャッとはしゃぎながらテナガエビを釣っていた。かなり浅瀬の所で、ザリガニ釣りのように、簡単に釣り上げる事ができるらしい。
一方、ニジマスを釣る僕らは、竿を入れてから、ピクリとも当りが来ない。
5分を過ぎると、レオ吉くんが僕らに聞いてきた。
「釣れませんね、釣り堀に、何か問題でもあるのでしょうか」
その質問にヤン太が答える。
「いや、これが普通の釣りだぜ。自然の渓流だと、一日中やってても釣れない日もあるんだ」
「えっ、そんなに釣れないんですか?」
「まあ、でも、ここは釣り堀だから、さすがに渓流と比べれば釣れるだろう。1時間で1~2匹くらい釣れるんじゃないか?」
「それでも、そんなに釣れないのですか……」
「まあ、頑張ろうぜ」
この後、僕らは、黙々と釣りを続ける。
そして1時間ほどが経過した。
結果として、ヤン太が3匹、キングが2匹、僕が2匹、レオ吉くんが1匹、釣り上げる事に成功する。
レオ吉くんは、釣り上げた時に緊張しすぎて、落としそうになっていたが、僕とヤン太がフォローをして、何とかなった。
「こんなに魚釣りって、大変だったんですね……」
ショックを受けているレオ吉くんを僕がなぐさめる。
「まあ、ニジマスは釣りにくい魚だからしょうがないよ。僕ら素人なんだから」
そんな話をしていると、ミサキとジミ子が戻ってきた。手には魚籠を持っていて、中にはテナガエビが数え切れないほど入っている。
ミサキが僕らに聞いてくる。
「こっちはこれだけ取ったけど、そっちはどう?」
「こっちは合計で8匹だ。レオ吉くんも一匹釣ったぜ」
ヤン太が答えると、ミサキがレオ吉くんを褒める。
「やるじゃないレオ吉くん。私なんて、最初に釣った時は、全く釣れなかったのよ」
「そうですか。そう考えると、これは酷い成績ではないのですね」
「そうよ。でも、こっちの状況はちょっと酷いかもね……」
そういってミサキは周りを見渡す。
このリニューアルした釣り堀には問題がある。それは人がほとんど居ない事だ。
レオ吉くんが僕らに意見を聞く。
「何とかして、人を呼び込めないでしょうかね?」
それを聞いて、ミサキがつぶやく。
「ニジマスとか、あっさりしてて美味しいのにね」
「この国の住人は、ほとんどニジマスの味を知らないと思いますよ。魚類を食べる種族は、猫の人くらいだと思いますが、ほとんど缶詰かキャットフードみたいに加工されたものでしょうし」
それを聞いて、キングがこう言った。
「それなら試食をさせてみれば良いんじゃないか? 魚の調理は、湖の管理所のロボットが出来るし、バーベキューグリルも、すぐにレンタルで持ってこれるだろう」
「それは良いですね。さっそくやりましょう。食材もありますし」
レオ吉くんが乗り気になったのだが、ミサキが険しい顔をしている。
「ちょ、ちょっと待って。レオ吉くん、もしかして、その試食の食材って……」
「ここにある、みんなで取った食材です。試食に使っても構いませんよね」
「いいぜ」「いいわよ」「いいよ」「OKだぜ」
みんながOKの返事を出す中で、ミサキだけは返事をしない。すると、ジミ子がささやくように言う。
「ほら、猫ちゃんの笑顔を見るために、食材を提供しなさいよ」
「ね、猫ちゃんのためなら…… て、提供しても良いです」
ミサキはしぶしぶOKを出す。
レオ吉くんが料理の手配をする。
「ニジマスは、そのまま塩をつけて炭火焼きにしましょうか。テナガエビは、そのまま素揚げが定番らしいので、油で揚げた後に、バターを少しかけましょう」
レオ吉くんがどこかに電話を掛けると、あっという間にバーベキューグリルとフライヤーが運ばれてきた。
魚とテナガエビはロボットによって下処理がされ、レオ吉くんが調理を始めた。
食材に火が入り、調理が始まると、匂いに釣られて国民がやってくる。ただ、魚とエビなので、肉食獣の猫や犬の人ばかり寄ってきた。
「何か美味い匂いがするぞ」「この匂いなんだ? 初めて嗅ぐ匂いだ」
人が寄ってくると、レオ吉くんが大声で告知をする。
「みなさん、これが新しく釣り堀で釣れるニジマスとテナガエビです。よければ試食してみて下さい、美味しいですよ」
「おお、国王陛下が美味しいと言っている」「ぜひとも試食しなければ」
あっという間に長い行列が出来た。レオ吉くんが僕らに聞く。
「みなさん、少し手伝ってくれますか?」
「いいよ」「いいぜ」「いいわ」
レオ吉くんが料理を作り、それを僕とジミ子とキングが小分けにして、ミサキとヤン太が配る。途中、食材が足りなくなり、ロボットに補充をしてもらいながら、試食を配り続けた。
「これは美味いな」「採れたての魚やエビって、こんなに美味かったんだ」
試食の終わった国民に、ミサキが一言、声を掛ける。
「この食材は、釣り堀に行けば手に入るわよ」
「それなら釣りをやってみるか」「よし行こう」
みんな、面白いように釣り堀に誘導される。
そして、希望者の全員の試食が終わった頃には、釣り堀は満員になっていた。
一仕事終わった僕たちに、レオ吉くんが声をかけて来た。
「すいません、アルバイトみたいな事をさせてしまって」
僕が顔を横に振りながら答える。
「そんな事、ぜんぜん気にしてないよ」
「そうよ。でもちょっと疲れたわね」
ジミ子がそう言うと、ミサキがすぐそばを指さして言う。
「あそこにある足湯で一休みしましょうか」
僕らは足湯とジャグジーのあるエリアに移動した。




