月面旅行 17
フットサルを終えて、僕らは休憩に入った。
ミサキが試合を思い出しながら、こんな事を言う。
「ツカサのダイビング・ヘディングシュートをキングがキャッチしたじゃない。そうしたら、ヤン太がドロップキックで、ツカサごとゴールに押し込むのはアリなの?」
するとヤン太が説明をする。
「大丈夫だぜ、原作のマンガでもやってたし、審判のファールの笛も鳴らなかっただろ。それより、ジミ子が体にボールを挟んで、ジミ子をかつぎながらゴールに走り込むのはどうなんだ? あれ、サッカーじゃないだろ?」
「あの技もマンガにあったわよ。『アルティメット・スカイ・ダイバー・シュート』って言って、チーム全員でゴールに突っ込む技よ」
「……そう言えば、そんな技もあった気がするな」
ヤン太が非常識な技に納得してしまう。それほど『キャプテン・ツマサ』の世界は、何でもありだ。
レオ吉くんが僕らに聞く。
「とりあえず、ルールの改正は必要だと思いますが、皆さん試合は楽しめましたか?」
「楽しめたよ」「楽しかった」「面白かった」
ルールは問題だらけだと思うが、とにかく楽しかったのは確かだ。あのマンガの世界が、実際に堪能できたのだから。
フットサルは好評だったが、レオ吉くんが難しい顔をしながら、仕事の話をする。
「うーん。このスポーツ施設、月面の観光のメインコンテンツになりますかね? 重力を調整できる体育館は、地球上にも作ろうと思えば作れるので、そこまで珍しくない気がしますけど……」
それを聞いて、キングはこんな事を言った。
「大丈夫じゃないか、充分に珍しいと思うぞ。日本人はよくハワイに行くけど、海水浴なら日本でも出来るのに、わざわざハワイに行くからな。スキーやスノーボードも、海外のカナダやスイスに出かけたりするし、そんなに気にしなくても平気だろう」
「そう言われると、そうかもしれませんね。何とかなるような気がしてきました」
レオ吉くんの表情が明るくなった。ここで僕は考える。他にもっと良いアイデアはないだろうか?
「他に面白いアイデアは無いかな?」
僕がみんなに聞くと、ミサキがこんな事を言う。
「月面ならではの乗り物とかないの? UFOとか?」
その発言にレオ吉くんが真面目に答える。
「いえ、月面に乗り物はほとんどありませんね。徒歩で『どこだってドア』を使って移動するのがメインですから」
僕にある疑問に思い浮かんだ、質問をしてみる。
「あれ? そう言えばレオ吉くん、大型のバイク買ってなかったっけ? 月面では乗ってないの?」
「あっ、はい。あの公園で何度か試し乗りはしましたが、ほとんど地球でしか使ってませんね。あのバイクはスピードが出すぎるので」
「月面で移動するスピードは、自転車くらいがちょうど良いのかな?」
「そうですね。そのくらいがちょうど良いんじゃないでしょうか」
会話を聞いていたジミ子が、レオ吉くんに言う。
「それなら、サイクリングコースでも作ったらどう? 空飛ぶ自転車くらいは月面にもあるでしょう」
良い意見だと思ったので、僕もその意見に乗っかる。
「そうだね、月面ならではのコースを作れば、人が呼べるかもね」
「なるほど、一つ、コースを思いつきました。皆さんに試して欲しいのですが、よろしいでしょうか?」
「いいよ」「いいぜ」「いいわよ」
全員がOKをすると、レオ吉くんはこう言った。
「では皆さん、トイレを済ませておいて下さい。ボクがその間に手配をしておきます」
レオ吉くんが良い案を思いついたらしい。僕らは言われた通りにトイレを済ませておく。
トイレから出てくると、レオ吉くんの姿が無かった。準備のため、どこかに出かけたようだ。
僕らは、これからどんなコースを走るのか想像をする。
「昨日行った、あのデカい公園は行くだろうな」
ヤン太が昨日の出来事を思い出しながら言った。僕も、あの風景を思い浮かべながら喋る。
「確か、東京ドゥーム53個分だっけ。湖もあったし、絶対にコースに入るだろうね」
「あそこも綺麗だったけど、公園じゃなくて、住宅街の中を走るだけでも、良いかもしれないわね」
ジミ子が言うと、キングが答える。
「住宅の周りにある花壇も凄かったからな、ガーデニングとかに興味を持っている人は、公園より、そっちの方が興味があるかもな」
「イケヤは絶対に寄らなくちゃ、フードコートはあそこしかないみたいだし」
ミサキは相変わらず喰意地が張っている。だがミサキの言うことも少し分る。
「屋内で休憩できる場所が、月面では意外と少ないから、あそこは良いかもね」
僕がそう言うと、ミサキが笑顔で答える。
「そうね、あと、とにかく食べ物を出してくれないと困るわよね」
そんな話をしていると、レオ吉くんが戻ってきた。
レオ吉くんは、6体のロボットを引き連れて戻ってきた。
ロボットは、それぞれ大きな荷物をもってきている。それは、大きく分けて二つの種類がある。
一つは乗り物だ。5台の空飛ぶ自転車と、一台の空飛ぶバイク。
ちなみに自転車、バイク共に、オフロード用のぶっといタイヤが装着されていた。
もう一つは、映画やゲームなどでおなじみの宇宙服。この服が出てくるという事は……
「レオ吉くん、もしかして、自転車で外を走るの?」
「ええ、そうです。このコースなら他で真似されないでしょう。ココでしかできませんから」
どうやら僕らは、月面を自転車で走るらしい。




