月面旅行 14
重力が6分の1の環境でバスケをやろうとしたが、重力の違いでドリブルは出来ないし、シュートは入らない。まともな試合は出来そうにないが、レオ吉くんが月面でのコツを教えてくれるらしい。
「まず、シュートですが、投げ入れようとしてはいけません。直接、入れます」
そう言って大きなジャンプをして、ダンクシュートを決めてみせる。
「「おおー」」
ギャラリーの僕らは歓声を上げた。ダンクシュートは、かなりかっこいい。
レオ吉くんが引き続き説明する。
「ダンクシュートのコツは、地上と違って、あまり飛びすぎない事です。ゴールまでの高さは、3メートルと少し。身長の低いジミ子さんでも、130センチジャンプすれば届く計算です。重力が6分の1なので、約6倍飛べる計算になり、22センチほどジャンプすれば充分ですね」
「22センチだったらジャンプできるわ。私でもダンクができるのね」
ジミ子がちょっとワクワクしながら答える。
「ええ、少しダンクシュートの練習をして見ましょうか」
レオ吉くんに言われて、僕たちはダンクシュートの練習を始めた。
僕の身長だと、おそらく20センチのジャンプで届く計算だ。そう思ってジャンプをしたが、力が入りすぎたようで、飛びすぎた。ゴールのリングが、顔の目の前に来るくらいにジャンプしてしまい、すぐにボールを放り込んでから、リングを掴んで軌道修正をして地面に着地をした。
ダンクシュートは初めてやったが、かなり爽快だ。この後に何度か練習を繰り返すが、すべてゴールを決める事ができた。ダンクシュートはクセになりそうだ。
シュートの練習が終わると、こんどは次の練習に入る。
「シュートの問題は解決したけど、ドリブルはどうするの?」
僕の質問にレオ吉くんはこう答える。
「ドリブルはしません。バスケットボールでは、2歩まで歩いて平気なのは知ってますよね?」
「うん、知ってるよ。正確に言うと、3歩目の足がついた時点でダメだったかな」
「そうです。このメンバーの中で、一番、脚力の無い人はだれですか?」
「たぶん私ね」
ジミ子が返事をすると、レオ吉くんがこんな事を聞く。
「助走なしの『立ち幅跳び』で、どのくらい飛べますか?」
「ええと、150cmくらいかしら。あまり良い成績ではないけど」
「月面では6倍ほど飛べます。そうなると一歩で9メートル移動できますよね。2歩では18メートルです。バスケットのコートは、端から端28メートルですから、かなりの距離を移動できますよね」
「そうね。ルールでは3歩目の足が着地したらアウトだったから、2歩目の後にダンクシュートをすればOKよね。それだけ移動できたら、確かにドリブルする必要はなさそうだわ」
この後、僕たちは、実際に2歩でどれだけ移動できるか確認をする。ある程度の慣れは必要だが、確かに20メートルくらいは移動できそうだ。何度か練習をして、実際に試合をしてみる。チーム分けは、ヤン太、僕、ジミ子と、ミサキ、キング、レオ吉くんという分け方だ。
試合開始のジャンプボールは僕とレオ吉くんが飛ぶことになった。レオ吉くんは身長が180センチくらいあり、ジャンプボールはあっさりと向こう側に取られた。レオ吉くんが弾いたボールをキングが受け取り、それをミサキにパスをした。ボールを受け取ったミサキは、思いっきり前に踏み出す。
「まずは一歩! あれ、強すぎた!」
前に向ってジャンプをしたミサキは、一歩で10メートル以上進んだ。その結果、ボールを持ったまま、コートのエンドラインを越えてアウトになってしまう。距離によっては全力でジャンプするのは危険みたいだ。
エンドラインの向こう側から、ヤン太が僕に向ってパスをする。一歩、前に踏み出し、二歩目を進もうとすると、キングとレオ吉くんが行く手を阻む。この二人は背が高く威圧感がある。僕はジミ子へとパスを回した。
ボールを受け取ったジミ子は細かく2歩進むと、ミサキが前に出てきて妨害してくる。ジミ子はシュートの体勢をとると、ミサキは大ジャンプをする。
「止めてみせるわよ!」
するとジミ子はシュートを止めて、その場で小さくドリブルを1回やると、普通に2歩あるいて、そこからダンクシュートを決めた。ミサキはフェイントにつられてあらぬ方向に飛んで行ってしまった。
「やったわ!」
両手を上げて喜ぶジミ子。ミサキはジミ子のフェイントにまんまと引っかかった形だ。ジャンプ力がある分。一度、フェイントに引っかかって飛んでしまうと、それが致命傷になるようだ。
ボールは向こうチームに移る。レオ吉くん、とキングの間でパスを回して行く。この二人は背が高いので、背の低い僕たちは簡単には手が出せない。ジャンプをして横取りする手段はあるのだが、失敗すると先ほどのミサキのように、簡単に抜かれてしまうだろう。
じりじりとパスを回され、距離を詰められる。そしてボールはミサキに渡った。
「行くわよ!」
前に僕が立っていたのだが、ミサキは全力でジャンプをして、僕の頭の上を越えていく。そして3メートルくらいまで飛び上がると、そこからゴリラのようなダンクシュートを決めた。
「イエーイ」
ミサキとキングとレオ吉くんはハイタッチをして、守備に戻る。
僕がエンドラインの外側からヤン太へパスをする。ヤン太は大きく2歩前進すると、もう相手のゴール近くだ。ミサキとレオ吉くんがガードに入る。
2人にマークされると、ヤン太でも辛い。ジミ子にボールを送ろうとするが、ジミ子にはキングがマークについている。自然と僕にボールが回ってきた。僕はそのままダンクシュートをしようとするが、ミサキが目の前を立ちはだかる。僕は目線をヤン太に送り、そのままダンクをすると見せかけてジャンプをした。それに釣られてジャンプをするミサキ。
ヤン太は僕のサインを読み取ってくれたらしく、ゴールに向ってジャンプをしてくれた。僕は空中でヤン太にパスをすると、ヤン太はそのままダンクを決める。
「やったぜ!」「やったね!」「やったわね!」
僕らのチームはハイタッチをする。空中でパスなんて地球上では不可能に近いが、滞空時間が長いこの場所なら、比較的、簡単にできる。アクロバティックなバスケができるのも月面ならではだろう。
この後試合は、背の高いミサキのチームの方が有利に進むが、後半になってレオ吉くんがバテ初めて、僕らのチームがジリジリと追い上げる。
プロの試合では、10分を4セット、40分の試合をするらしいが、僕らは20分で試合を切り上げた。
試合は24対28で負けてしまったが、もしあと20分続けていたら、僕たちが勝っていただろう。それほどレオ吉くんは息が上がっていた。
「はぁ、はぁ、そろそろお昼の休憩にしましょうか?」
「賛成」「いいぜ」「いいよ」
レオ吉くんの提案で、僕らはお昼を迎えた。




