表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

464/567

月面旅行 20

 月での展望レストランの話をしていると、ミサキがこう言った。


「食べ物の話をしていると、お腹が減ってきたわね」


 時刻は夕方の4時半。晩ご飯にはまだ早いが、レオ吉くんがみんなに聞く。


「そろそろ運動を切り上げて、晩ご飯の買い出しをしましょうか。おっと、その前にシャワーですかね。この運動施設にも、もちろんシャワーはありますよ」


 それを聞いて、ヤン太がこんな事を言う。


「俺たち、着替えを持ってきてないぜ。シャワーを浴びた後に、汗まみれのシャツとか着たくないな」


「大丈夫ですよ。ロボットに持ってきてもらえばいいんです。手配しますね」


 そう言って、レオ吉くんはどこかに電話を入れる。



 僕らが歩いてシャワールールへと移動すると、そこにはロボットが既に待機していた。


「お届けに参りまシタ」


 ロボットはビニール袋を差し出してくる。中身はもちろん僕たちの着替えだった。

 手早くシャワーを浴びると、僕らはスーパーマーケットへ移動をする。



 どこだってドアをくぐり抜け、歩くこと約3分。僕らは倉庫のような巨大なスーパーマーケットに到着した。

 このスーパーに来るのは2度目なのだが、昨日と大きく違う点があった。昨日はほとんど人が居なかったのだが、今は人間と二足歩行の動物たちが(あふ)れ、活気が満ちている。


「今日は特売日なのかしら?」


 ジミ子がこの光景を見て言うと、レオ吉くんが説明してくれる。


「いえ違うと思います。昨日、このスーパーで調理の実演販売をやったら『お客さんを呼び込める』という話をしたの覚えてますか?」


「覚えているわよ。もしかして、もう実戦したの?」


「ええ、人を呼ぶために、簡単な広告を打ったらしいんですが、まさかこんなに来るなんて……」


 レオ吉くんがちょっと驚きながらつぶやいた。


「まあ、とりあえず入ってみようぜ」


 ヤン太がショッピングカートを持ってきたので、僕らはスーパーの中へと入る。



 入り口付近は野菜売り場なのだが、入ってすぐの場所に人だかりが出来ていた。


「どんな試食ができるのかしら?」


 ミサキがさっそく実演販売で作っている料理を覗く。


『牧草のラザニア』『草のペレットのソテー』『トウモロコシの蒸しパン』


 どうやら草食動物用の食事がメインらしい。『トウモロコシの蒸しパン』は人間でも食べられそうだったが、作っている所を見ると、トウモロコシの芯も砕いて入れていた。


「これ、美味しいわね」「作り方も簡単みたいだし、今晩、作ってみようかしら」


 二足歩行の牛と馬の人が、蒸しパンをバリバリと音を立てて食べている。芯の部分は、かなり硬そうで、やはり人間では食べられそうにない。


 ミサキが料理を見ながら、真剣に考えている。


「牧草のラザニア、美味しそうね。ほうれん草だと思えば食べられそう」


「人間用の試食もあると思いますから、ここは見送りましょう」


 レオ吉くんに説得されて、僕らは先へ進む。



 野菜売り場の次は、肉売り場にやってきた。ここでも実演販売をやっている。


『サイコロステーキ、チャオチェール風味』『レバー肉のブラッドジュース』『肉のあんかけチャーハン』


『肉のあんかけチャーハン』は、食べられそうな感じがしたが、ドッグフードを使っていたので、人間には向かないだろう。


「チャオチェールって人間が食べても平気なのかな? あれって、かなり美味しそうじゃない?」


「いや、やめておいた方が良いですよ」


 ミサキはレオ吉くんに止められて、僕らは次の場所へと移動する。



 しばらく進むと、また人混みが出来ていた。後ろから覗いてみると、どうやらここは人間用らしい。


『シーフードパエリア』『カレー風味の鍋』『肉豆の焼き鳥風』


 ごくごく普通の料理が並んで居た。一安心して、調理の実演を見ようとした時だ。後ろから声をかけられた。


「レオ吉殿下(でんか)。ご機嫌、(うるわ)しくございます」


 振り返ると、先日、このスーパーで出会った、国会議員のハウルさんだった。



 レオ吉くんがハウルさんの対応をする。


「こんにちはハウルさん。しかし凄い人混みですね、こんな人混みは初めてかもしれませんね」


「そうですね。この実演販売に関して、チラシを配ったのですが、ちょっとした細工をしてみました」


「どんな細工なのです?」


「これがそのチラシなのですが、分りますか?」


 ハウルさんがチラシを渡してくれる。僕はごく普通のチラシに見えたのだが、ミサキがすぐに反応した。


「このチラシから、食べ物の匂いがするわ」


 それを聞いて、ハウルさんが驚いた様子で答える。


「正解です。本当は、料理の部分をこすらないと、匂いが漂ってこないのですが、よく分りましたね」


「ええ、はい。なぜかすぐに分りました」


 さすがミサキだ。ちなみに僕らは、こすってから、チラシに鼻を近づけないと分らなかった。



 レオ吉くんが感心しながら、ハウルさんに言う。


「なるほど、動物ノ王国の住人は、匂いには敏感ですからね。これなら食欲も湧くと思いますし、素晴らしいアイデアだと思います」


「いえいえ、私のアイデアなど、大した事はありません。この人混みは、料理のレシピを提供してくれた、陛下のおかげですよ。さて、私も買い物がありますので、それでは失礼します。遅くなると妻にどやされてしまいますので」


 ハウルさんはそう言って、スーパーの奥の方へ消えていった。



「レオ吉くんが、このレシピを考えたの?」


 僕が聞くと、レオ吉くんは平然と答える。


「ええ、まあ、人間用のメニューだけですけど」


 それを聞いて、ヤン太が思い出したように言う。


「そう言えば、今晩のメニューはどうしよう? まだ決めていなかったな」


「ここに試食品があるから、これを喰って、多数決で決めれば良いんじゃないか?」


 キングの提案で、僕らは試食してから、今晩のメニューを決める事となった。


 結果は、パエリア2票、カレー風味の鍋3票、肉豆の焼き鳥風1票となり、カレー鍋に決まる。



 メニューが決まったので、食材を買おうとした時だ、ジミ子がこんな提案をする。


「カレー味だったら、大抵の食材はまとめてくれると思うの。それぞれ好きな食材を入れてみない?」


「いいですね。面白そうです」


 意外にもレオ吉くんが話に乗ってくる。


「『チャオチェール』って、火を通せば食べられるわよね」


「やめろ」「やめて」「やめてよ」「やめて下さい」


 ミサキの提案は、すぐさま全員に却下された。



 この後、それぞれが食材を持ってくる。


 ヤン太は鳥肉風味の肉豆、キングは長ネギ、ジミ子は厚揚げ、レオ吉くんは白菜、ミサキはモッツァレラチーズを、丸ごと持ってきた。僕は何にしようか迷ったが、昨日、公園で釣ったブルーギルがあるのを思い出した。あれを入れれば良いだろう。



 食材を買うと、レオ吉くんの家に戻り、早めの晩ご飯にする。

 鍋なので、食材をザックリと切って、放り込むだけだ。


 鳥肉の旨みは、鍋に溶け出し、スープは、長ネギ、厚揚げ、白菜に染みこんでいく。ブルーギルは、淡泊な味なので邪魔をしない。モッツァレラチーズは、意外にも、それぞれの味を取りまとめてくれる。このカレー味の鍋は、凄く美味しかった。


 鍋を囲いつつ、2日目の夜は()けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 擦ると匂いが出る紙とか懐かしい。 昔漫画雑誌なんかで良くありましたね
[一言] 人間型スタイルになった時、どれくらい味覚が変化しているか? 内臓の構造の変化は?など興味がつきませんね。 小型動物の時と違い塩分などの許容量も大きくなるでしょうし、死に直結する成分も無効にな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ