月面旅行 19
ミサキがトイレから戻ってきたので、僕らはサイクリングの問題点について話し合う。
「自転車に関しては、特に問題が無いと思うけど。あのクレーター山頂で、もう少し地球を眺めていたかったなぁ」
僕が思いついた事を言ってみると、ミサキが慌てて言い訳をする。
「だってしょうがないじゃない。出したくなっちゃったんだから」
ジミ子がみんなに質問をする。
「そういえば、宇宙服を来ている間って、宇宙飛行士はトイレはどうしているの?」
キングがスマフォで調べながら答える。
「うーん、調べて見ると、オムツをはく以外、手段はなさそうだな」
「さすがにオムツをはくのは、ちょっとね……」
ミサキが嫌な顔をしながら言った。誰でもオムツをはくのは嫌だろう。
「まあ、そうですね。他の手段を考えましょう」
レオ吉くんがアイデアを募集する。
「あの場所に、トイレ小屋でも作ったらどうかな?」
僕がそう言うと、ヤン太がさらにスケールを大きくする。
「それなら展望台にでもしたらどうだ。 宇宙服なしでも、あそこから地球を眺められるようにすれば、気軽に行く人が増えるだろう」
それを聞いて、ジミ子がこう言った。
「それならカフェを開いたらどうかしら? 宇宙に漂う地球を見ながら、優雅にコーヒーを飲めるの。多少、値段が高くても、利用客はお金を払うでしょう」
「カフェだったら、もっとグレードアップして展望レストランでも良いんじゃないか。フレンチとかなら、かなり高額でも、金持ちは行きたがると思うぜ」
僕の提案した『トイレ小屋』は、あっという間に、格式が高い『展望レストラン』にグレードアップした。
レストランと聞いて、ミサキがこんな事を言う。
「月面のレストランだから、月に関した食べ物が良いわね。そうなると月見そばか、月見うどんが良いわね。考えたらお腹が減ってきたわ」
ミサキの発言で、フレンチの高級レストランが、立ち食い蕎麦屋レベルまで下がってしまった。まあ、美味ければ、それでも構わないと思うけど……
この後、レオ吉くんが話をまとめ、とりあえず展望レストランを建設する流れになる。すると、別の問題が出てきた。
ヤン太が、さっきまで着ていた宇宙服を見ながらつぶやく。
「しかし、いちいち宇宙服を着て、自転車で移動するのは面倒くさいかもしれないな」
「それでは、展望レストランと直結で、どこだってドアを設置しましょうか」
レオ吉くんの提案を、キングがやんわりと否定する。
「それだと、あまりに簡単すぎるので、特別感が無いな。もうちょっと不便でも良い気がする」
「そうなると、特別な乗り物を作るか、既存の連絡船を使うしかないですね」
『連絡船』という未知の乗り物が出てきた。僕が『連絡船』について聞いてみる。
「『連絡船』ってどんなの?」
「銀色の月と月面の基地を結ぶ船ですね。基本的な行き来はどこだってドアで行ないますが、ドアの大きさに入らないような、巨大な建築資材や建設機械などは、この船で運びます。タンカーくらいの大型の物から、乗用車くらいの小さな物まで、様々な大きさがあるようですよ」
それを聞いて、ミサキが興奮しながらレオ吉くんに質問をする。
「それって、もしかして宇宙船」
「ええ、近距離を航行できる宇宙船だそうです。あっ、近距離と言っても、火星くらいは行けるようですね」
何やらすごい乗り物が出てきてしまった。
ジミ子がレオ吉くんに聞く。
「連絡船で月の名所とか回ったら良いんじゃないの?」
「うーん、それなんですが、名所という場所が無いんですよね。遠くに行っても、どこも似たような地形ですから」
僕が思いついた場所を言ってみる。
「月着陸船ポアロ11号の跡地とか行ける?」
「行けますけど、けっこう時間が掛かりますね。ここからは1500キロくらいはありますから。さすがにこの距離は『どこだってドア』で移動した方が良いと思います」
「それはちょっと遠いね。あきらめた方がよさそうだ」
「そうですね。とりあえず、連絡船の移動は、この施設から、展望レストランまでにしましょうか。本当にお客さんが来るかどうかも分りませんから」
こうして、月面では初のレストランの建築が決まった。こんな特殊な場所にあるレストランは、どれだけ値段が跳ね上がるのか、想像がまるでつかない。月で食べる月見うどんは、いくら取られるのだろう?




